映画評「S-最後の警官- 奪還 RECOVERY OF OUR FUTURE」
☆☆★(5点/10点満点中)
2015年日本映画 監督・平野俊一
ネタバレあり
TBS系TVシリーズの劇場版だそうである。原作はコミック。勿論どちらも知らない。
SAT(警視庁特殊部隊)とSIT(警視庁特殊犯捜査係)という実在する官憲組織の後に組成されたことになっている、NPS(警察庁特殊急襲捜査班)なる架空の組織の活躍を描くポリティカル・サスペンスで、「天空の蜂」で自衛隊員として少しだけ出てきた向井理がNPS隊員として活躍する。題名を含めて「海猿」シリーズに近いと言えば当たらずと雖も遠からず。
このNPSの特徴が実は重要なテーマである。NPSは、SATとSITと特徴を併せ、かつ、制圧しない即ち犯人を生かして拘束するのをポリシーとしている。虫も殺せない博愛主義者だから若い時なら好感を覚える設定かもしれないが、本作鑑賞当日第一報が入ったバングラデッシュの事件を見ても人質はともかく犯人を殺さないというのは、余りに非現実的な設定としか思えず最初から興醒めるものあり。
とにかく、引退した老政治家なのであろう、NPSのようなハト派的な官憲組織の存在を面白く思わない近藤正臣扮するタカ派の老人が、それに共鳴するテロリストのオダギリジョーを使ってプルトニウム(MOX燃料)を積んだタンカーを乗っ取らせ、SATとSITとを出陣させ犯人を殺して事件を平定させることでNPSを廃止に追い込もうとするが、この三組が(睨み合った末に)協力することで青写真と違う展開になり、絶望のうちに死んでしまう。
オダギリジョーは暴走し、脅迫に応じてのこのこやって来た政府首脳を艦内に軟禁して人質とし、プルトニウムを噴出させて本当に関東を壊滅させようとする。それを海上保安庁特殊警備隊員を加えた官憲たちが阻止しようと乗り込んでくる。
日本のこの手のサスペンス特にTVドラマの映画版はヒューマニズムが重視され、どうしても組織員の家族や恋人たちの関係が絡んでくるので、ハードボイルドな作風に徹しきれず、展開が鈍重になりがちである。
本作もSATだかSITだかの隊長の子供がNPSの狙撃手・新垣結衣に撃たれて重体になる事件を入れて、現場と病院を往復することになる。向井理の事実上の恋人・吹石一恵はその病院の看護婦につきそれ以上現場と関係のない場所が出てこないのは良く、病院の描写も最小限だから贅肉感は少ない。
しかし、子供を心配してまともな活動ができないようでは日本の将来が不安になるという実際的なことを置いても、タンカーをハイジャックしてテロを起こすのに子供人質作戦は不必要なので、展開をモタモタさせるこの類のエピソードは加えて貰いたくないのである。それをやってサスペンスとともにヒューマン・ドラマとして作るのが日本映画なのだが。
映画はタカ派的な防衛術の否定こそしていないが、NPSが任務をきちんと果たすことでやはりハト派的な防衛がベターであるという日本国の在り方を主張する。これに関してどちらが正しいとは僕には言い切れない。歴史のダイナミズムに従うしかないのだと思う。
これから参院選の投票しに行ってきます。
2015年日本映画 監督・平野俊一
ネタバレあり
TBS系TVシリーズの劇場版だそうである。原作はコミック。勿論どちらも知らない。
SAT(警視庁特殊部隊)とSIT(警視庁特殊犯捜査係)という実在する官憲組織の後に組成されたことになっている、NPS(警察庁特殊急襲捜査班)なる架空の組織の活躍を描くポリティカル・サスペンスで、「天空の蜂」で自衛隊員として少しだけ出てきた向井理がNPS隊員として活躍する。題名を含めて「海猿」シリーズに近いと言えば当たらずと雖も遠からず。
このNPSの特徴が実は重要なテーマである。NPSは、SATとSITと特徴を併せ、かつ、制圧しない即ち犯人を生かして拘束するのをポリシーとしている。虫も殺せない博愛主義者だから若い時なら好感を覚える設定かもしれないが、本作鑑賞当日第一報が入ったバングラデッシュの事件を見ても人質はともかく犯人を殺さないというのは、余りに非現実的な設定としか思えず最初から興醒めるものあり。
とにかく、引退した老政治家なのであろう、NPSのようなハト派的な官憲組織の存在を面白く思わない近藤正臣扮するタカ派の老人が、それに共鳴するテロリストのオダギリジョーを使ってプルトニウム(MOX燃料)を積んだタンカーを乗っ取らせ、SATとSITとを出陣させ犯人を殺して事件を平定させることでNPSを廃止に追い込もうとするが、この三組が(睨み合った末に)協力することで青写真と違う展開になり、絶望のうちに死んでしまう。
オダギリジョーは暴走し、脅迫に応じてのこのこやって来た政府首脳を艦内に軟禁して人質とし、プルトニウムを噴出させて本当に関東を壊滅させようとする。それを海上保安庁特殊警備隊員を加えた官憲たちが阻止しようと乗り込んでくる。
日本のこの手のサスペンス特にTVドラマの映画版はヒューマニズムが重視され、どうしても組織員の家族や恋人たちの関係が絡んでくるので、ハードボイルドな作風に徹しきれず、展開が鈍重になりがちである。
本作もSATだかSITだかの隊長の子供がNPSの狙撃手・新垣結衣に撃たれて重体になる事件を入れて、現場と病院を往復することになる。向井理の事実上の恋人・吹石一恵はその病院の看護婦につきそれ以上現場と関係のない場所が出てこないのは良く、病院の描写も最小限だから贅肉感は少ない。
しかし、子供を心配してまともな活動ができないようでは日本の将来が不安になるという実際的なことを置いても、タンカーをハイジャックしてテロを起こすのに子供人質作戦は不必要なので、展開をモタモタさせるこの類のエピソードは加えて貰いたくないのである。それをやってサスペンスとともにヒューマン・ドラマとして作るのが日本映画なのだが。
映画はタカ派的な防衛術の否定こそしていないが、NPSが任務をきちんと果たすことでやはりハト派的な防衛がベターであるという日本国の在り方を主張する。これに関してどちらが正しいとは僕には言い切れない。歴史のダイナミズムに従うしかないのだと思う。
これから参院選の投票しに行ってきます。
この記事へのコメント
現実を見ると、人質もくそもないですからね。
『マッドマックス』みたいに、冷酷に描くことが出来ないのかと思いますが日本人には無理なのかな?
有言実行、この10分後に出かけました。
候補者の下の名前を間違えたことに後で気づきましたが、同じ苗字の方がほかにいないので、無効にならないはず^^;
午前中の投票率は少し悪いようですが、期日前投票者が200万人くらい増えていますので、前回を大きくマイナスすることはないと予想。
>日本人には無理なのかな?
オリンピックで緊張する日本人がだいぶ減ってきたように一時思いましたが、実際にはそうではないようで、柔道など重圧に負けるせいか、世界選手権よりメダル数が大概少ないですよね。
それと同じように、ヒューマニズムで感動させようという感覚はなくならないみたいです。ましてTVドラマの映画版ではなおさら・・・