映画評「砂上の法廷」

☆☆★(5点/10点満点中)
2016年アメリカ映画 監督コートニー・ハント
ネタバレあり

フローズン・リバー」でなかなか感心させられた女流監督コートニー・ハントの新作だが、全くの空振り。但し、悪いのは彼女ではなく、脚本を書いたニコラス・カザンである。

傲岸な大物弁護士ジム・ベルーシを殺したカドで、弁護士志願の高校生の息子ガブリエル・バッソが裁かれることになる。担当するのは、弟分の弁護士キアヌー・リーヴズで、助手ググ・ンバータ=ローに語るように、圧倒的不利な状況の中で最初はボディブローを打たせ続ける作戦に出る。何も語らない被告には弁護士志願らしい作戦があるらしい。母親レニー・ゼルウィガーは息子を有罪にさせまいと必死である。そして、随時、証言者や被告のフラッシュバックが入り、お話を補完していく。

カザン氏としてはミスリードさせるにこれを良いアイデアと思ったに違いない。何となれば、客観ショットであれば映像の嘘は非難されるが、主観ショットでの嘘は必ずしも非難できないからである。証言とそこでフラッシュバックされる映像の内容が違っていたり、実際にかなり機能している。証言よりフラッシュバックの主観ショットのほうが本当らしいが、実際はどうか。ここに興味を湧かせる要素があり、この映画の殊勲はそれに尽きる。

勝算5割の段階で口を閉ざしていた息子即ち被告が証言台に立つと言い、リーヴズは慌てる。そして若者は、父親からレイプされていたことを告白し、陪審員に多大な影響を与え勝訴する。

ここで終わってくれれば、正統派の裁判劇としてそれなりに面白いと言えたものを、下手な「アクロイド殺人事件」的どんでん返しの趣向を加えて、茶番劇にしてしまった。アメリカ人のカザン氏は知らないだろうが、こういうのを日本語で【勇み足】と言う。

天国のイーリア(エリア)・カザンが嘆いちょる、「息子よもっとしっかりしろ」と。

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  • 「砂上の法廷」

    Excerpt: 法廷物と言えば、弁護士と検事の駆け引きの中で、ラストに明らかにされる真実、大どんでん返しなど、驚きが散りばめられたものであるのが常である。本作でも、公判中一言も口をきかなかった被告の青年が最終局面で明.. Weblog: ここなつ映画レビュー racked: 2017-02-13 12:39