映画評「Dearダニー 君へのうた」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2015年アメリカ映画 監督ダン・フォーゲルマン
ネタバレあり
ジョン・レノンが1971年にある若手歌手に送った手紙が40年近く経ってから本人の許に届いたという実話を基にひねりだされた人生ドラマ。
1971年有望なスタートを切ったものの、当たらぬ自作での活動を止めて他人の手になる低俗ポピュラーで人気を維持してきたベテラン・ロック歌手アル・パチーノが、長年マネージャーをしてきたクリストファー・プラマーからサプライズ的贈り物を受け取る。ジョン・レノンが1971年に書いたが受け取った雑誌社社長により本人に渡されずコレクターの許にあったものを買い取った手紙である。
手紙は「成功しても自分の音楽は続けられる」という主旨の励ましの内容で、これに一念発起した彼は、30年ぶりに曲を作り、生れて以来一度もあっていない30代の息子ボビー・カナヴェイルとやり直すことを目指してツアーを止め、ホテル住まいを始める。
ホテル支配人はなかなか素敵な中年美人アネット・ベニングで、口八丁の彼は彼女と色々やり取りをしながら目標に邁進するのだが、ライブハウスでのギグで結局はファンが喜ぶ代表曲を歌う安定に逃げて自ら落ち込み、招いた息子夫婦ともぎくしゃくしてしまう。しかし、白血病の診断の出る病院で彼は、不安な様子を待っている息子に素晴らしいアドバイスをする。
力の抜けたウェルメイドな作品で、近年のパチーノ主演の作品では頭一つ抜けた内容と言っていいと思う。それは彼自身の絶妙な演技によるところが大きく、アネットとの文字通りの掛け合いも素晴らしい出来栄えで、こういう洒脱なアメリカ映画が近年減っているだけに嬉しい。
ハイライトは幕切れの一幕。これは、アルフレッド・ヒッチコックが「知りすぎていた男」(1956年)の暗殺場面で使った演出のドラマ的応用で、パチーノが「医師が苗字で呼びかけた時は余り芳しくない時、名前で呼んだ時は良い情報の時」と息子に教えるのが、観客にサスペンスを与えるツールとなっているわけ。医者がどちらを言うか観客は患者と同じ心境でそれを待つのである。そしてそれが発せられた時本編は終わる。パチーノが言い始めた時からある程度年季を踏んだ観客なら解る終わり方で、思った通りに進むから良い後味が生まれたと言うべし。
ジョンの曲は10曲かかるが、スタートが僕の好きな「労働階級の英雄」という渋さ。ジョンが息子ショーンへの思いをつづった「ビューティフル・ボーイ」が主人公の思いと重なってぐっと来る。
IMDbでは7点としたけれど、“えいや”で☆☆☆☆にしてしまおう。
良い映画なのに観ている人が少なすぎる。
2015年アメリカ映画 監督ダン・フォーゲルマン
ネタバレあり
ジョン・レノンが1971年にある若手歌手に送った手紙が40年近く経ってから本人の許に届いたという実話を基にひねりだされた人生ドラマ。
1971年有望なスタートを切ったものの、当たらぬ自作での活動を止めて他人の手になる低俗ポピュラーで人気を維持してきたベテラン・ロック歌手アル・パチーノが、長年マネージャーをしてきたクリストファー・プラマーからサプライズ的贈り物を受け取る。ジョン・レノンが1971年に書いたが受け取った雑誌社社長により本人に渡されずコレクターの許にあったものを買い取った手紙である。
手紙は「成功しても自分の音楽は続けられる」という主旨の励ましの内容で、これに一念発起した彼は、30年ぶりに曲を作り、生れて以来一度もあっていない30代の息子ボビー・カナヴェイルとやり直すことを目指してツアーを止め、ホテル住まいを始める。
ホテル支配人はなかなか素敵な中年美人アネット・ベニングで、口八丁の彼は彼女と色々やり取りをしながら目標に邁進するのだが、ライブハウスでのギグで結局はファンが喜ぶ代表曲を歌う安定に逃げて自ら落ち込み、招いた息子夫婦ともぎくしゃくしてしまう。しかし、白血病の診断の出る病院で彼は、不安な様子を待っている息子に素晴らしいアドバイスをする。
力の抜けたウェルメイドな作品で、近年のパチーノ主演の作品では頭一つ抜けた内容と言っていいと思う。それは彼自身の絶妙な演技によるところが大きく、アネットとの文字通りの掛け合いも素晴らしい出来栄えで、こういう洒脱なアメリカ映画が近年減っているだけに嬉しい。
ハイライトは幕切れの一幕。これは、アルフレッド・ヒッチコックが「知りすぎていた男」(1956年)の暗殺場面で使った演出のドラマ的応用で、パチーノが「医師が苗字で呼びかけた時は余り芳しくない時、名前で呼んだ時は良い情報の時」と息子に教えるのが、観客にサスペンスを与えるツールとなっているわけ。医者がどちらを言うか観客は患者と同じ心境でそれを待つのである。そしてそれが発せられた時本編は終わる。パチーノが言い始めた時からある程度年季を踏んだ観客なら解る終わり方で、思った通りに進むから良い後味が生まれたと言うべし。
ジョンの曲は10曲かかるが、スタートが僕の好きな「労働階級の英雄」という渋さ。ジョンが息子ショーンへの思いをつづった「ビューティフル・ボーイ」が主人公の思いと重なってぐっと来る。
IMDbでは7点としたけれど、“えいや”で☆☆☆☆にしてしまおう。
良い映画なのに観ている人が少なすぎる。
この記事へのコメント
ラストの病院の待合室でのシーンが、ヒッチコック監督の映画で用いられた演出を応用していたものだったとは、全く知りませんでした。
もし、機会があれば、もう一度観てみたいです。
良い映画でしたねえ。味わい深かったなあ。
>ヒッチコック
僕が勝手にそう思っているだけで、脚本も書いている監督がどう考えていたかは定かではありませんが、こういう見せ方はありそうで案外ないものですから、強く印象付けられたわけです。
命にはまったくかかわらないのに、入院中も予後もやっかいな胆嚢瘍という病気をわずらってしまい、しばらく仕事もセミリタイアしていました。
この作品は、入院中にDVDで観ました。レノンと、パチーノは同い年なんですね。
ジョンの、キリストよりも有名発言さえなかったら。。と今でも思うときがあります。
やっと、人並みに不摂生できるほど回復したので、早速、のどもと過ぎてなんとやら、映画3本(いずれも話題作)を久しぶりに見てまいりました。
一つ目は新海誠の「君の名は。」往年のファンというには年齢の若い僕らでさえ、え?と思う題名ですが。今のファンはもとより新海監督も昭和のメロドラマのほうはご存じないのかも・・。
この作品で、ぼくは初めてこの監督を高く評価しました。時空を超えるお話ですので、やはりアニメとタイムトラベルものは抜群の相性のようです・・。
コチラも今まさにタイムリーな映画で見ごたえは十分、ハリウッド版も悪くはなかったですが、本家が気合を入れたら一日の長があります。
自民党の石場さんは、ゴジラには災害対策での自衛隊出動となる、といっていましたが、ぼくが読んだ、防衛省の、それもかなりえらい人の見解は、「自衛隊は北朝鮮との戦争だろうが尖閣有事だろうが、現在の法体制下で、完全に必要なことが出来るシミュレーションを終えている」と。・・。
要するに憲法9条は足かせになるどころか、改憲の必要なぞゼロで、むしろ変えるべきではないとまで語っていました。
地に足の着いた信頼できる制服組を、居丈高な六本木の防衛省の背広組が牛耳る危ないシビリアンコントロールなんですね。
さて3本目は、クロード・ルルーシュとフランシス・レイ(こう聞いて喜ぶ映画ファンの中では、おそらく、ぼくらが一番若い方なんじゃないですかね?)の「アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲(プレリュード)」
この映画が最もよかったです。
さすがは昔打った篠塚(プロフェッサー流の駄洒落ですが)ならぬ、昔撮ったキネマの腕、「アーチスト」で名を残した俳優の主演ですが、オスカー受賞のあちらよりも、この作品のほうが好みです。
自分の病気のことも、よく把握していないのは肝より脳が衰えているのかもしれません(笑)
暫くいらしてないなあと思っていたら、ご病気でしたか。
僕も7年前に膵炎で入院し、ずっと薬を飲んでいます。食べるものに苦労するのが膵炎。僕の場合はアルコールはNG、油も限定的なので宴会なんか困ります。
>肝膿瘍
余り聞かない病気(?)ですが、感染症みたいですね。
是非ご自愛ください。
>キリストより有名発言
高慢と取られかねないとは言え、彼一流のジョークだったんですけどね。
>「君の名は。」
「。」がついていますが、びっくりするようなタイトルです。
>防衛省の背広組が牛耳る危ないシビリアンコントロール
少し違うニュアンスかもしれませんが、去年の東京新聞に安保法制絡みで「制服組が強くなるほうが、安心かもしれない」と逆説的に書いてありましたよ。
>クロード・ルルーシュとフランシス・レイ
おおっ!
1960年代後半から70年代前半のレイの音楽は素晴らしかったですねえ。
実は昨年、ブラックディスクが聞けるアンプを買ったので、レイの曲を収めたLPをCDにまるごと録音して暫く車で聞いていましたよ。
僕にとって映画音楽と言えば、レイとニーノ・ロータだなあ。
50年選手のルルーシュも健在でしたか。
最近は、ものぐさして新作ニュースもチェックしないから知らないことも多いですよ^^;
>昔打った篠塚
悪趣味ですみません^^;
まだ暑いので、繰り返しになりますが、ご自愛ください。
若いころは演技過剰という面もありましたが・・・
俳優が活躍する映画は見る人が少なくなりました。
>アル・パチーノ
映画デビューが僕の映画鑑賞デビューと大体同じ頃なので、半世紀近くもバリバリでやって来られたのが、何だか嬉しいですねえ。