映画評「ザ・レジェンド」

☆☆(4点/10点満点中)
2014年中国=カナダ=フランス合作映画 監督ニック・パウエル
ネタバレあり

史実や歴史考証は気にしない方であるが、この映画では大いに気になった。中国を舞台にしながら脚本に西洋人しか絡んでいないのは、やはり大いに問題ありなのだ。

舞台は12世紀で、十字軍に参加したヘイデン・クリステンセンが恩師の騎士ニコラス・ケイジと共に、出奔先の中国王朝の内紛に巻き込まれるわけだが、英語台詞で"King"と言っているのに和訳が「皇帝」では訳が解らんということになる。特に秦以降の中国において王と皇帝とは全く別の存在だから、脚本家がどちらのつもりで書いたのか正確に解らないのは本当は重要な瑕疵である。
 12世紀の中国は宋王朝で、女真族の“金”に追われて南宋が起きた頃。皇帝なら南宋のトップということになるが、王であれば彼の臣下となる。まあ脚本家が中国の歴史を全く知らず、トップたるemperorのつもりでkingとしただけで、和訳が正しいのだろう。また、マルコ・ポーロが中国(元)を訪れるのは13世紀後半だから、12世紀で中国人とすらすらと会話ができる西洋人はまずいなかったはずである。
 そんなわけで、僕はパラレル・ワールドの中国として見ることにした。

皇帝を殺した野心溢れる皇太子シン(アンディ・オン)が、皇帝が後継者と決めていた弟シャン(チャオ・リシン)の命を狙う。シャンと彼を守る使命を受けた姉姫リアン(リウ・イーフェイ)が西域に逃避行する最中、その前に現れたクリステンセンは十字軍時代の反省から二人の用心棒となることにし、盗賊として先に中国に落ち着いていたケイジと、襲撃して来る皇太子軍に立ち向かう。

というお話がそもそも型通りで面白くない上に、カットが細切れで眼目のアクションがそれほど楽しめない。但し、引き気味のショットが多いため解りにくさがさほどないのはヨロシ。この辺はアクション映画全体に改善の動きが見られる。この十数年間の僕の問題指摘が通った格好だ。ただ、動きが滑らかでないのは相当気になる。これはデジタルとアナログとの組み合わせで起こる現象なのかもしれず、21世紀のアクション映画や戦争映画に目立つ傾向がある。

スタント関係者で本作が監督デビュー作というニック・パウエルは、芸術気取りか、ダッチ・アングル(斜め撮影)を多用する。かなりの引きでダッチ・アングルにしてもさほど効果がないだろうに、何を考えているのかねえ。凡作以下と言うべし。

日本では“レジェンド”がベテラン・スポーツ選手などに使われすぎて大安売り状態。

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