古典ときどき現代文学:読書録2016
新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
さて、お馴染みになりましたわが読書録。相変わらず古い(古すぎる)のを読んでおり、周囲から呆れられつつ、自分の中では狙った獲物を一つずつ射止めているような爽快感があります。家の中が狭くならない無形コレクションという感覚もありますね。
どうしても残ってしまう巨編も今年は大分読みました。
一番長いのは「新・平家物語」ですが、これはkindleで寝る前に少しずつ読んでいる都合上、11か月かけて全体の7割が読めたところ。残り3割は本年4月に読み終わる算段。これに比べればずっと短いにしても、宮本百合子の「道標」、ジョイス「ユリシーズ」、ケラー「緑のハインリヒ」あたりは小説としてはかなり長く2週間くらいかかりました。それ以外にも長い小説が多かった。本年は中学時代から読もうと思いつつ実現できずにいる大河小説「チボー家の人々」に挑戦できますか。
ポリシーにより、読み下し分から読む漢籍と原文から読む日本の古典は自ずと時間がかかる。年末に読んだ五経関連書「春秋左氏伝」は4週間くらい、「日本書紀」が三週間くらいだったでしょうか。四書五経に関して残るは「易経」だけになり、今年制覇できそう。高校以来の夢ここに叶うことになります。
完全な和訳とは言え、思想関係も時間がかかる。シュペングラーの「西洋の没落」、ショーペンハウアー「意志と表象としての世界」。苦労したけれど、読み応えありました。後者はカントを読んでいないと理解できませんが、どちらも一読をお勧めしたい力作。20世紀以前の哲学書は大体読んだので、今年は20世紀の哲学者(例えばサルトル)に当たって行きましょうか。
こうした長いものの間に中短編や戯曲を読んで、数を稼いだ感じなのですが、今年は長々しい日本の古典や漢籍が増えそうなので、さらに絶対数が減ると予想しております。いずれにしても、健康維持が肝要。これなしに本も読めず、映画も観られませんから。
新しいものは全くありませんが、皆さんのお読みになったものはあるでしょうか?
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ニコラウス・コペルニクス
「天体の回転について」… 小学生の時読んだことが書いてあった。これが元だった
作者不明
「堤中納言物語」… 平安時代の短編集。「虫めづる姫君」はナウシカのイメージ・ソースと言われている
アルフレッド・ミュッセ
「戯れに恋はすまじ」… 恋愛心理の機微を扱って鮮やか。喜劇的悲劇と言うべし
菊池 幽芳
「己が罪」… 作り物めいていると言えばそれまでだが、よくこんな紆余曲折を考えたものだなあ
アンリ・ファーブル
「ファーブル昆虫記:第1巻」… 帰巣は出来ても巣を少しでも移すと解らないハチの奇妙
宮本 百合子
「道標」… 自伝小説。第3部で共産主義に傾きすぎるが、洋行する日本人を描いて秀逸。同テーマでは横光利一「旅愁」と双璧と言うべし
カレル・チャペック
「長い長いお医者さんの話」… 同名童話を含む9編の童話集。生活童話というらしい
上田 秋成
「春雨物語」… 十編の短編を収めた読本(よみほん。江戸後期の小説のタイプ)。中でも、日本流悪漢小説「樊噲(はんかい)」が圧巻(笑)。「恩讐の彼方に」同一素材の「捨石丸」も素敵
夏目 漱石
「野分」… 戯作の気分が未だ色濃いとは言え、近代的自我の問題も軽く提示。文章の巧さは別格
ウィリアム・シェイクスピア
「終わりよければすべて良し」… ボッカッチョっぽい話と思ったら、どうも元ネタらしい
建部 綾足
「西山物語」… 古語を多く用いた“源太騒動もの”読本。本文に古語の出典を付すというのが珍しい
アースキン・コールドウェル
「神の小さな土地」… 今村昌平がアメリカ人ならこんなお話を書くだろう
トーマス・ド・クインシー
「阿片常用者の告白」… 阿片と酒の違いに言及したところが興味深い
武者小路 実篤
「お目出たき人」… 勝手に妻と決めた女性との失恋すら都合よく解釈する主人公。相当面白い
「その妹」(再)… 失明した画家の兄に対する妹の自己犠牲。古臭そうで、そうでもない
エリナー・ポーター
「少女ポリアンナ」… あらゆること・ものに「うれしさ」を見つける少女。元気づけられますぞ!
ジェームズ・ジョイス
「ユリシーズ:第1部」… 自由間接話法を駆使した本作はとりわけ脚本のような感じがする
「ユリシーズ:第2部」… 英国文学パロディの趣きで、和訳もそれに準ずる徹底ぶりに笑った
「ユリシーズ:第3部」… 益々自由奔放になっていく。面白いねえ
阿部 次郎
「三太郎の日記 第一」… 内面に沈潜できる弱き人が強い、というのが通奏低音のような感じ
ノヴァーリス
「青い花」… 若者が探す「青い花」はロマン主義の求める精神そのものだ
A・A・ミルン
「クマのプーさん」… プーさんのおとぼけぶりが楽しいデス
アレッサンドロ・マンゾーニ
「いいなづけ」… 米騒動から関東大震災における虐殺にそっくりな流れに唖然
木下 杢太郎
「和泉屋染物店」… テロをテーマに間接的に時代の空気を鮮やかに描き出す。一幕戯曲
中村 吉蔵
「剃刀」… 床屋で髭を剃ってもらうのが怖くなります
フリードリッヒ・エンゲルス
「空想から科学へ」… 共産主義が台頭する背景としての歴史分析は恐らく正しい
アンドレ・ジッド
「未完の告白」… フェミニズムに傾倒していく少女の心情。三部作の最後を最初に読んだ
藤森 成吉
「何が彼女をそうさせたか」… ヒロインの悲しき運命に義憤が禁じ得ないが、作劇はかなり極端
アレクサンドル・デュマ・ペール
「三銃士」… ルパンを読んだ小学生時代のように血沸き肉躍りました
田山 花袋
「生」… 気難しい母親を巡る子・嫁たちの愛憎の機微を描いて迫力満点。抒情性も不足なし
アストリッド・リンドグレーン
「長くつ下のピッピ」… 規格外の少女に子供たちは解放感を味わうのだ
エドガー・アラン・ポー
「告げ口心臓」… 恐らくポーで一番映画化が多い。犯人が自白する強迫観念が主題
「邪鬼」… 上とほぼ同じテーマ
「早すぎた埋葬」… ポーは閉所をモチーフにしたお話がお好き
「黒猫」(再)… 黒猫が犯罪を引き起こし、犯人を明らかにする
「アモンティリャードの樽」… 犯人にとってハッピーエンドの「黒猫」ヴァリエーション
「本能vs,理性――黒い猫について」… 「黒猫」のモチーフになったであろう猫のお話
岩野 泡鳴
「毒薬を飲む女」… 自伝的小説。正妻も愛人も捨てて缶詰工場を始めようとする作者はまあ人非人
オズヴァルト・シュペングラー
「西洋の没落」… 全文明をアポロン的世界、ファウスト的世界に分類、世界の今後を予想しようとする。よく解らないもののそれなり面白い
ロビンドロナート・タゴール
「ギタンジャリ」… 宗教的な詩であるが、素朴で純度が高く美しい
舎人親王他(撰)
「日本書紀」… 推古天皇辺りから史書らしくなるが、最後の二巻は「首相の一日」の如き羅列
ヨハン・アウグスト・ストリンドベリ
「痴人の告白」… 自己弁護小説故に極端な表現も目立つが、細君怖いデス
アンナ・シーウェル
「黒馬物語」… 最近の映画版における馬(擬人法手法)の声に品がなかったのを思い出す
ライナー・マリア・リルケ
「ドゥイノの悲歌」… 難解ではないのによく解らない。詩は本当に難しい
新井 白石
「折たく柴の記」… 現代語訳がないので苦労す。日本の儒教が日本独特という発言が嘘と解る
パール・バック
「母の肖像」… 作者が殆ど出てこない自伝小説。自伝小説の最高峰と思う
エミール・ゾラ
「テレーズ・ラカン」… 映画「嘆きのテレーズ」と違って、欲望が欲望を消してしまう皮肉。壮絶
「広告の犠牲者」… ショートショートSFのようなブラック・ユーモア
小林 一茶
「おらが春」… 最愛の娘を失う前後の叙述が淡々としていながら胸を打つ。後世に残った秀句も多い
「父の終焉日記」… 他人事ではないですよ
アイザック・アシモフ
「鋼鉄都市」… ロボット三原則を大いに生かして面白いSFミステリー
ピエール・ロティ
「お菊さん」… 日本に対する印象はペシミスト故に褒貶相半ばながら、描写は精確と思う
佐々木 邦
「苦心の学友」… コミカルな少年小説。昭和初頭でもまだ主君への意識があったのか、という印象
ドミトリィ・メレシコフスキー
「ダ・ヴィンチ物語」… ダ・ヴィンチの作品も一つ間違えば壊されていたのかも
洪 自誠
「菜根譚」… 儒教・道教・仏教の考えに基づく箴言集。中庸的な考えが中心となっている
トマス・ペイン
「コモン・センス」… 独立寸前のアメリカに渡った英国人による反英のパンフレットだったんですねえ
落合 直文
「孝女白菊の歌」… 明治初めの人は素朴だから親を思う娘に感動したのだ
ゴットフリート・ケラー
「緑のハインリヒ」… 半自伝的ロマン主義小説。ゲーテ「ヴィルヘルム・マイスター」に似る
石川 達三
「日蔭の村」… 現在八ッ場ダム問題とダブる、ダム建設に文字通り沈む村のお話
ジャン=ポール・サルトル
「嘔吐」… 実存主義哲学を小説の形で展開させたアンチ・ロマン?
無着 成恭(編)
「山びこ学校」… 終戦後5年くらいの山形県の山村。最初の作文には思わず涙がこぼれる悲惨
ジャン=ジャック・ルソー
「告白」… ロマン主義的青春模様が面白いが、被害妄想的な後半はある意味微笑ましい
由起 しげ子
「本の話」… 童話作家としてデビューした作者の自伝的短編。具体的で実感を伴って秀逸
小谷 剛
「確証」… 流産した十代少女の担当となった医師の性欲をめぐる心理を第一人称で綴って興味深い
フーゴー・グロティウス
「戦争と平和の法:第一巻」… まだ宗教の下にあると雖も国際法の基礎を作り出した功績は大
シャルル=ルイ・フィリップ
「小さき町にて」… 貧しき町民の人生の断片を描いて味わい深い短編集
堀田 善衛
「広場の孤独」… 国際間(広場)の問題に翻弄されるジャーナリストの孤独。作者に重なるらしい
「漢奸」… 日本に協力した中国人が日本の敗戦により糾弾されるのを目撃する日本人の心境
ジョージ・ゴードン・バイロン
「海賊」… 俗世を嫌い海賊になった男の波乱万丈の人生を綴るロマン的叙事詩
ギュスターヴ・フローベール
「ブヴァールとペキュシェ」… あらゆる学問に傾倒するがうまく行かない二人の書記
辻 亮一
「異邦人」… 木枯国はどこぞやと思ったが、満州らしい。占領下日本で満州と書けなかった模様
石川 利光
「春の草」… 岩野芳鳴「毒薬を飲む女」の戦後版みたいな感じ。新味薄い
フランク・ヴェデキント
「地霊」… ルルもの第1作。
「パンドラの箱」… 映画にもなった第2作(鑑賞済)。自伝的部分も取り入れて面白い
コーネル・ウールリッチ
「恐怖の冥路」… 追われながらの犯人探しものだが、彼の作品としてはまずい部類
賀川 豊彦
「死線を越えて」… 作者の自伝的小説。明治末から大正時代にかけての下層階級の悲惨さに声を失う
ユージン・オニール
「アナ・クリスティ」… グレタ・ガルボ主演の映画版も観たことあり
「楡の木の下の欲望」… 欲望が農家の一家にもたらす壮絶な悲劇
ナサニエル・ホーソーン
「ワンダ・ブック」… ホーソーンが勝手に書き変えたギリシャ神話。メタフィクション的
ジェームズ・ヒルトン
「心の旅路」… 戦前の叙述トリックもの。一種のミステリーで、映画版も良かった
四方 赤良(撰)
「万載狂歌集」… 題名からして「千載和歌集」のパロディ。本歌取りと掛詞の面白さ。才人ぞろいだな
ヴィターリ・ビアンキ
「森の新聞:春の森」… ソ連の動植物のお勉強の始り、始り
「森の新聞:夏の森」… 共産主義国らしい部分はやや白けるが
「森の新聞:秋の森」… クイズ形式で読んできたことを復習させるアイデアが良い
「森の新聞:冬の森」… 冬は生物の活動が鈍いので、猟人が大活躍
アルフォンス・ドーデ
「サフォー」… 最後にサフォーが主人公を捨てるのは、彼の為らしい。決して悲劇ではない
ルドヴィッヒ・トーマ
「悪童物語」… ドイツには反権威的な悪童が多いのかもねえ。突然反省するのは何だけど
泉 鏡花
「日本橋」… 戯作的文章で案外読解に苦労しました。劇化されて有名になった模様
ジェームズ・ファレル
「若いロニガン」… アメリカの「悪童物語」は決して親に妥協しない
ウォルター・スコット
「アイヴァンホー」… 映画版の「黒騎士」は大昔に見た。スコットは日本で言えば吉川英治?
ジャン・アヌイ
「アンチゴーヌ」… ギリシャ悲劇「アンティゴネ」の現代化。読書では現代は想像しにくい
林 子平
「海国兵談」… 原文でもそう難しくない。研究家でもないのに読む僕は篤志家ということになろうか
イリヤ・エレンブルグ
「パリ陥落」… パリがナチスに陥落するまでの数年間を綴る群像劇。実話に沿って凄み
A・ファジェーエフ
「若き親衛隊」… こちらはナチスに占領されたソ連の若者の悲劇(実話)。ソ連だからねえ
ポール・ブールジェ
「弟子」… 緻密な心理分析が圧巻。最終的に科学万能主義に警鐘を鳴らす
鈴木 泉三郎
「生きている小平治」… 小平治は生きているのか、幽霊なのか...
岡本 綺堂
「番町皿屋敷」… 一幕二場戯曲。映画のような幽霊ものではない
D・H・ロレンス
「虹」… 描出されるのは三人の女性の心理であるが、男性のあるべき姿を訴えるのが目的
カースン・マッカラーズ
「心は孤独な狩人」… 映画「愛すれど心さびしく」の原作。決して交わらない人々の孤独
渡辺 霞亭
「土屋主税」… 四十七士に芭蕉の弟子・其角が絡むのが面白い。なかなか洒落ている
高安 月郊
「桜時雨」… 勘当した息子の妻とは知らずに彼女の人柄に惚れ込んでしまう商人のお話
ジャン=ポール・サルトル
「悪魔と神」… 善行が悪となり、悪行が善となる皮肉な歴史劇。実存主義ですよ
岡 鬼太郎
「今様薩摩歌」… 武士が預かった勘当娘に横恋慕する三角関係もの。結果的に全員死んでしまう
小山内 薫
「西山物語」… 源太物の原案も胸を打ったが、うまく劇化した本作はストレートに心を揺さぶる
E・A・ホフマン
「牡猫ムルの人生観」… ドイツ版「吾輩は猫である」は、人間の青年の伝記との螺旋二重構造
スティーヴン・クレイン
「赤い武勇章」… 最初の戦闘で逃げた兵士の揺れ動く心理を微視的に捉える
撰者不明
「拾遺和歌集」… 「古今」「後撰」に比べて技巧に走らず、滋味あふれる秀歌が多い
チャールズ・ディケンズ
「オリバー・ツイスト」(再)… 多くの映画版に比べ泥棒組織にいる描写の割合は少ない
作者不明
「夜の寝覚」… 「源氏物語」の恋愛心理描写の彫琢をさらに進めているが、些かくどい感は否めない
レオニード・アンドレーエフ
「血笑記」… 狂気に陥った兵士が戦場に世界の笑いを見出す
北原 白秋
「黒檜」… 失明寸前に追い込まれた心境を綴った名歌が多い
アグネス・ザッパー
「愛の一家」… この平和なドイツがナチスの台頭により数年後に崩れ始める
石坂 洋次郎
「青い山脈」… 映画と殆ど同じ。民主主義初めの青春像が明朗快活に楽しく描き上げられる
「草を刈る娘」… 方言を使って野趣あふれる短編
フーゴー・フォン・ホフマンスタール
「影のない女」… 21世紀のロマン主義文学。きちんと理解するのは難しい
細井 和喜蔵
「女工哀史」… 紡績業の女工さんの悲劇。なかなか凄まじい。日本人必読の書では?
ジェームズ・ケイン
「郵便配達は二度ベルを鳴らす」… ハードボイルドだけれど、ミステリーとは言えない
パーヴェル・バジョーフ
「石の花」… 石工をめぐる幻想譚。テーマは「愛は勝つ」か
「山の石工」… 上の続編、というより二部作の後篇。これでテーマは完結する
谷川 俊太郎
「二十億光年の孤独」… 戦後の詩は、かように解りやすくなったのだ
ジェラール・ド・ネルヴァル
「火の娘たち」… 短編・中編から成る作品集。多様性の中に作者の複雑怪奇さを見る
作者不明
「春秋左氏伝」… 歴史書。読了に約1ヶ月。儒教の嫌な部分が目立ち余り好きではない
アーネスト・ヘミングウェイ
「キリマンジャロの雪」(再?)… 映画版見たけれど、全く憶えていないなあ
「殺し屋」… 映画版2作と違って、あくまでシチュエーションを楽しむ短編
A・ショーペンハウアー
「意志と表象としての世界」… カントを読んでいたおかげで難しい前半も何とか。しかし、概念とイデアの区別がまだ理解できない
五味 康祐
「喪神」… 時代小説。かなり大衆的な内容なので、今なら芥川賞の対象にならないだろう
松本 清張
「或る『小倉日記』伝」… 本編以上に、この短編に未来の大推理作家を見た坂口安吾の慧眼に驚く
エドモンド・デ・アミーチス
「クオーレ」… 「母を訪ねて三千里」を収めた連作短編集。西洋文学によくある学童もので、感動的なお話が多いが、時代故に愛国的すぎるのが良し悪し
吉川 英治
「新・平家物語:ちげぐさの巻」… 平清盛の雌伏時代
「新・平家物語:九重の巻」… 保元の乱勃発までの詳細。なかなか面白い
「新・平家物語:ほげんの巻」… 平安時代(公家の時代)の終わりの始まり。上皇がお気の毒
「新・平家物語:六波羅御幸の巻」… 平治の乱は武士の権力闘争。平家は早くも傾く予兆を示す
「新・平家物語:常盤木の巻」… 常盤御前と彼女を狙う金王丸とが対峙する場面がよろし
「新・平家物語:石船の巻」… 厳島神社と築港の野心を遂げる清盛
「新・平家物語:みちのくの巻」… 逃亡する義経
「新・平家物語:火の国の巻」… 頼朝と北条政子の恋
「新・平家物語:御産の巻」… 鹿ケ谷での反平家陰謀。弁慶登場
「新・平家物語:りんねの巻」… 義経再び。雌伏していた頼政が以仁王を擁立して反旗を翻す
「新・平家物語:断橋の巻」… 以仁王と頼政の死の後、平家打倒の令旨を受ける頼朝
「新・平家物語:かまくら殿の巻」… いよいよ頼朝が挙兵する
「新・平家物語:三界の巻」… 木曽の義仲も挙兵し、頼朝とライバル関係に。清盛死す
「新・平家物語:くりからの巻」… 義仲をめぐる三人の女(巴、葵、山吹)
「新・平家物語:一門都落ちの巻」… 没落平家の件もあるが、三人の女に冬姫が加わる
「新・平家物語:京乃木曽殿の巻」… 義仲の純情と最期が印象的。冬姫哀れ
「新・平家物語:ひよどり越えの巻」… この巻の主役は義経
「新・平家物語:千手の巻」… 平重衡の最期。この小説の中でも好きな巻
さて、お馴染みになりましたわが読書録。相変わらず古い(古すぎる)のを読んでおり、周囲から呆れられつつ、自分の中では狙った獲物を一つずつ射止めているような爽快感があります。家の中が狭くならない無形コレクションという感覚もありますね。
どうしても残ってしまう巨編も今年は大分読みました。
一番長いのは「新・平家物語」ですが、これはkindleで寝る前に少しずつ読んでいる都合上、11か月かけて全体の7割が読めたところ。残り3割は本年4月に読み終わる算段。これに比べればずっと短いにしても、宮本百合子の「道標」、ジョイス「ユリシーズ」、ケラー「緑のハインリヒ」あたりは小説としてはかなり長く2週間くらいかかりました。それ以外にも長い小説が多かった。本年は中学時代から読もうと思いつつ実現できずにいる大河小説「チボー家の人々」に挑戦できますか。
ポリシーにより、読み下し分から読む漢籍と原文から読む日本の古典は自ずと時間がかかる。年末に読んだ五経関連書「春秋左氏伝」は4週間くらい、「日本書紀」が三週間くらいだったでしょうか。四書五経に関して残るは「易経」だけになり、今年制覇できそう。高校以来の夢ここに叶うことになります。
完全な和訳とは言え、思想関係も時間がかかる。シュペングラーの「西洋の没落」、ショーペンハウアー「意志と表象としての世界」。苦労したけれど、読み応えありました。後者はカントを読んでいないと理解できませんが、どちらも一読をお勧めしたい力作。20世紀以前の哲学書は大体読んだので、今年は20世紀の哲学者(例えばサルトル)に当たって行きましょうか。
こうした長いものの間に中短編や戯曲を読んで、数を稼いだ感じなのですが、今年は長々しい日本の古典や漢籍が増えそうなので、さらに絶対数が減ると予想しております。いずれにしても、健康維持が肝要。これなしに本も読めず、映画も観られませんから。
新しいものは全くありませんが、皆さんのお読みになったものはあるでしょうか?
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ニコラウス・コペルニクス
「天体の回転について」… 小学生の時読んだことが書いてあった。これが元だった
作者不明
「堤中納言物語」… 平安時代の短編集。「虫めづる姫君」はナウシカのイメージ・ソースと言われている
アルフレッド・ミュッセ
「戯れに恋はすまじ」… 恋愛心理の機微を扱って鮮やか。喜劇的悲劇と言うべし
菊池 幽芳
「己が罪」… 作り物めいていると言えばそれまでだが、よくこんな紆余曲折を考えたものだなあ
アンリ・ファーブル
「ファーブル昆虫記:第1巻」… 帰巣は出来ても巣を少しでも移すと解らないハチの奇妙
宮本 百合子
「道標」… 自伝小説。第3部で共産主義に傾きすぎるが、洋行する日本人を描いて秀逸。同テーマでは横光利一「旅愁」と双璧と言うべし
カレル・チャペック
「長い長いお医者さんの話」… 同名童話を含む9編の童話集。生活童話というらしい
上田 秋成
「春雨物語」… 十編の短編を収めた読本(よみほん。江戸後期の小説のタイプ)。中でも、日本流悪漢小説「樊噲(はんかい)」が圧巻(笑)。「恩讐の彼方に」同一素材の「捨石丸」も素敵
夏目 漱石
「野分」… 戯作の気分が未だ色濃いとは言え、近代的自我の問題も軽く提示。文章の巧さは別格
ウィリアム・シェイクスピア
「終わりよければすべて良し」… ボッカッチョっぽい話と思ったら、どうも元ネタらしい
建部 綾足
「西山物語」… 古語を多く用いた“源太騒動もの”読本。本文に古語の出典を付すというのが珍しい
アースキン・コールドウェル
「神の小さな土地」… 今村昌平がアメリカ人ならこんなお話を書くだろう
トーマス・ド・クインシー
「阿片常用者の告白」… 阿片と酒の違いに言及したところが興味深い
武者小路 実篤
「お目出たき人」… 勝手に妻と決めた女性との失恋すら都合よく解釈する主人公。相当面白い
「その妹」(再)… 失明した画家の兄に対する妹の自己犠牲。古臭そうで、そうでもない
エリナー・ポーター
「少女ポリアンナ」… あらゆること・ものに「うれしさ」を見つける少女。元気づけられますぞ!
ジェームズ・ジョイス
「ユリシーズ:第1部」… 自由間接話法を駆使した本作はとりわけ脚本のような感じがする
「ユリシーズ:第2部」… 英国文学パロディの趣きで、和訳もそれに準ずる徹底ぶりに笑った
「ユリシーズ:第3部」… 益々自由奔放になっていく。面白いねえ
阿部 次郎
「三太郎の日記 第一」… 内面に沈潜できる弱き人が強い、というのが通奏低音のような感じ
ノヴァーリス
「青い花」… 若者が探す「青い花」はロマン主義の求める精神そのものだ
A・A・ミルン
「クマのプーさん」… プーさんのおとぼけぶりが楽しいデス
アレッサンドロ・マンゾーニ
「いいなづけ」… 米騒動から関東大震災における虐殺にそっくりな流れに唖然
木下 杢太郎
「和泉屋染物店」… テロをテーマに間接的に時代の空気を鮮やかに描き出す。一幕戯曲
中村 吉蔵
「剃刀」… 床屋で髭を剃ってもらうのが怖くなります
フリードリッヒ・エンゲルス
「空想から科学へ」… 共産主義が台頭する背景としての歴史分析は恐らく正しい
アンドレ・ジッド
「未完の告白」… フェミニズムに傾倒していく少女の心情。三部作の最後を最初に読んだ
藤森 成吉
「何が彼女をそうさせたか」… ヒロインの悲しき運命に義憤が禁じ得ないが、作劇はかなり極端
アレクサンドル・デュマ・ペール
「三銃士」… ルパンを読んだ小学生時代のように血沸き肉躍りました
田山 花袋
「生」… 気難しい母親を巡る子・嫁たちの愛憎の機微を描いて迫力満点。抒情性も不足なし
アストリッド・リンドグレーン
「長くつ下のピッピ」… 規格外の少女に子供たちは解放感を味わうのだ
エドガー・アラン・ポー
「告げ口心臓」… 恐らくポーで一番映画化が多い。犯人が自白する強迫観念が主題
「邪鬼」… 上とほぼ同じテーマ
「早すぎた埋葬」… ポーは閉所をモチーフにしたお話がお好き
「黒猫」(再)… 黒猫が犯罪を引き起こし、犯人を明らかにする
「アモンティリャードの樽」… 犯人にとってハッピーエンドの「黒猫」ヴァリエーション
「本能vs,理性――黒い猫について」… 「黒猫」のモチーフになったであろう猫のお話
岩野 泡鳴
「毒薬を飲む女」… 自伝的小説。正妻も愛人も捨てて缶詰工場を始めようとする作者はまあ人非人
オズヴァルト・シュペングラー
「西洋の没落」… 全文明をアポロン的世界、ファウスト的世界に分類、世界の今後を予想しようとする。よく解らないもののそれなり面白い
ロビンドロナート・タゴール
「ギタンジャリ」… 宗教的な詩であるが、素朴で純度が高く美しい
舎人親王他(撰)
「日本書紀」… 推古天皇辺りから史書らしくなるが、最後の二巻は「首相の一日」の如き羅列
ヨハン・アウグスト・ストリンドベリ
「痴人の告白」… 自己弁護小説故に極端な表現も目立つが、細君怖いデス
アンナ・シーウェル
「黒馬物語」… 最近の映画版における馬(擬人法手法)の声に品がなかったのを思い出す
ライナー・マリア・リルケ
「ドゥイノの悲歌」… 難解ではないのによく解らない。詩は本当に難しい
新井 白石
「折たく柴の記」… 現代語訳がないので苦労す。日本の儒教が日本独特という発言が嘘と解る
パール・バック
「母の肖像」… 作者が殆ど出てこない自伝小説。自伝小説の最高峰と思う
エミール・ゾラ
「テレーズ・ラカン」… 映画「嘆きのテレーズ」と違って、欲望が欲望を消してしまう皮肉。壮絶
「広告の犠牲者」… ショートショートSFのようなブラック・ユーモア
小林 一茶
「おらが春」… 最愛の娘を失う前後の叙述が淡々としていながら胸を打つ。後世に残った秀句も多い
「父の終焉日記」… 他人事ではないですよ
アイザック・アシモフ
「鋼鉄都市」… ロボット三原則を大いに生かして面白いSFミステリー
ピエール・ロティ
「お菊さん」… 日本に対する印象はペシミスト故に褒貶相半ばながら、描写は精確と思う
佐々木 邦
「苦心の学友」… コミカルな少年小説。昭和初頭でもまだ主君への意識があったのか、という印象
ドミトリィ・メレシコフスキー
「ダ・ヴィンチ物語」… ダ・ヴィンチの作品も一つ間違えば壊されていたのかも
洪 自誠
「菜根譚」… 儒教・道教・仏教の考えに基づく箴言集。中庸的な考えが中心となっている
トマス・ペイン
「コモン・センス」… 独立寸前のアメリカに渡った英国人による反英のパンフレットだったんですねえ
落合 直文
「孝女白菊の歌」… 明治初めの人は素朴だから親を思う娘に感動したのだ
ゴットフリート・ケラー
「緑のハインリヒ」… 半自伝的ロマン主義小説。ゲーテ「ヴィルヘルム・マイスター」に似る
石川 達三
「日蔭の村」… 現在八ッ場ダム問題とダブる、ダム建設に文字通り沈む村のお話
ジャン=ポール・サルトル
「嘔吐」… 実存主義哲学を小説の形で展開させたアンチ・ロマン?
無着 成恭(編)
「山びこ学校」… 終戦後5年くらいの山形県の山村。最初の作文には思わず涙がこぼれる悲惨
ジャン=ジャック・ルソー
「告白」… ロマン主義的青春模様が面白いが、被害妄想的な後半はある意味微笑ましい
由起 しげ子
「本の話」… 童話作家としてデビューした作者の自伝的短編。具体的で実感を伴って秀逸
小谷 剛
「確証」… 流産した十代少女の担当となった医師の性欲をめぐる心理を第一人称で綴って興味深い
フーゴー・グロティウス
「戦争と平和の法:第一巻」… まだ宗教の下にあると雖も国際法の基礎を作り出した功績は大
シャルル=ルイ・フィリップ
「小さき町にて」… 貧しき町民の人生の断片を描いて味わい深い短編集
堀田 善衛
「広場の孤独」… 国際間(広場)の問題に翻弄されるジャーナリストの孤独。作者に重なるらしい
「漢奸」… 日本に協力した中国人が日本の敗戦により糾弾されるのを目撃する日本人の心境
ジョージ・ゴードン・バイロン
「海賊」… 俗世を嫌い海賊になった男の波乱万丈の人生を綴るロマン的叙事詩
ギュスターヴ・フローベール
「ブヴァールとペキュシェ」… あらゆる学問に傾倒するがうまく行かない二人の書記
辻 亮一
「異邦人」… 木枯国はどこぞやと思ったが、満州らしい。占領下日本で満州と書けなかった模様
石川 利光
「春の草」… 岩野芳鳴「毒薬を飲む女」の戦後版みたいな感じ。新味薄い
フランク・ヴェデキント
「地霊」… ルルもの第1作。
「パンドラの箱」… 映画にもなった第2作(鑑賞済)。自伝的部分も取り入れて面白い
コーネル・ウールリッチ
「恐怖の冥路」… 追われながらの犯人探しものだが、彼の作品としてはまずい部類
賀川 豊彦
「死線を越えて」… 作者の自伝的小説。明治末から大正時代にかけての下層階級の悲惨さに声を失う
ユージン・オニール
「アナ・クリスティ」… グレタ・ガルボ主演の映画版も観たことあり
「楡の木の下の欲望」… 欲望が農家の一家にもたらす壮絶な悲劇
ナサニエル・ホーソーン
「ワンダ・ブック」… ホーソーンが勝手に書き変えたギリシャ神話。メタフィクション的
ジェームズ・ヒルトン
「心の旅路」… 戦前の叙述トリックもの。一種のミステリーで、映画版も良かった
四方 赤良(撰)
「万載狂歌集」… 題名からして「千載和歌集」のパロディ。本歌取りと掛詞の面白さ。才人ぞろいだな
ヴィターリ・ビアンキ
「森の新聞:春の森」… ソ連の動植物のお勉強の始り、始り
「森の新聞:夏の森」… 共産主義国らしい部分はやや白けるが
「森の新聞:秋の森」… クイズ形式で読んできたことを復習させるアイデアが良い
「森の新聞:冬の森」… 冬は生物の活動が鈍いので、猟人が大活躍
アルフォンス・ドーデ
「サフォー」… 最後にサフォーが主人公を捨てるのは、彼の為らしい。決して悲劇ではない
ルドヴィッヒ・トーマ
「悪童物語」… ドイツには反権威的な悪童が多いのかもねえ。突然反省するのは何だけど
泉 鏡花
「日本橋」… 戯作的文章で案外読解に苦労しました。劇化されて有名になった模様
ジェームズ・ファレル
「若いロニガン」… アメリカの「悪童物語」は決して親に妥協しない
ウォルター・スコット
「アイヴァンホー」… 映画版の「黒騎士」は大昔に見た。スコットは日本で言えば吉川英治?
ジャン・アヌイ
「アンチゴーヌ」… ギリシャ悲劇「アンティゴネ」の現代化。読書では現代は想像しにくい
林 子平
「海国兵談」… 原文でもそう難しくない。研究家でもないのに読む僕は篤志家ということになろうか
イリヤ・エレンブルグ
「パリ陥落」… パリがナチスに陥落するまでの数年間を綴る群像劇。実話に沿って凄み
A・ファジェーエフ
「若き親衛隊」… こちらはナチスに占領されたソ連の若者の悲劇(実話)。ソ連だからねえ
ポール・ブールジェ
「弟子」… 緻密な心理分析が圧巻。最終的に科学万能主義に警鐘を鳴らす
鈴木 泉三郎
「生きている小平治」… 小平治は生きているのか、幽霊なのか...
岡本 綺堂
「番町皿屋敷」… 一幕二場戯曲。映画のような幽霊ものではない
D・H・ロレンス
「虹」… 描出されるのは三人の女性の心理であるが、男性のあるべき姿を訴えるのが目的
カースン・マッカラーズ
「心は孤独な狩人」… 映画「愛すれど心さびしく」の原作。決して交わらない人々の孤独
渡辺 霞亭
「土屋主税」… 四十七士に芭蕉の弟子・其角が絡むのが面白い。なかなか洒落ている
高安 月郊
「桜時雨」… 勘当した息子の妻とは知らずに彼女の人柄に惚れ込んでしまう商人のお話
ジャン=ポール・サルトル
「悪魔と神」… 善行が悪となり、悪行が善となる皮肉な歴史劇。実存主義ですよ
岡 鬼太郎
「今様薩摩歌」… 武士が預かった勘当娘に横恋慕する三角関係もの。結果的に全員死んでしまう
小山内 薫
「西山物語」… 源太物の原案も胸を打ったが、うまく劇化した本作はストレートに心を揺さぶる
E・A・ホフマン
「牡猫ムルの人生観」… ドイツ版「吾輩は猫である」は、人間の青年の伝記との螺旋二重構造
スティーヴン・クレイン
「赤い武勇章」… 最初の戦闘で逃げた兵士の揺れ動く心理を微視的に捉える
撰者不明
「拾遺和歌集」… 「古今」「後撰」に比べて技巧に走らず、滋味あふれる秀歌が多い
チャールズ・ディケンズ
「オリバー・ツイスト」(再)… 多くの映画版に比べ泥棒組織にいる描写の割合は少ない
作者不明
「夜の寝覚」… 「源氏物語」の恋愛心理描写の彫琢をさらに進めているが、些かくどい感は否めない
レオニード・アンドレーエフ
「血笑記」… 狂気に陥った兵士が戦場に世界の笑いを見出す
北原 白秋
「黒檜」… 失明寸前に追い込まれた心境を綴った名歌が多い
アグネス・ザッパー
「愛の一家」… この平和なドイツがナチスの台頭により数年後に崩れ始める
石坂 洋次郎
「青い山脈」… 映画と殆ど同じ。民主主義初めの青春像が明朗快活に楽しく描き上げられる
「草を刈る娘」… 方言を使って野趣あふれる短編
フーゴー・フォン・ホフマンスタール
「影のない女」… 21世紀のロマン主義文学。きちんと理解するのは難しい
細井 和喜蔵
「女工哀史」… 紡績業の女工さんの悲劇。なかなか凄まじい。日本人必読の書では?
ジェームズ・ケイン
「郵便配達は二度ベルを鳴らす」… ハードボイルドだけれど、ミステリーとは言えない
パーヴェル・バジョーフ
「石の花」… 石工をめぐる幻想譚。テーマは「愛は勝つ」か
「山の石工」… 上の続編、というより二部作の後篇。これでテーマは完結する
谷川 俊太郎
「二十億光年の孤独」… 戦後の詩は、かように解りやすくなったのだ
ジェラール・ド・ネルヴァル
「火の娘たち」… 短編・中編から成る作品集。多様性の中に作者の複雑怪奇さを見る
作者不明
「春秋左氏伝」… 歴史書。読了に約1ヶ月。儒教の嫌な部分が目立ち余り好きではない
アーネスト・ヘミングウェイ
「キリマンジャロの雪」(再?)… 映画版見たけれど、全く憶えていないなあ
「殺し屋」… 映画版2作と違って、あくまでシチュエーションを楽しむ短編
A・ショーペンハウアー
「意志と表象としての世界」… カントを読んでいたおかげで難しい前半も何とか。しかし、概念とイデアの区別がまだ理解できない
五味 康祐
「喪神」… 時代小説。かなり大衆的な内容なので、今なら芥川賞の対象にならないだろう
松本 清張
「或る『小倉日記』伝」… 本編以上に、この短編に未来の大推理作家を見た坂口安吾の慧眼に驚く
エドモンド・デ・アミーチス
「クオーレ」… 「母を訪ねて三千里」を収めた連作短編集。西洋文学によくある学童もので、感動的なお話が多いが、時代故に愛国的すぎるのが良し悪し
吉川 英治
「新・平家物語:ちげぐさの巻」… 平清盛の雌伏時代
「新・平家物語:九重の巻」… 保元の乱勃発までの詳細。なかなか面白い
「新・平家物語:ほげんの巻」… 平安時代(公家の時代)の終わりの始まり。上皇がお気の毒
「新・平家物語:六波羅御幸の巻」… 平治の乱は武士の権力闘争。平家は早くも傾く予兆を示す
「新・平家物語:常盤木の巻」… 常盤御前と彼女を狙う金王丸とが対峙する場面がよろし
「新・平家物語:石船の巻」… 厳島神社と築港の野心を遂げる清盛
「新・平家物語:みちのくの巻」… 逃亡する義経
「新・平家物語:火の国の巻」… 頼朝と北条政子の恋
「新・平家物語:御産の巻」… 鹿ケ谷での反平家陰謀。弁慶登場
「新・平家物語:りんねの巻」… 義経再び。雌伏していた頼政が以仁王を擁立して反旗を翻す
「新・平家物語:断橋の巻」… 以仁王と頼政の死の後、平家打倒の令旨を受ける頼朝
「新・平家物語:かまくら殿の巻」… いよいよ頼朝が挙兵する
「新・平家物語:三界の巻」… 木曽の義仲も挙兵し、頼朝とライバル関係に。清盛死す
「新・平家物語:くりからの巻」… 義仲をめぐる三人の女(巴、葵、山吹)
「新・平家物語:一門都落ちの巻」… 没落平家の件もあるが、三人の女に冬姫が加わる
「新・平家物語:京乃木曽殿の巻」… 義仲の純情と最期が印象的。冬姫哀れ
「新・平家物語:ひよどり越えの巻」… この巻の主役は義経
「新・平家物語:千手の巻」… 平重衡の最期。この小説の中でも好きな巻
この記事へのコメント
オカピーさんは読書家ですねえ。
とても素晴らしいと思います。いつも若々しい映画評も、こういった基盤があるからなのでしょうね。わたしも少しでも読書の機会を作っていきたいと考えています。
このなかで私でも親近感のある書は、まずタゴール「ギタンジャリ」、サルトルです。ノーベル文学賞の権威を喜ばなかった二人ですよね。
サルトルとともにエンゲルスは若気のいたりで貪るように読んでいた時期がありますし、ルソーも若い頃に読みました(昨年「社会契約説」あらためて読んで、また発見がたくさんありましたよ。)。「エミール」は、教職課程を取っていたものですから。我々の時代の教育学はこれとペスタロッチでしょうね。左派系はクループスカヤやマカレンコ・・・(笑)。
熱いものを思い出します。
松本清張も大好きでした。わたしのベストはやはり「霧の旗」です。
「悪魔と神」は1951年、パリのアントワーヌ座で初演のルイ・ジューヴェの演出が有名だと聞いたことが有ります。ドロンの「ショック療法」で少しふれましたのでTBしちゃいます。
アシモフの「鋼鉄都市」は来る人工知能が結構プラス指向でストーリー展開させてましたよね。まるでホームズのワトソンのような存在だった記憶があります。「山びこ学校」は今井正の映画も無着成恭の綴り方もどちらも素晴らしいです。谷川俊太郎の「二十億光年の孤独」は大学生のときに彼女の愛読書でした(笑)。ウールリッチ(アイリッシュ)はトリュフォーが大好きな作家ですよね。私は「暁の死線」が大好きです。てな具合で・・・
私のダサい読書でもオカピーさんと共通点が少し在ったのでホッとしています。
では、また。
新年にあたり、期待にたがわぬ映画評を書き続けてらっしゃるプロフェッサーのご健康を祈念いたします。
2016年の読書録、中でも目を惹くのは、吉川栄治「新・平家物語」ですね。
これ、アマゾンでキンドル版99円(著作権切れのため)なのですね!知らなかった・・。
プロフェッサーのブログを見て新年早々の僥倖(笑)早速、ダウンロードしました・・。
僕は子供のころ、NHKの大河ドラマで毎週観ていて、中学になってから文庫で読み始めましたが、あまりにも膨大なので挫折しています。電子版だと読むペースも速くて快適ですが、登場人物や合戦の旧跡などを、そのたびにネットで検索しながら読むので結果的に読むのが遅くなってしまいます(笑)
ところで、70年代に読んだ坂口安吾の『古代史探偵』(編集は初代クイズダービー回答者)の鈴木武樹)には、源氏は新羅系、平家は百済系の流れを汲む渡来人であり、源平の戦いは、時と場所を日本に移して両者が雌雄を決するものであった、という説がありました。
歴史において、それまでの通説が覆されることは珍しくなく、井沢元彦の言葉を借りるまでもなく、今は「歴史家だけに歴史を任せておけない時代」に思いますから、専門家でない柔かな発想が必要だと思うのですね・・。
梅原猛も「実事の中にも幻視がある。学者にとってもっとも大切なのはイマジネーションだ」と、言っているくらいですし・・。
証拠はなくとも、誰にも否定出来ないイメージ豊かな推論は確かに存在すると思うのですね。
閑話休題・・プロフェッサーは、鎌倉時代の始まりが1185年だとご存知でしたでしょうか?
僕は、最近まで寡聞にして知らず・・(われわれのころは「いい国(1192)つくろう鎌倉幕府」と覚えたものですね)
なんとなれば、現在では、平氏が滅亡し頼朝が守護・地頭を設置した1185年としてるようですね。うーん・・これは何かいい語呂合わせはないものか(笑)
コメント有難うございました。今年もよろしくお願い致します。
かく仰るトムさんも、なかなか読まれていますね。
その中でも「ギタンジャリ」にはビックリです。詩を読む人は少ないですから。
サルトル、エンゲルスはトムさんなら当然という感じ。サルトルは戯曲、小説なら昔からぼちぼち読んでいますが、哲学書は敬遠していたので今年読むかも。「悪魔と神」のルイ・ジュ―ヴェは解説に書かれていたと思います。
「エミール」は大分前に読みましたし、NHKのTV番組でも取り上げていましたね。ルソーで読みたいのは「新エロイーズ」。
ペスタロッチは名前だけ。ソ連系も右に同じ。
「霧の旗」は、不条理さえ感じさせるヒロインの復讐心が壮絶な印象を残しますね。自慢できるほど清張さんは読んでいませんが、良い作品でした。
「山びこ学校」映画版は気にはなっていますが、未見。「二十億光年の孤独」は清新で、こんな詩集を読む女の子は映画にでも出てきそうですね^^
ウールリッチは好きな作家ですが、今回のはちと外れ。「暁の死線」は面白そうですね。いつか読みましょう。
>「新・平家物語」
はい、kindleの99円のを購入しました。
後何年かすれば、青空文庫で入力が完了し、無償版が出るはずですが、ちと待てなかった。ギフトカードを使ったので、実際には1円もかかっていませんが。
しかし、読書録がこういう形でお役に立つとは(笑)
>坂口安吾の『古代史探偵』
>源氏は新羅系、平家は百済系の流れを汲む渡来人
僕らが習った頃は帰化人と言っていたと記憶しますが、面白いのではないでしょうか。
藤原家や天皇家と百済はよく結び付けられて語られますし、皇族や華族が使う「母(おもん)様」は百済語の「母(オモ)」から来ているのは間違いないでしょう。今でも母屋(おもや)などと我々も言いますよね。
何が何でも韓国・朝鮮と日本とを結びつけるのを嫌がる輩はこういうのを全否定しますが、「日本書紀」や「懐風藻」を読むと百済と我が国との深い関係が説明されていて面白い。当然母(オモ)という言葉が何度か出てきます。
一部では、朝鮮に渡来した日本人が百済を作り、戻ってきた人を渡来人というのではないかという説もあるようですよ。
また、韓国の学者に百済語と日本語は相互に関係あるという説を提示している人がいて、百済語は結局朝鮮語に吸収されずに滅びたので、現代の日本語と韓国語に共通語が少ないのだとのこと。これも面白い。その説に則れば、上の母(オモ)は、朝鮮半島共通の単語だったか、百済語が韓国語として残った数少ない単語なのでしょう。
(続く)
何年か前に聞いて知っておりました。
ただ教科書によってはいまだに1192年のところもあるのでは?
僕は幕府が始まったのは1185年でも、頼朝が征夷大将軍になった1192年が鎌倉時代の始まりというほうが落ち着きますね。【~時代】というのはあくまで後世の概念なので、数年違ったところで大したことはないですが。
新春読書記録を、いつも驚き、喜びながら拝見しています。わたしこのうち2~3割ぐらい読んでいるのではないかと思います。古典は当り外れが少ないから良いですね。小学時代に読んだ「アイヴァンホー」をおととし岩波文庫で読みまして登場人物の一人一人が懐かしく思い出されました。賀川豊彦の「死線を越えて」もいいですね。
>いつも驚き、喜びながら
有難うございます。楽しまれる方がいらっしゃると知って嬉しいです。
>2~3割ぐらい
それはなかなか。
中には遍く読まれる作品もありますが、大半は敬遠される古い本ばかりですから、同好の士と言っても良さそうですね。
>古典は当り外れが少ない
断然そうです。
風雪に耐えたのもその所以でしょうし、仮に今では通用しないというものでも手応えが残るものが大半です。
>「アイヴァンホー」
ロビン・フッドやリチャード師子王も出てきますね。
現在、完全版は案外利用できず、遠い県立図書館から借りてきました。
>「死線を越えて」
戦前、大都会の中流階級では男尊女卑の考えが我々が考えるほどなかったではなかったのではないかと同時代の映画を観ると思われる一方、本作を読むと下層階級では女性の扱いがひどかったことがよく解ります。
戦前のベストセラーですが、これも今は手にしにくい本になっていますね。今でももっと読まれて良い本と思います。