映画評「ブラック・スキャンダル」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2015年アメリカ映画 監督スコット・クーパー
ネタバレあり

ジェームズ・バルジャーという実在のギャングを主人公にした実話もの。
 「ゴッドファーザー」(1972年)の大成功以来マフィアものはジャンルとして定着し、何年かおきに秀作・力作が作られる印象があるが、本作においてはマフィアは本来のイタリアン・マフィアのみを指し、アイルランド系である彼らと明確に区別して使われているので、僕もそれに則りアイルランド系はギャングと呼ぶことにする。

ボストンのチンピラだったジェームズ(ジョニー・デップ)は、1975年弟のビリー(ベネディクト・カンバーバッチ)が上院議員であることを利用してアイルランド系のチンピラたちを束ね始め、同じ頃FBI捜査官になった幼馴染ジョン・コノリー(ジョエル・エドガートン)から、マフィアを潰すために密告屋になってくれと頼まれると、そのご褒美として彼に不利な情報は全てもみ消してもらうことにする。かくして彼と関係していた人物が、身内・外部を問わず、次々と殺され、マフィア衰退の流れでジェームズはギャングのボスとして徐々に大きな力を持つようになり、コノリーもFBIでの地位を固める。

通常のボスであれば手下にやらせるであろう殺人の多くを自ら行うところに彼の異常性があり、それも飛び道具だけでなく絞殺が目立つことによりそのサイコパスぶりが際立つ構図である。
 だから、これまで作られたギャングもの・マフィアものと違って組織の結束やその瓦解を描くものではなく、殺人鬼ホラーに近い位置にある作品ということになる。

映画としては「ファーナス/訣別の朝」でもがっちりした展開ぶりを見せていたスコット・クーパーが正攻法にきちんと進めているが、やはりどこか【証文の出し遅れ】に近い印象は否めない。

金田一耕助のミステリーがまた作られたら加藤武の代わりに刑事をやってもらいたい風情のジョニー・デップの怪演を楽しむ作品と言うべし。

本年最後の記事です。今年一年ご愛顧有難うございました。来年もよろしくお願い申し上げます。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • ブラック・スキャンダル

    Excerpt: 信仰とマフィアの複雑すぎる関係 公式サイト。原題:Black Mass。ディック・レイア / ジェラード・オニール原作、スコット・クーパー監督。ジョニー・デップ、ジョエル・エドガートン、 ... Weblog: 佐藤秀の徒然幻視録 racked: 2016-12-31 10:09
  • ブラック・スキャンダル ★★★.5

    Excerpt: ジョニー・デップが主演を務めた実録クライムドラマ。実在するアイリッシュ・マフィアのボス、ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャーが裏社会でのし上がっていく姿を追う。メガホンを取るのは、『ファーナス/訣別.. Weblog: パピとママ映画のblog racked: 2016-12-31 15:23
  • 「ブラック・スキャンダル」☆主人公は誰?

    Excerpt: 久しぶりにジョニーの怪演が好評のようなので、楽しみにしていた作品。 たとえハゲでもカッコイイよ♪ というよりも、「パブリックエネミーズ」の時のような爽快なワル役でないかぎり、ジョニーに悪役はムリ! だ.. Weblog: ノルウェー暮らし・イン・原宿 racked: 2017-01-01 09:38
  • 『ブラック・スキャンダル』('16初鑑賞11・劇場)

    Excerpt: ☆☆★-- (10段階評価で 5) 1月30日(土) 109シネマズHAT神戸 シアター7にて 12:40の回を鑑賞。 Weblog: みはいる・BのB racked: 2017-01-01 13:53
  • 黒い悪夢~『ブラック・スキャンダル』

    Excerpt:  BLACK MASS  1975年、南ボストン。この街で育ったジェームズ・バルジャー(ジョニー・デ ップ)は地元を牛耳るギャングのボス、弟のビリー・バルジャー(ベネディクト・ カンバーバ.. Weblog: 真紅のthinkingdays racked: 2017-01-02 10:19
  • 「ブラック・スキャンダル」

    Excerpt: 地縁・血縁とはかように濃いものなのか。アメリカで1975年~1990年代にかけて実際にあった物語。南ボストンの「サウシー」で生まれ育った3人が…一組の兄弟とその弟の友人とが…、兄は裏社会のボス、弟は議.. Weblog: ここなつ映画レビュー racked: 2017-01-04 16:42