映画評「海底二万哩」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1954年アメリカ映画 監督リチャード・フライシャー
ネタバレあり

小学生の時に生まれて初めて読んだSF小説がジュール・ヴェルヌの「海底2万マイル」だった。その何年か後にそれを本格映画化した本作がリバイバル公開されたが、実物を見たのはさらに後。

世界各地の海で謎の生物による沈没事件が続発した為、アロナックス教授(ポール・ルーカス)が米国政府に依頼され米軍艦に乗って調査に乗り出す。助手コンセーユ(ピーター・ローレ)と銛打ちネッド・ランド(カーク・ダグラス)が随行する。諦めて帰還しようとした頃現れた謎の物体に攻撃を加えたところ反撃され、彼らは投げ出されて漂流、その物体実は当時まだ夢の乗り物であった潜水艦ノーチラス号の乗組員に救助され、その先進的な仕組みに驚いたり、奇怪な食事に呆れたりする。
 船長はネモ(ジェームズ・メースン)と言い、その技術力を巡って政府と確執が生じて妻子を殺されてしまった為ひどく厭世的になっていて、しばしば三人特に反骨精神いっぱいのネッドと反目する。
 船長以下が敵とする国の軍艦と戦いを繰り広げる間に、巨大イカとの闘いや、孤島の人食い人種からの避難といった冒険模様が挿入されるのがお楽しみ。

1950年代、ハードSFは小説としては読まれても映像作品になっていず、前世紀のヴェルヌやH・G・ウェルズの解りやすい冒険的な作品の映画化が大半で、SFはB級(低予算)映画と相場が決まっていた中、カラーの「宇宙戦争」(1953年)や本作は大作扱いだったはずだ。
 実際本作は上映時間が2時間を超え、巨大イカを始め特撮技術が断然優秀、ノーチラス号の造型も優れていて大いにワクワクさせられる。ダグラス、メースン、ルーカス、ローレという配役陣もSF映画としては番外的な豪華さで、芝居としての安定感も高い。

ネモらが出現した当初、暫くごく一般的な海中風景を見せるが、日本でTV放送が始まったばかりの当時ならそれだけでも大したスペクタクルだったと想像され、ダグラスとアシカの戯れは小さなお子様にも楽しめたであろう。ディズニー映画らしく、ダグラスが頻繁に歌う(本当に歌ったかどうかは確認していない)。

本作の動力源は、映画版では核エネルギーを思わせ、最後に爆発する。先進過ぎたこのエネルギーは「将来きっと役に立つであろう」というコメントが付けられ、アメリカ映画人の核への複雑な想いが感じられる。「ゴジラ」と同じ年に作られたのは偶然ではない筈だ。

3年前に再鑑賞した「SF巨大生物の島」(1961年)と構図的には似たような感じ。こちらを先に観ていればもっと楽しめただろうなあ。

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