映画評「パニック・イン・スタジアム」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1976年アメリカ映画 監督ラリー・ピアース
ネタバレあり

1970年代大流行したパニック映画ブーム後期の作品。1980年ごろTVで観たが、多分20分ほどカットがあった筈で、完全版は今回は初めてだと思う。BS-TBSでの放映で、CMによる中断はあるもののノーカット、民放に多い吹き替え版でなかったのが大変有難い。

ロサンゼルス。地元のプロ・フットボール・チームとボルティモアのチームとの大一番(明言されていないがスーパーボウルのつもりだろう)のある日の朝、或る男がライフルで高層ビルから中年紳士を狙撃するのがプロローグ。
 続いて、大統領も観戦するというので緊張感が高まるチャールトン・ヘストンを筆頭とする警官、SWAT隊長ジョン・カサヴェテス、そしてスタジアムの観戦者即ちボー・ブリッジス、デーヴィッド・ジャンセンとジーナ・ローランズの中年カップル、賭博師ジャック・クラグマンといった面々が紹介される。
 グランドホテル形式はパニック映画の常套手段とは言え、冗長というより散漫な印象を覚える序盤である。

プロローグで事件を起こした男がライフルをもって塔の上に身を潜めているのをカメラが捉え、TV局クルーに緊張が走るあたりから次第に面白くなる。しかし、その後も余り面白いと言えないドラマが随時挿入されるため緊張感が途絶えがちになり、ドラマとサスペンスが絡み合って奔流を成した「ポセイドン・アドベンチャー」(1972年)や「タワーリング・インフェルノ」(1974年)とは比較にならない。

試合時間残り2分の掲示(原題)がなされ、SWATたちに迫られたところで、狙撃犯は(恐らく大統領がやって来ないと知って)ジャンセンを撃ったのを皮切りに、無差別の乱射を始める。
 これにより始まるパニック場面は迫力満点で、同時代の邦画「新幹線大爆破」(1975年)のそれを思い出しても雲泥の差、いつの時代もこの辺りに手抜きをしないのがアメリカのメジャー映画である。

犯人に撃たれたSWAT隊員が紐で吊るされたままになる描写のドライな処理も圧巻と言うべきで、情に傾いてしまう邦画にはちょっと求められない。

といった具合に優れたところもあるが、やはりドラマ部分が大いに足を引っ張り、「非常に面白い」とは言い難く、日本の高すぎる世評より、IIMDb投票者の平均点6.1が概ね妥当なような気がする。

因みに、ピーター・ボグダノヴィッチのデビュー作「殺人者はライフルを持っている」(1968年)やTV映画「パニック・イン・テキサスタワー」(1975年)のモデルになったチャールズ・ホイットマンの事件をベースにしている模様。後者の邦題は本作を意識したものだ(日本での初放映は1980年ごろだったと記憶する)。

「パニック・イン・テキサスタワー」というのは、パニックはテキサスタワーの外部で起きているので、英語的には間違いであろう。「パニック~」自体が英語圏の人にはピンと来ないかもしれない。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック