映画評「濡れた壷」

☆★(3点/10点満点中)
1976年日本映画 監督・小沼勝
ネタバレあり

そもそもロマン・ポルノを観た数が一桁だから当たり前だが、かなり作られたという小沼勝監督=谷ナオミ主演コンビの作品を観るのは初めてである。

スナックのママ谷ナオミは、母親・藤ひろ子に夫を奪われて肉体的に寂しさをかこちつつ、競馬好きの父親と浪人中の弟を養っている状態だが、そこへ母親が戻って勝手に働いてお金をせびる。
 マネキン屋の井上博一は馴染客であり、彼女の淫乱症を知っていて、父親の借金を返しに来た彼女を前にマネキンに囁くという言葉責めにより、彼女に“夕立”を起こさせる。
 彼女には真面目に付き合っている男性がいるが、少女への暴力事件で服役中の父親に面会した帰り、数多の暴力団員の視線に興奮を覚えた彼女は、男性からプレゼントされた歌舞伎観劇の切符を落として(どちらの男性を選ぶかというメタファーですな)、「“夕立”が来た」と言ってマネキン屋に電話を掛ける。

肉体的なものは全くないものの、本作もまた小沼がお得意としたと聞くSMポルノになる。SM小説にはよく出てくるらしい言葉責めが主たるアイテムであるが、ハイライトはやはり数多のマネキンに囲まれ、その中で彼がマネキンに語ることで彼女が反応してしまう場面で、マネキン自体が異様なムードを出す上に、言葉と動作を組み合わせた変態性が加わり、大袈裟に言えば尋常ならぬ迫力がある。暴力団員がお迎えの為にずらりと並ぶ場面でヒロインが一種の視姦に遭う最後の場面も見どころであろう。

実際にこんな人がいるのかどうか上品な僕は知らないが、一応勉強になる。

しかるに、総じて歌舞伎のチケットの使い方など色々と工夫がされていて上手さがあり、かつて日本でも公開されたイタリアのソフト・ポルノ群より遥かに“映画”になっていると思いつつ、変態性欲を浮かび上がらせる幕切れを見るうち何だかバカらしくなって来る、というのが実際。

1975~76年にかけてのヒット曲即ち井上陽水「Good, Good-Bye」、内藤やす子「弟よ」、南沙織「人恋しくて」が特定の状況と人物に合わせて使われているのが面白い。

今回の特集で二桁に乗ったデス、多分。

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