映画評「ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2014年ハンガリー=ドイツ=スウェーデン合作映画 監督コルネル・ムンドルッツォ
ネタバレあり

1970年代に流行った動物パニック映画を思い出させる内容だが、なかなか面白い。

離婚した母親と暮らす13歳の少女ジョーフィア・プソッタが、母親の3か月の海外出張の間、別れた父親ジャンドール・ジョーテールと過ごすことになるが、彼女にとっては雑種の愛犬ハーゲンがどこへ行っても邪魔にされるのが面白くない。犬を飼うと税金まで払う始末で、父親もやがて犬を捨ててしまう。直後から彼女は犬を探し始めるが、ホームレスに拾われた犬は業者に売られて闘犬として鍛えられると次第に野生の本能に目覚め、遂には保護センターの職員を襲い、他の犬たちをリードして彼らを邪険に扱った人々を襲撃し始める。

暫くは犬を失って落ち込み怒れる少女の動向と犬の野生の本能に目覚めるプロセスを交互にかなりじっくりと描いていくが、一旦ハーゲンが反旗を翻すや風雲急を告げる感じになって物凄い勢いで進行、200匹以上の犬が町中を駆けずり回る怒涛のパニック映画の様相を示し出す。緩急の効果が絶大で、娯楽映画的に俄然面白くなる。それもそれまでのじっくりした描写があればこそで、全体の構成や場面の繋ぎに些かぎこちない部分もあるものの、欧州で特に深刻になっている移民問題を背景に揺曳させ展開させた、21世紀らしい動物パニック映画として実に興味深い。

映画的に僕が気に入ったのは幕切れである。少女がオーケストラの一員の技を生かして金管楽器を吹くと犬が静かになり、伏せた犬たちに合わせて少女も伏せる。それを見て暴力で対応しようとしていた父も伏せる。
 暴力に暴力を以て対応しないという現代人のあり方をメタファーとして静かに(撮影上は超ロングで)示して感動的。主張そのものよりその見せ方が素晴らしいのである。
 70年代ならアメリカ映画でもできたかもしれないが、現在のアメリカ映画特にメジャー映画ではこういう表現はとても期待できない。

ワンちゃんの名演技に拍手。

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