映画評「バルタザールどこへ行く」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1966年フランス=スウェーデン合作映画 監督ロベール・ブレッソン
ネタバレあり

ロベール・ブレッソンの作品群の中では比較的近年、多分前世紀の終わりか今世紀の初めに観た作品で、その時に妙に感銘、IMDbではその時の評価10点を付けたのだが、今回はお話の繋がりが解りにくいことが気になったので★一つ分マイナスすることにした。それでも新作なら年に一作あるかなしかの☆☆☆☆★であります。

農村の教師の娘マリーが農園主の息子ジャックと、ロバのバルタザールを慈しむが、少年が村を離れた結果バルタザールは様々な人に渡ってこき使われる。
 十年余り後、ハイティーンになったマリー(アンヌ・ヴィアゼムスキー)のもとに逃げ出したバルタザールが戻ってくるが、彼女に思慕を寄せる不良少年ジェラール(フランソワ・ラファルジュ)はバルタザールを苦役に使い尻尾に火を付けるなど虐待する。
 両親は結局彼女が面倒を見切れないとロバを他人に譲り、“人殺し”アルベール(ジャン=クロード・ジルベール)など転々として前以上の苦役に用いられる。マリーも父親の犠牲になってその最後の持ち主たる債権者の慰み者となり、やがて帰郷したジャック(ワルター・グリーン)の求愛も拒んでどこかへ出奔してしまう。
 バルタザールは再び債権者からマリーの家に戻ってくるが、父親が失意のうちに病没、ジェラール一味の窃盗に利用されて負傷、羊たちの間に迷い込んで息絶える。

バルタザールは、イエス降誕を予言した三博士の一人の名前であり、そんな名前を持つ彼が、キリスト教では人間を意味する羊の横で死んでいくのだから、キリスト教的なアングルから人間を見つめた寓話と考えて間違いないだろう。時に神の子羊、時にその子羊を導く羊飼いとも言われるイエス・キリストの生涯を一部なぞり、その他の聖人の生涯を暗示しているのかもしれない。

人の営為など知らず超然的に見えるロバが様々な艱難辛苦に苛まれ、やがて息を引き取るのを見ていると、理由も解らないまま胸を揺さぶられる。言葉にすると宗教は説教臭くなって厭らしいが、ブレッソンのミニマムな表現により視覚的に醸成される宗教性には自然と崇高な気持ちが湧き上がるのである。

タハーン~ロバと少年~」(2008年)というインド映画のロバも宗教的な香りがしました。ロバは不思議な動物です。

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