映画評「ぼくらの家路」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2014年ドイツ映画 監督エドワード・バーガー
ネタバレあり

この十日間ほど採点で遊んでいたことに気付かれた人はいらっしゃいますか? 3点に始まり、8点をピークに、3点に帰着する。ほぼ偶然にそうなったのだが、それも昨日で終わりで、今日から日常業務(笑)。

相変わらず邦題の【きみぼく病】が続いている。それはともかく、ドイツ製も戦争絡みばかりにあらずという映画。

10歳の少年ジャック(イヴォー・ピッツカー)は、母子家庭の母親ザーナ(ルイーゼ・ハイヤー)が仕事や男遊びにかまけて面倒を見てくれないので、6歳の弟マヌエル(ゲオルク・アルムス)の世話をしているが、ある時弟に火傷をさせたことから、弟を母が引き取り、ジャックは施設から学校へ通うことになる。
 やがて、夏季休暇が始まり迎えに来るはずの休日に母親から「迎えに行けない」という連絡があったため家に戻るが、母親はいず、電話も繋がらず、鍵が見つからないので、母親が友人に預けた弟を引きとり、二人で懸命に探し歩く。ぐるぐる巡って三度家に戻ると、やっと母親と再会、母親に甘えるのだ。

しかし、このお話の構成で「めでたしめでたし」となるわけがなく、残したメモすら母親が読んでいないことに気づいたジャック少年は弟を連れて施設に戻るのである。

「友だちのうちはどこ?」ならで「母親の居場所はどこ?」と一生懸命にかけずり回る少年を見るだけで胸が詰まる思いがする。出てくる大人たちが日本人に比べてビジネスライクな感じがするだけに、なおさらである。

どなたかが仰るように、虐待ではなく単にネグレクトを続ける母親には子供たちは愛情を覚えて甘える。しかし、実際には五十歩百歩であろう(ソーシャル・ワーカーを前に母親が騒ぐのは演技かもしれない)。少年はそれに気付き、母親を見限る。
 少年にとってはそれは正しい決断なのかもしれず、僕らも良い後味で見終えるべきなのだろうが、恐らくドイツ社会の一部を反映させているにちがいないこういう作品が作られるということ自体には暗い気持ちにならざるを得ない。大体本作に限らず、セミ・ドキュメンタリー手法の作品は暗さを内包しているとは言えまいか。

難解になる前のアンドレイ・タルコフスキーが半世紀以上前に発表した秀作は「僕の村は戦場だった」という邦題で公開された。題名において滅多に出て来ない「僕」という単語が新鮮だったのだが。

この記事へのコメント

Bianca
2016年12月06日 13:30
れっきとした虐待ですよね。ネグレクトという……。
本人は罪の意識が全然なく見た目も鬼婆アではなく若く美しいし、
目の前に子供がいればなめんばかりのかわいがり方。
子どもは、虐待されている子ほど、親を離れたがらないそうです。
十分に愛された子は、満ち足りて親を離れ、独立するとか。
それにしても幼い子が兄に教わって靴紐を結ぶ姿はけなげで涙をもよおしました。
思わず映画を離れて熱弁してしまいました。
オカピー
2016年12月06日 20:18
Biancaさん、こんにちは。

>本人は罪の意識が全然なく
きっと長男は十代で生んだのではないかなあ。昔JAROの広告で、子供が子供を育てている、とか何とかいうのがありましたが、正にそれではないでしょうか。
邦画の秀作「誰も知らない」のお母さんもそんな感じだったなあ。

>靴紐
子供というのは泣かせますね。僕もたまらなかった。

>子どもは、虐待されている子ほど、親を離れたがらないそうです。
聞いたことがあるような気がしますが、どういう心理なんでしょうかねえ。

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