映画評「プリティ・ベビー」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1978年アメリカ映画 監督ルイ・マル
ネタバレあり

ルイ・マル監督のアメリカ進出後の第一作。大学時代、尊敬する批評家の先生方がこぞって高く評価していたので映画館にいそいそと出かけたが、この絵画のような映画の凄みが解るには幼すぎた。十年後くらいに再鑑賞したが、左脳人間の悲しさでまだ解らなかった。今回30年ぶりくらいの鑑賞で、少し真価に近づいた感じもしている。

1917年のニューオーリンズ、娼館に生まれ育った少女ブルック・シールズが12歳で水揚げされ、娼婦を専門に撮っている写真家キース・キャラダインに恋して、結婚した母親スーザン・サランドンが実業家の夫と新生活を求めて出て行った後、探し当てた彼の家で同棲を始め、公娼制度の廃止を経て正式に結ばれるが、安定した生活を手に入れた母親に連れ去られてしまう。

文芸用語で言えば、耽美主義の風俗映画。印象主義の絵画に写真のような緻密さを求めてはいけないように、こういう作品に起承転結による物語の面白さを求めてはいけない。ボードレールの詩でも読むように、その退廃の中にペーソスさえ漂わせる画面に浸るべき作品である。

階段の手すりを滑り下るあどけなさと、写真家が母親のほうに興味を持っているのに気づいて示す嫉妬を持つ大人っぽさと、大人たちをからかう玄人っぽさとを併せ持つ少女には、男を狂わす魔性と同時に、大人に人生を弄ばれた一種の哀れさを感じずにはいられない。知らなくても良いことを12歳で知ってしまった彼女は、最後に普通の少女にさせられるが、家族写真に納まる彼女の表情は一抹の寂しさを湛えてはいないだろうか。

とは言っても、本作の眼目はやはり1917年アメリカ南部の風俗としての絵を成すことであったのだと思う。少女が結婚した後皆して繰り出すシークエンスで、その野趣を捉えたマルのタッチは誠に鮮やか、見事と言うしかない。

ブルック・シールズの美しさは圧巻。その後出演した映画が凡作の山で、映画スターとして大成したとは言えないものの、これ一本を見れば十分という感じもする。

マルに二重マル。

この記事へのコメント

2016年11月11日 12:35
これはほんとうにロートレックやドガの絵のような美術品でしたね。題材が題材だけにきわもの視した映画評も見ましたが、露骨な描写は避けられていて、私は上等の時代劇を観たという印象を受けました。ブルック・シールズも、まだ子役といっていい年頃ですが、好演していて、たいしたものだと思いました。
オカピー
2016年11月11日 20:47
nesskoさん、こんにちは。

>きわもの視
それは余りにも映画に対する理解力がないです。
しかし、アメリカでも評価が伸びないのは、そういう誤解がかなりあるからでしょうね。
ほぼ全裸のシーンがあるので、TVではもう放送できないでしょうし、DVDもないと思っていましたら、3年前には新版が発売されているので、あの法律の影響もそこまでは伸びていないようで、ひとまずは安心。
そういう興味本位の描写は一切なく、相当素晴らしい作品ですよ。そこが解らない人は放っておきましょう^^

>ブルック・シールズ
全く成熟していない時期ならではの美しさがありましたし、演技的にもフィルモグラフィの中で本作が一番良いですね。

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