映画評「戦争のはらわた」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1977年アメリカ=西ドイツ合作映画 監督サム・ペキンパー
ネタバレあり
これを最初に観たのは二十歳くらいで、その時以来の再鑑賞。
1943年の東部戦線、ソ連との闘いに疲弊したドイツ軍のある小隊に、プロイセン貴族であることを誇る能無し少尉マクシミリアン・シェルがやって来る。後に曹長に昇進する叩き上げの軍曹ジェームズ・コバーンは権威嫌いなので、少尉に尽く盾突く。
やがてシェル少尉は名誉の証明である鉄十字章を貰おうと、死んでいった部下の殊勲を自分のものにしようと腰巾着に署名させる。コバーンは最初拒絶、結局答えを保留する。
戦局が益々厳しくなり、将軍ジェームズ・メースンは全小隊に退避を命ずるが、少尉はそれをコバーンに伝えず、ロシアの捕虜を連れて戻ってきたところを部下に命じて一斉射撃させる。
死なずに済んだコバーン曹長は、少尉を殺さず、一緒に敵の銃弾が雨あられと降る中を出ていく。敵兵の前で銃弾の尽きた彼は弾丸を込めることも出来ない。コバーンは哄笑する。
前線で疲弊しているドイツ軍の兵士は生きるのが精いっぱいで、もはや総統ヒトラーへの忠誠心など殆どない。コバーンは最初から反ヒトラーのようであるし、シェル少尉にしても統一ドイツではなくプロイセンへの想いが優先する為ヒトラーを好いていない。しかし、鉄十字章を欲しがる名誉心を強要するプロイセンへの想いは、ヒトラーの統一ドイツへの考えと大差がないわけで、批判することも出来ない。いずれにしてもこの少尉は名誉のことしか関心のない脳なしであり、それが幕切れのコバーンの哄笑により表現されている。
allcinemaでも多数派を占めている(反戦映画ではなく)反ナチス映画という解釈は当たっていると思うが、最初見た時は若気の至りでこういう直情的なヒューマニスティックなメッセージに心を揺さぶられたものの、今回見ると分かりやすすぎる構図とその為の型通りの人物配置にアメリカ映画の限界を感じるのである。深いとか浅いとか言えば、浅くはないがそれほど深くもないということになる。
ペキンパーは前半お得意のスローモーションを抑えめに、細かなカットを積み重ねることで動的な効果を出そうとした演出が収穫(だった・・・昔のことなので過去形がよいだろう)。全体としては、やや長さを感じるものの、一応面白く観られた。
例によってドイツ人が英語(=なんちゃってドイツ語)を喋っているのに文句を言う人がいるが、英国人が出て来ない限りは全く問題ではない。シェルを筆頭とする数名のドイツ系俳優以外のハリウッド俳優に下手なドイツ語を喋らせるよりずっと良い。
ヒトラー「我が闘争」読了。粉飾と嘘と針小棒大の羅列だった。誠にくだらない。
1977年アメリカ=西ドイツ合作映画 監督サム・ペキンパー
ネタバレあり
これを最初に観たのは二十歳くらいで、その時以来の再鑑賞。
1943年の東部戦線、ソ連との闘いに疲弊したドイツ軍のある小隊に、プロイセン貴族であることを誇る能無し少尉マクシミリアン・シェルがやって来る。後に曹長に昇進する叩き上げの軍曹ジェームズ・コバーンは権威嫌いなので、少尉に尽く盾突く。
やがてシェル少尉は名誉の証明である鉄十字章を貰おうと、死んでいった部下の殊勲を自分のものにしようと腰巾着に署名させる。コバーンは最初拒絶、結局答えを保留する。
戦局が益々厳しくなり、将軍ジェームズ・メースンは全小隊に退避を命ずるが、少尉はそれをコバーンに伝えず、ロシアの捕虜を連れて戻ってきたところを部下に命じて一斉射撃させる。
死なずに済んだコバーン曹長は、少尉を殺さず、一緒に敵の銃弾が雨あられと降る中を出ていく。敵兵の前で銃弾の尽きた彼は弾丸を込めることも出来ない。コバーンは哄笑する。
前線で疲弊しているドイツ軍の兵士は生きるのが精いっぱいで、もはや総統ヒトラーへの忠誠心など殆どない。コバーンは最初から反ヒトラーのようであるし、シェル少尉にしても統一ドイツではなくプロイセンへの想いが優先する為ヒトラーを好いていない。しかし、鉄十字章を欲しがる名誉心を強要するプロイセンへの想いは、ヒトラーの統一ドイツへの考えと大差がないわけで、批判することも出来ない。いずれにしてもこの少尉は名誉のことしか関心のない脳なしであり、それが幕切れのコバーンの哄笑により表現されている。
allcinemaでも多数派を占めている(反戦映画ではなく)反ナチス映画という解釈は当たっていると思うが、最初見た時は若気の至りでこういう直情的なヒューマニスティックなメッセージに心を揺さぶられたものの、今回見ると分かりやすすぎる構図とその為の型通りの人物配置にアメリカ映画の限界を感じるのである。深いとか浅いとか言えば、浅くはないがそれほど深くもないということになる。
ペキンパーは前半お得意のスローモーションを抑えめに、細かなカットを積み重ねることで動的な効果を出そうとした演出が収穫(だった・・・昔のことなので過去形がよいだろう)。全体としては、やや長さを感じるものの、一応面白く観られた。
例によってドイツ人が英語(=なんちゃってドイツ語)を喋っているのに文句を言う人がいるが、英国人が出て来ない限りは全く問題ではない。シェルを筆頭とする数名のドイツ系俳優以外のハリウッド俳優に下手なドイツ語を喋らせるよりずっと良い。
ヒトラー「我が闘争」読了。粉飾と嘘と針小棒大の羅列だった。誠にくだらない。
この記事へのコメント
そこなんですよ
現場の苦労をしらない管理職。すみません。ついサラリーマン社会を思い出します。
>リトル・リチャードとバディー・ホリーを合わせたようなビートルズすら存在しえないですよね。
ビートルズを育てた1950年代のロックンローラー達
>現場の苦労をしらない管理職
うちの上司はよくできている人でしたが、
隣の部署のトップは、成功すると自分の手柄、失敗すると「だから言ったではないか」と部下に責任を押し付けていましたねえ。しかも、実際には言ってもいない。
>1950年代のロックンローラー達
チャック・ベリーは勿論いれなければならない。精神的にはエルヴィス・プレスリーもあるでしょう。
逆に、1960年代後半以降現れたバンドの多くはビートルズの影響を受け、直接受けないまでも、ビートルズの影響を受けたアーティストの影響を受けて昨今のアーティストがいる。そんな感じになっていますね。
ああ、これが文化!
陽水のデビュー・アルバムのタイトルになった「断絶」を久しぶりに聴いてみたら、ポールのセカンド・アルバム「ラム」に収められた「モンクベリー・ムーン・デライト」のボーカルに影響を受けたのではないかと感じましたね。最近、彼は僕が当初考えていた以上にビートルズを取り込んでいるような気がしています。
どこでもいますねどうしようもないです。
>チャック・ベリー
当時「時代を超越している」と言われたそうですね。
>エルヴィス・プレスリー
骨太の歌声。まさにキング
>「断絶」
今聞いています。
高音でシャウト確かにマッカートニー風です。
「どうして悪いのだ 愛してる事が」
>>成功すると自分の手柄、失敗すると「だから言ったではないか」
>どこでもいますね
その逆を行うのが良い上司ですね。
>>チャック・ベリー
>当時「時代を超越している」と言われたそうですね。
ビートルズがそんな彼をさらに偉大にしたのかもしれませんね。
しかし、前にも言ったように、狭量だったらしい(笑)
>エルヴィス・プレスリー
ビートルズが好きな僕に対抗して、兄貴が贔屓のふりをしていましたよ。
>>「断絶」
>確かにマッカートニー風です。
突然そう思えて来たんですね。
「ラム」が発表されたのが1971年の春、「断絶」が発表されたのが翌年の春だから可能性はあると思います。
「こんなのやってみようか」といった感じで、行ったのかもしれませんね。
個性派監督。僕が一番好きなのは「砂漠の流れ者」です
>その逆を行うのが良い上司ですね
そう言う上司が同じ職場にいます。やっぱり評判がいいです。
そしていつの間にかその人のペースで結構大変な仕事をさせられている。
うまいまあ、仕方ないかと言う気持ちになる
>兄貴が贔屓のふり
リーゼントに揉み上げとか?
そう言えば大瀧詠一氏がプレスリーっぽい曲を書いて西田敏行に歌わせていましたね。
「いかすぜ!この恋」
>「こんなのやってみようか」
そこから良い物が出来る。いい事です
>ペキンパー
僕が映画を観始めた頃、現在のタランティーノに似た人気を誇っていたかもしれませんね。
「砂漠の流れ者」は4月にBS-NHKで放映されますよ。僕は保存版を作る予定です。名を挙げた「ワイルド・バンチ」よりお気に入り!
>いつの間にかその人のペースで結構大変な仕事をさせられている
はい、よくありました^^;
「正月の連休中に海外からのテレックス、チェックしてくれないか」と言われ、無給で出社した時、スピード違反で捕まってしまった。
無給はOKでしたが、スピード違反の罰金は余分でしたよ^^;
>リーゼント
髪の毛に対する興味は強く、それに近いところまでは行っていたかも。
実は大して興味もないのにレコードを買ったり、僕がエアチェックしたテープを持って行ったまま。よくやるんだな、兄貴は。
>大瀧詠一
自分で歌ったCMソングにもありましたね。
「いかすぜ!この恋」はプレスリー映画の邦題にもあり、戴いちゃいました(笑)
>そこから良い物が出来る
実にいい事ですね。
BUZZが歌ったスカイラインのCMソング「ケンとメリー」は、ニール・ヤングの「オン・ザ・ウィークエンド」にそっくりで、僕はこの曲も「こんなのやってみようか」で作られたという印象があります。
今youtubeで見ました。子供の頃にテレビで聞いた記憶があります若い男女の髪型・ファッションが70年代っぽくていいですね
>ニール・ヤングの「オン・ザ・ウィークエンド」
そして、こちらも聞きました。似ています良い影響です。
>「砂漠の流れ者」は4月にBS-NHKで放映
そうですか主役のジェイソン・ロバーズは色々な役を演じる事が出来る役者です。「大統領の陰謀」ではアカデミー助演男優賞を受賞
>スピード違反の罰金は余分でしたよ^^;
それはないですよね・・・
>よくやるんだな、兄貴は。
我侭な兄ちゃん。でも今までの話を総合するといい人っぽいです
うちの兄は一見良い人風、だけどあんまり良い人ではなくて・・・
>戴いちゃいました(笑)
さすが大瀧さんです
>「ケンとメリー」「オン・ザ・ウィークエンド」
ドラムのリズムはそのままですし、似ていますよね。
バズのボーカリストはもともとあんな風ですが、ボーカルも意識しているような気がします。こういうのは、本当に大好き!
>ジェイソン・ロバーズ
僕の大好きな俳優さんで、「ジュリア」のダシェル・ハメット役も素晴らしかった。
>今までの話を総合するといい人っぽいです
そうかもしれません。
真面目ですし、他人に甘くてすぐ騙される(それは僕と同じ)。
>僕の大好きな俳優さんで
そうでしたか「トラ・トラ・トラ!」「ジョニーは戦場へ行った」でも好演です「ジュリア」は未見です。
>真面目ですし、他人に甘くてすぐ騙される(それは僕と同じ)。
文は人なり。よくわかります。
>「ジュリア」は未見
有名な女流劇作家で脚本家のリリアン・ヘルマンの(言わば)伝記映画ですが、サスペンスもまぶし研ぎ澄まされたドラマの傑作です。
お好みに合えば、相当手応えがあると思いますよ。
>文は人なり。
有難うございます。
テレビで彼を初めて見たのは僕が小6の時。「荒野の七人」の日本語版。
終盤での最期。涙が出そうでした・・・
>お好みに合えば、相当手応えが
いつか見たいです。
>ビートルズ
最近、用心棒さんのブログでビートルズ関係の話をしています。
ビートルズのアメリカ盤とか
>テレビで彼を初めて見たのは僕が小6の時
時代こそ違え、僕もその年頃。
作品は「大脱走」。
マックィーンが格好良かったけれど、コバーンに痺れた。
その前に近所の同級生が「じぇーむず・小判(こばん)」と言っていたので、何のことかと思いきや、彼のことでした^^;
>用心棒さんのブログでビートルズ関係の話をしています
読みました。面白かった。
小生の名前も出て来て、嬉しいような面はゆいような。
>アメリカ盤
僕は、ジャケットしか知らないので、首を突っ込めません(笑)
年金を貰う年になった時に預金がかなりあれば、手を出したいですね。家人には邪魔が増えると怒られそうですが。
コバーンは無事に脱走
コバーン、マックィーン、ブロンソンの共演が嬉しかったです「荒野の七人」の同窓会と言う感じでした。
>「じぇーむず・小判(こばん)」
うまいお~い山田君。座布団一枚
>嬉しいような面はゆいような。
勝手に名前を出してすみません
>手を出したい
コレクションと言うのは、一旦始めると歯止めが利かなくなりますからね・・・(苦笑)。
>「荒野の七人」の同窓会
そうでしたね。
マックィーンもコバーンも「荒野の七人」の時はスター未満だったでしょうが、「大脱走」のスターでした。
ブロンソンはもうベテランでしたが人気爆発とはいかず、「友よさらば」まで待つことになるようですね(リアル・タイムではよく知らないので半ば想像)
>勝手に名前を
とんでもないです。
こんな名前で良ければ、どうぞお使いください^^
名前こそ出なかったですが、映画サイトAllcinemaで僕の意見がそのまま批判の材料になっていたのに遭遇し、驚いたことがありましたよ。
>コレクション
そうなんですよ。特にビートルズは。
かなりのファンとは思いますが、コレクターではないのです。
僕の持っている「サージェント・ペパー」は、クリスマス・レコードの音源を付属させた、無名レーベルのレア盤なのですが、それ以外(本体)はどこも違わないような感じでつまらない(どこか違うのかなあ)。先年買ったモノ盤のほうが明らかに違うのに。
>先年買ったモノ盤
ビートルズのシングル盤もアルバムもモノラルの方が好きだと言う人。結構いますね。
当時のファンの多くはモノラルのラジオやプレイヤーで聞いていた。その為のモノミックス。
>映画サイトAllcinemaで僕の意見がそのまま批判の材料になっていた
失礼な話ですでも、それだけオカピー教授のご意見が鋭いところを突いている証拠かも知れません。
>マックィーンもコバーンも「荒野の七人」の時はスター未満
あれだけ大物になるとは・・・実質的な雇い主だったブリンナーも想像できなかったでしょう
>チャック・ベリー死去
このブログで丁度話題にしていたので、不思議な感じがします。
90歳だそうですから、ロック人としては相当長生きですね。
合掌。
>モノ
にも色々あるようで、僕が買ったのは勿論ビートルズとジョージ・マーティンが設計したオリジナル・モノ盤ですが、中にはステレオ盤をモノにしたインチキ盤(もしくは版)もあるそうで。それはそれで、コレクターには価値があるのだろうなあ(笑)
>オカピー教授のご意見
腹は立ちませんが、こちらの真意をしっかり掴んで言ってほしいなとは思いました。
>あれだけ大物になるとは
ブラッド・デクスター以外はスターになりましたね。ホルスト・ブッフホルツはドイツ人なので活躍は地味ですが、国際俳優として重宝されました。
「ライフ・イズ・ビューティフル」でいい味出してました。
しかし・・・1960年代や1970年代にあるような、うまい邦題をつけて欲しかったです。
>こちらの真意をしっかり掴んで言ってほしいな
その人はあまり才能がない人かも?
>ステレオ盤をモノにしたインチキ盤
希少価値かどうかでしょうね。
>90歳だそうですから、ロック人としては相当長生きですね。
20代後半で亡くなるアーティストが多かった時代。やはり1960年代?1970年代?
>うまい邦題
1970年代から30年間ほど原題をそのままカタカナで使うのが流行しましたが、今世紀に入ってからSFなど一部のジャンルを除くと、日本語邦題が戻ってきました。
僕は歓迎していますが、「内容に合っていない」とか「くさい」とか、ケチをつけられることが多いですね。
「ライフ・イズ・ビューティフル」はどんな風な日本語タイトルが良いでしょうかねえ。「素晴らしき哉、人生」は戦後すぐに付けられましたし。
>その人
Allcinemaの常連。かの投稿で気になった為、必ず彼の投稿には目を通すことにしているのですが、映画の評点自体は僕にかなり似ているんですよね。7割方は同じ採点をしている。直に会って話せば、案外、気が合うかも(笑)
>希少価値
それほどでもないと思いますが、オーディオ雑誌に載っていた人は、数千枚持っていると仰っていましたから、こういうのも持っているのでしょうね。
前に話した「ウーマン」のシングルでJohn LennonがGohn Lennonになっているのは彼が紹介したものです。
>20代後半
ブライアン・ジョーンズ、ジャニス・ジョプリン、ジミ・ヘンドリックス、ジム・モリスンという超大物が3年の間に続けて亡くなった、オールド・ロック・ファンには忘れがたい1968年から71年。死亡時の年齢が28歳というのも共通していました。
その後ストレートなロック・アーティストは、少し品行方正になって、この手の事故・事件は減りましたね。
>「ライフ・イズ・ビューティフル」
>「素晴らしき哉、人生」
「美しき人生」は如何でしょうか?あれっどこかで聞いた邦題だよねジョージ・ハリスン
>映画の評点自体は僕にかなり似ている
そして彼は批判する。まあ、直に会って話せるといいですね
>John LennonがGohn Lennonになっている
久々に思い出しました
>この手の事故・事件は減りましたね
それでいいと思います。亡くなった命は戻らない・・・
日本の女優では夏目雅子。歌手では本田美奈子。早過ぎました。嘘みたいでした・・・
>「美しき人生」
いかにもジョージらしい曲でしたねえ。ソロ初期の名曲の一つ。
一昨日観た「天国からの奇跡」というキリスト教布教映画みたいな作品のエンディングに「ヒア・カムズ・ザ・サン」が、他の人のカバーで使われていました。
「マイ・スイート・ロード」同様、あの曲も宗教的な曲だったのでしょうかねえ。
>Gohn Lennon
続け字風の字体なので、解りにくかったようです。
>亡くなった命
向こうの連中は殆どが麻薬禍ですが、彼女たちは純粋な病気でしたから、気の毒です。売れに売れていただけにビックリでしたよね。