映画評「白ゆき姫殺人事件」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2014年日本映画 監督・中村義洋
ネタバレあり

湊かなえの小説は、映画化作品から判断する限り、毒もあるが後味も悪い、という感じであるが、本作は伊坂幸太郎の映画化の多い中村義洋監督が担当したせいだろうか、毒がありかつ後味の悪くない映像化作品になっている。これは取柄と言うべきであろう。

今年の前半だったか、去年後半だったか、地上波放映があったものの、2時間枠だったのでWOWOWに登場するまで待つことにした。127分の映画を2時間枠即ち90分程度の放送ではお話が分かるだけに終わる。

長野県の化粧品会社の美人社員・菜々緒が刺殺された後焼死体で発見される。彼女とパートナーを組んでいた後輩・蓮佛美沙子が、元恋人のTV放送局契約ディレクター綾野剛に連絡を入れ、菜々緒と同期入社の地味な社員・井上真央と間に起きた係長・金子ノブアキとの三角関係を語る。
 これに興味を持った彼がその情報に基づいて関係者にインタビューを敢行してTV番組を制作すると共に、ツイッターでその裏話を綴ると、大学時代の友人と称する谷村美月がその時代の秘話を語るなどして加わり、真実かどうかどうか誠に怪しい噂が形成されていく。
 ところが、TV局や噂が容疑者とするその井上真央嬢が手記に綴る事実は、火事とお祓いをめぐる幼馴染の貫地谷しほりの証言を除いて、証言者の発言と肝心なところで食い違う。

というお話の着想は、「羅生門」(1950年)のヴァリエーション。違うのはヒロインが語っていることが真実であると最終的に判ることである。映画が観客を騙す気さえなければ、そもそも死を決意する人が手記において嘘を言う必要がないわけで、それを警察が追認する形で真犯人が明らかになっていく。

テーマは噂の怖さだが、観客をそれに巻き込む形で進むのがこの映画の巧さである。証言者のいずれも真実を言いつつ、それに巧みに嘘を紛れ込ませる。映画は殺される菜々緒に関するところで省略をうまく使って場面の印象をまるで逆にすることでミスリードし、我々観客をも噂を否定できない立場に追い込むのである。そのため後半観客は目から鱗が落ちる思いがする。

省略とはさみは使いよう。

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