映画評「白いドレスの女」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1981年アメリカ映画 監督ローレンス・キャスダン
ネタバレあり
ビリー・ワイルダーの傑作「深夜の告白」(1944年)の保険金奪取を相続資産奪取に変えたようなローレンス・キャスダンのスリラー。公開当時映画館で観て堪能した。
フロリダ州。女好きの弁護士ウィリアム・ハートが、公園で見そめた美人キャスリーン・ターナーを酒場で再発見して声を掛け、夫が不在と言う彼女をものにしたはいいが、彼女に実業家の夫リチャード・クレンナを殺害するようそそのかされる。かつて弁護した男ミッキー・ロークに爆弾を用意してもらった彼は、クレンナを殴殺した後、家を爆発させる。が、友人でもある検事テッド・ダンスンや刑事J・A・プレストンに探られるうちに、彼女に遺産目当てに利用されたことに気付き詰め寄ると、彼女は爆弾を仕掛けた車に自ら乗って死ぬ。しかし、彼は都合の良すぎるその死を疑って身代わり説を刑事に訴える。案の定彼女はリゾート地で気持ちよさそうに過ごしている。
夏であっても冬であっても映画館の中は快適だが、映画は序盤登場人物に「暑い」を連呼させてその暑さを我々の心理に染み込ませる。人間関係が絡むサスペンスは暑い地のほうがムードが高まり易く、観客は見事に乗せられる。
キャスダンは「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」(1980年)など脚本に実績があったが、監督は本作が初めて、俯瞰・仰角を巧みに使って恋人たちの情熱を表現し、また主人公の遠方に彼の友人たちを捉えるショットも構図的に美しいだけでなく何気なく彼らの友情と心配とを感じさせる優れたショット感覚を見せている。
しかし、本作の一番の収穫はクール・ビューティー、キャスリーン・ターナーであった。凄い悪女女優が現れたと陶然となったが、人気上昇とともに肥えて数年後にはすっかりコメディー女優と化し、僕を大いにがっかりさせたものである。相手役のウィリアム・ハートも本作でスターダムについたと言って良いだろう。暫く主役クラスとして、最近でも脇役として堅実に活躍している。
ヒロインの大勝利と思われる幕切れについて。
本編上の理解はそれで間違いないと思われるが、同時に余白を残しているように感じる。案外リクライニング・シートに横たわる姿がオーヴァーラップする「太陽がいっぱい」(1960年)の再現なのではないだろうか。獄中の主人公は卒業名簿を取り寄せ、自らの推理の正しさを確認している。これを友人の刑事らに提出すればきっと再捜査になるにちがいない。この場合一事不再理の原則がどうなるのか素人には解らないが、本来同じ被告を確定した同じ事件においてそれ以上不利にしないのがこの規定の目的だから、服役中の囚人が有利になるのが確実である以上法律上一事不再理に当たらないと素人ながら推測する。
犯罪映画としては殺人に足がつきやすい爆弾を使うのが興覚めながら、女性に溺れる男性の心理を考える時その間抜けさに寧ろ面白さが感じられる作品と言うべし。
数年前のNHK「スター・ウォーズ」特集では激しい雷雨により「帝国の逆襲」が録画できなかったが、来月のWOWOWの特集により遂にラインアップに加えられそう。再放映もあるだろうから、今度失敗することはあるまい。
1981年アメリカ映画 監督ローレンス・キャスダン
ネタバレあり
ビリー・ワイルダーの傑作「深夜の告白」(1944年)の保険金奪取を相続資産奪取に変えたようなローレンス・キャスダンのスリラー。公開当時映画館で観て堪能した。
フロリダ州。女好きの弁護士ウィリアム・ハートが、公園で見そめた美人キャスリーン・ターナーを酒場で再発見して声を掛け、夫が不在と言う彼女をものにしたはいいが、彼女に実業家の夫リチャード・クレンナを殺害するようそそのかされる。かつて弁護した男ミッキー・ロークに爆弾を用意してもらった彼は、クレンナを殴殺した後、家を爆発させる。が、友人でもある検事テッド・ダンスンや刑事J・A・プレストンに探られるうちに、彼女に遺産目当てに利用されたことに気付き詰め寄ると、彼女は爆弾を仕掛けた車に自ら乗って死ぬ。しかし、彼は都合の良すぎるその死を疑って身代わり説を刑事に訴える。案の定彼女はリゾート地で気持ちよさそうに過ごしている。
夏であっても冬であっても映画館の中は快適だが、映画は序盤登場人物に「暑い」を連呼させてその暑さを我々の心理に染み込ませる。人間関係が絡むサスペンスは暑い地のほうがムードが高まり易く、観客は見事に乗せられる。
キャスダンは「スター・ウォーズ/帝国の逆襲」(1980年)など脚本に実績があったが、監督は本作が初めて、俯瞰・仰角を巧みに使って恋人たちの情熱を表現し、また主人公の遠方に彼の友人たちを捉えるショットも構図的に美しいだけでなく何気なく彼らの友情と心配とを感じさせる優れたショット感覚を見せている。
しかし、本作の一番の収穫はクール・ビューティー、キャスリーン・ターナーであった。凄い悪女女優が現れたと陶然となったが、人気上昇とともに肥えて数年後にはすっかりコメディー女優と化し、僕を大いにがっかりさせたものである。相手役のウィリアム・ハートも本作でスターダムについたと言って良いだろう。暫く主役クラスとして、最近でも脇役として堅実に活躍している。
ヒロインの大勝利と思われる幕切れについて。
本編上の理解はそれで間違いないと思われるが、同時に余白を残しているように感じる。案外リクライニング・シートに横たわる姿がオーヴァーラップする「太陽がいっぱい」(1960年)の再現なのではないだろうか。獄中の主人公は卒業名簿を取り寄せ、自らの推理の正しさを確認している。これを友人の刑事らに提出すればきっと再捜査になるにちがいない。この場合一事不再理の原則がどうなるのか素人には解らないが、本来同じ被告を確定した同じ事件においてそれ以上不利にしないのがこの規定の目的だから、服役中の囚人が有利になるのが確実である以上法律上一事不再理に当たらないと素人ながら推測する。
犯罪映画としては殺人に足がつきやすい爆弾を使うのが興覚めながら、女性に溺れる男性の心理を考える時その間抜けさに寧ろ面白さが感じられる作品と言うべし。
数年前のNHK「スター・ウォーズ」特集では激しい雷雨により「帝国の逆襲」が録画できなかったが、来月のWOWOWの特集により遂にラインアップに加えられそう。再放映もあるだろうから、今度失敗することはあるまい。
この記事へのコメント
>フロリダ
映画の中では明確に舞台が示されなかったような気がしますが、マイアミが近くにあると想定していた感じがあり、映画サイトなどを伺うと「フロリダ」と書いてありましたので、それを採用しました。
>保険というより遺産相続・・・しくみ
頭の良い彼女としては、元来姪(義理の姪)と自分とで二分されるとなっている遺書を、わざわざ姪とその母親(夫の妹)に変えて偽造することで、自分への疑いを消した上で、法的なミスの為に遺書を無効にし、法律規定通りに妻即ち自分だけのものとする。で、疑われるのは実は文書偽造もしていない実行犯ハートとうことになる、といったところでしょうか。
>キャスリーン・ターナー
ご病気でしたか。あの容姿の劇的な変化は病気治療の為だったのでしょうか。
晩年、足に1億円の保険をかけていると言われていた歌手の朱里エイコが、病気治療のためにひどく太っていた(自分でそう仰っていた)のに驚いたものですが、似たようなことがあったのでしょうかねえ。病気は様々な意味で辛いです。
立て込んでましてお伺いするのが超遅刻!(笑)
本作「再会の時」「偶然の旅行者」
この監督さんウィリアム・ハートよくお使いでしたね。
ハートのいい時の作品でしたね。
キャスリン・ターナーありきの映画でしたけれど。(^^)
映画はムンムンの真夏でしたけれど
こっちはもう石油ストーブの登場ですわ。
>超遅刻!
忙しいことは良いことですよ^^
姐さんの場合は、本格的だから。聞いたこともないのに何ですけど、我々のカラオケ芸とは違う。
>ハート
相性が良かったんでしょうねえ(無責任な発言^^)
>キャスリン・ターナーありきの映画
当時のオールド・ファンはバーバラ・スタンウィックを思い出したでしょうね。
余り役が固定されてもつまらないけれど、彼女にはもう数本ファム・ファタール女優をやってほしかった。
>石油ストーブ
そこまでは行きませんけれど、先週は半そでだったのに、今日は5枚も重ね着している。かなり寒がりです^^;
この映画「白いドレスの女」は、美人の人妻とうだつのあがらぬ弁護士が織りなす疑心暗鬼の駆け引きを描いた、官能と犯罪のサスペンス・ドラマの傑作だと思います。
この映画は、うだつのあがらない弁護士が、官能的な美人の人妻と深い仲になり、彼女と共謀して夫を殺害し財産の横領を企みます。
そして、この計画はうまく成功して財産を手に入れますが、しかし----というストーリー。
現代に甦ったファム・ファタールの狂おしい妖しさと、この作品が監督としてのデビュー作となった、脚本家出身のローレンス・カスダンの流麗な演出力が、ねっとりと絡み合った、実に官能的な犯罪サスペンスの傑作になっていると思います。
「BODY HEAT」という原題通りに、我々観る者の心まで熱くする官能美が立ち込めています。
主人公の弁護士ネッド(ウィリアム・ハート)と人妻マティ(キャスリーン・ターナー)の二人の駆け引き、ネッドの疑心暗鬼、マティに対する疑惑などを幾つもの伏線を張りめぐらせて描き出し、ジワリジワリと真綿で首を絞めつけるようなサスペンスを盛り上げていきます。
完全犯罪だと思われていたものが、ちょっとした計算外のハプニングからガラガラと音をたてて崩れていくまでのプロセスは、まるで謎解きゲームのような面白さに満ち溢れています。
とにかく、緻密に計算されたドラマ構成であり、女の仕掛けた罠にはまってのっぴきならない事態に墜ちこむネッドの姿を、感情というものを一切排して、冷ややかなタッチで描き出したところが、この作品の素晴らしさだろうと思います。
そして、ネッドが白いドレスをまとったマティに出会う最初のシーンが何といっても、とても印象的で、フロリダ南部のうだるように暑い夜の闇の中に、くっきりと浮かび上がる純白のドレス。
そんなマティを一目見て、ネッドはすっかり魅了されてしまいます。このシーンの演出は、まさに息をのむような官能的なムードをよく表現していて、実に見事です。
こういう女性の官能的で妖しい魅力と、人間の理性を狂わせるような真夏の熱気を、鮮やかに表現した演出力をみても、ローレンス・カスダン監督は、非凡な才能の持ち主だと思わざるをえません。
純白のドレスが似合う美女が、実はドス黒い心を持っていたなんて、カスダン監督の洒落っ気のあるセンスが光ります。
ネッドとマティのパズルを思わせるような虚々実々の駆け引きを、かなりわかり易く処理して、最後には完全犯罪が失敗に終わった事を暗示して------。
そのあたりの演出は多少荒っぽいなとも感じますが、しかし、全編を通してのスムースな語り口とシャープで非情ともいえる演出感覚が、我々観る者を文句なしに画面に釘付けにしてしまうような、ピリピリとした緊張感をにじませていると思います。
それと、印象に残ったのが、ネッドの友人の検事と刑事の描き方で、フレッド・アステアの大ファンで、いつもアステアの真似をしているダンディな検事(テッド・ダンソン)。
そして、口数の少ない実直な黒人刑事(J・A・プレストン)。
この二人は、親友としてネッドの身を気遣いながら、彼の身辺に容赦なく捜査の手を伸ばしていくという、型にはまらないユニークな人物像として描いていて、この二人の存在が、この映画の大きなアクセントになっていると思うのです。
弁護士のネッドを演じたウィリアム・ハートは「蜘蛛女のキス」でアカデミー主演男優賞を受賞した、演技派の性格俳優ですが、この映画でも正義のためには損得抜きで庶民を守ろうというタイプではなく、むしろ小利口に立ち回って金儲けをしようとする、女好きの、そういう一癖のある人物を生き生きと表現しているところが見ものです。
また、ネッドを色仕掛けで夫殺しの犯罪に引きずり込む魔性の女マティを演じたキャスリーン・ターナーは、妖しい美貌とスラリとした肢体で男を狂わす魅力を、実に魅力的に発散させていて、もう惚れ惚れするほど素晴らしかったですね。
>人間の理性を狂わせるような真夏の熱気
暑さが主人公とも言うべき秀作がたまに作られますよね。
「恐怖の報酬」もそうでした。
こういうのは冬に観ると良いかもしれません^^