映画評「みな殺しの霊歌」

☆☆★(5点/10点満点中)
1968年日本映画 監督・加藤泰
ネタバレあり

WOWOWの加藤泰監督特集の一本。
 碌に観ていず食わず嫌いの気があるが余り興味の持てない監督なので、「人生劇場」と本作のみ録画した。「人生劇場」は長いので後日として、異色なサスペンスらしくかつ短い本作を先に見る。

中原早苗を始めとする有閑マダムが凌辱の後殺される事件が連続する。松村達三ら警察は犯行の類似性から同一犯と見なすが、犯人の見当は全く付かない。ところが、巡査が報告してきたクリーニング店の若い男性店員の飛び降り自殺事件が、殺された女性たちと線となって繋がり、容疑者が浮かび上がってくる。
 その容疑者というのが初夜に花嫁を殺して逃亡中の男・佐藤充で、その彼がラーメン屋で働く美人・倍賞千恵子と良い仲になる。そして彼女にも暗い過去があるのが判ってくる。

というお話は、興味深いが相当変である。まず若い男が強チンされて自殺までするかどうか。年を取った人間の考えかもしれないが、将来が左右されやすい女性とは大分違うはず。
 そこを一歩譲ったとしても、たまたま顔を知っているという程度の佐藤が復讐するというのは妙ちきりんだ。佐藤の復讐との関連を知るためにも彼が数年前に起こした花嫁殺人事件の説明があってしかるべきなのに、全くないのも不満を醸成する。

但し、全体として翌年から始まる「男はつらいよ」を悲劇にしたようなムードが目立ってニヤニヤさせられ、些か過剰気味とは言え、松竹映画らしい抒情性が、モノクロによるフォトジェニックな画面の美しさと相まって、映画ならではのムードを醸成しているのは悪くない。家にいながら映画館にいるような気分になる。

昨今の映画は絵(画面)が面白くない。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2016年09月11日 16:41
中原早苗や倍賞千恵子がこういう映画に出ていたのも驚きでありますね。
オカピー
2016年09月11日 19:28
ねこのひげさん、こんにちは。

倍賞千恵子には、松本清張原作の「霧の旗」という作品があり、それと通底するダークサイドなのでした。

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