映画評「愛の嵐」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1974年イタリア映画 監督リリアーナ・カヴァーニ
ネタバレあり
40余年前かなり話題になった。日本ではルキノ・ヴィスコンティ・ブームが沸き上がった1975年に紹介され、ヴィスコンティの「地獄に堕ちた勇者ども」で既に共演していたダーク・ボガードとシャーロット・ランプリングが再共演して、同じようにナチス絡みの退廃的ムードの作品ということで、弥が上にも映画ファンの興奮を誘った。
1957年ウィーンのホテルにやってきたアメリカの指揮者の妻シャーロットに夜勤のフロント係ボガードは驚く。戦時中彼はまだ少女だったシャーロットを性的になぶるうちに夢中になってしまった過去があるからだ。その為に彼女は生き残ったという、運命の皮肉がある。
ボガードは彼女の出現を非難しがらもかつての倒錯した関係に再び没入することになり、その為に彼を囲むナチスの残党一味が彼女を始末しようと迫ってくる。
かくして彼のアパートに閉じこもった二人は、兵糧攻め状態の後、車で街を脱出し、朝まだき橋を歩き始める。間もなく轟く二発の銃声・・・。
描かれる内容は性倒錯を中心とした退廃であるが、浮かび上がるのは変則的だからこそ純化されたとも言える愛である。純文学的に興味深いのは、戦時中の被害者たるヒロインが生を永らえて立場が逆転、見かけとは違って加害者たるフロント係を精神的に支配していくことである。そして、二人は倒錯愛の極致と解釈できなくもない死の旅路に立ったのではあるまいか。少なくとも死ぬことを覚悟していたことは間違いない。愛の複雑さ、人間の複雑さと言ってしまえばそれまでだが、「人間とは面白い生き物であることよ」と変な感銘が湧く。
ボガードとシャーロットという退廃(美)を具現していた当代随一の男女優を得てこその秀作であったろう。言わば耽美主義の映画作家である女流監督リリアーナ・カヴァーニにしても本作が断然の代表作と言うべし。
ヴィスコンティを大のご贔屓にしていた故淀川長治氏は、世間の予想に反して本作をベスト10から除外した。ヴィスコンティを観た目にはまだ甘かったのだろう。
1974年イタリア映画 監督リリアーナ・カヴァーニ
ネタバレあり
40余年前かなり話題になった。日本ではルキノ・ヴィスコンティ・ブームが沸き上がった1975年に紹介され、ヴィスコンティの「地獄に堕ちた勇者ども」で既に共演していたダーク・ボガードとシャーロット・ランプリングが再共演して、同じようにナチス絡みの退廃的ムードの作品ということで、弥が上にも映画ファンの興奮を誘った。
1957年ウィーンのホテルにやってきたアメリカの指揮者の妻シャーロットに夜勤のフロント係ボガードは驚く。戦時中彼はまだ少女だったシャーロットを性的になぶるうちに夢中になってしまった過去があるからだ。その為に彼女は生き残ったという、運命の皮肉がある。
ボガードは彼女の出現を非難しがらもかつての倒錯した関係に再び没入することになり、その為に彼を囲むナチスの残党一味が彼女を始末しようと迫ってくる。
かくして彼のアパートに閉じこもった二人は、兵糧攻め状態の後、車で街を脱出し、朝まだき橋を歩き始める。間もなく轟く二発の銃声・・・。
描かれる内容は性倒錯を中心とした退廃であるが、浮かび上がるのは変則的だからこそ純化されたとも言える愛である。純文学的に興味深いのは、戦時中の被害者たるヒロインが生を永らえて立場が逆転、見かけとは違って加害者たるフロント係を精神的に支配していくことである。そして、二人は倒錯愛の極致と解釈できなくもない死の旅路に立ったのではあるまいか。少なくとも死ぬことを覚悟していたことは間違いない。愛の複雑さ、人間の複雑さと言ってしまえばそれまでだが、「人間とは面白い生き物であることよ」と変な感銘が湧く。
ボガードとシャーロットという退廃(美)を具現していた当代随一の男女優を得てこその秀作であったろう。言わば耽美主義の映画作家である女流監督リリアーナ・カヴァーニにしても本作が断然の代表作と言うべし。
ヴィスコンティを大のご贔屓にしていた故淀川長治氏は、世間の予想に反して本作をベスト10から除外した。ヴィスコンティを観た目にはまだ甘かったのだろう。
この記事へのコメント
シャーロット・ランプリングには(カヴァーニにも)これが代表作ではないでしょうか?その後はすべて、この映画の思い出を汚すだけ、もう出ないで!と叫びたくなります。しかし彼女にも人生があり、思い出だけで生きてはいけないだろうし。ダーク・ボガードは監督のアイドルだったにしては、この少女に食われた感なきにしもあらず。大したものじゃないと淀川長治さんは言ったかも知れないけれど、私にとっては最高の映画でした。自分が若く感激に満ちた日々の記念碑です。ミーハーに徹するのも楽しいな!!!
コメント欄もにぎやかでプロフェッサーとの談義にも
お花が咲いております拙記事持参でございます。
>ヴィスコンティを観た目にはまだ甘かった・・・
未知数の類でしたね、カヴァーニ。
優れた役者二人の持ち味と演技、そして
退廃のウィーンと時代背景・・・
そのすべてが効を奏した彼女の
傑作と思いますよ。
>少女マンガみたい
ヴィスコンティに比べると、お話の構図が明解すぎたでしょうか。
今思うと、ヒッチコックに憧れて作品を作っていたブライアン・デ・パルマみたいに感じられます。
「地獄に堕ちた勇者ども」を見ようかと図書館に行くたびに思いつつ、こちらの再鑑賞が先になってしまいましたが、解りやすいヴィスコンティのようで、僕はまだ十代でしたが最初の鑑賞の時から気に入りましたよ。
>ボガードのアイドル映画
この表現は良いですね。
>代表作
どちらにとっても、文句なしの代表作でしょう。
ただ、老年になった彼女の作品も捨てがたい。欧米人には珍しく体形が殆ど変わらず、退廃ムードも維持していて、最近観た「さざなみ」なども良かったです。
これより前に出演した「さらば美しき人」という出来栄えは良くないと思ったものの印象的なイタリア映画をもう一度見たいのですが。
>淀川長治さん
批評家の中でも感覚的な方でしたので、結構意外な評価をされることもたびたびありました。主催されていた友の会でも色々な思い出がありますよ。
>コメント欄もにぎやか
あれから10年以上経ってやっと再鑑賞です^^;
どうしても綺麗な画面で見たいと思うので、今回やっと登場したWOWOWでの鑑賞まで待つことになりました。
最高画質とは言えませんが、ビデオやDVDよりはずっと良い画質で、満足でした。
当時コメントでも触れた「さらば美しき人」は、やはり見直してみたいですねえ。「さらば愛しき女よ」はよく出ますが、題名すら知らない人の多い「美しき人」はもちろん全くなし。ビデオは昔出ていたようですが。
>傑作
ウィーンという舞台の耽美的な捉え方と、ダーク・ボガードとシャーロット・ランプリングという退廃の権化のような男女優の優れた演技とムードが生み出した傑作ですね。
>リー・ヴァン・クリーフ 主なフィールドはTV
その後、マカロニ・ウェスタンの悪役。凄い存在感です。
実際に軍隊で鍛えられた肉体
ジョン・ウェインは・・・。
>改憲する理由を「アメリカに押し付けられた憲法だから」
これからどうなるんでしょう・・・
>ジャムの瓶を舐める場面
悲劇ですよねえ。ナチスという狂気が戦後までも延々と悲劇を生んだと思うとやりきれませんねえ。
ボーヴォワールが女性学のバイブル「第二の性」で、“抑圧することによって、人は抑圧される”と言っています。ここで抑圧されるのは女性で、抑圧する人は男性を指しますが、この映画は正にそれでしたねえ。
>リー・ヴァン・クリーフ
子供時代マカロニ・ウェスタンが人気でしたが、同級生が「おっさん、おっさん」と騒いでいたのはクリーフおじさんでしたね。そういう意味ではイーストウッドやジェンマより人気があったかもしれません。
>これからどうなるんでしょう
僕は護憲派でも改憲派でもなく、無責任な「改憲しなくても良いんじゃない?」派ですが、与党が経済力に任せて世論に影響を与えるのはいかんと思います。自民党はその前に9条改憲に慎重な公明党を説得しないといけないわけですが。
9条を変えるならタカ派の石破さんの考えが正直であり実際的でベター。
卑怯なことに自民党は、9条と日米安保はバーターであるはずなのに、9条を変えた時に日米地位協定を見直し、最終的には米軍に出て行ってもらうと間違っても言わない。今のままでは日本国憲法を最初に変えた首相という名前が残したいという名声欲としか思えません。自民党は保守と言われていますが、アメリカから独立する気がないのですから、似非保守ですよ。安倍応援団と言われる人々は、アメリカを天皇として拝んでいるようです。学者の間にはアメリカ天皇論というのがあるらしい。
軍隊を持つと言うとすぐに好戦的と仰る人がいますが、そんなことはないでしょう。日米安保をやっていて一番良いことは、米国から攻撃されることが絶対ないということでしょうか(笑)。
結局、男も女も逃げられない結果になりました
>イーストウッドやジェンマより人気があった
そう思います。すごい存在感です
意外な配役もありましたが。荒野の七人シリーズ第4弾。
>日米安保をやっていて一番良いことは、米国から攻撃されることが絶対ないということでしょうか(笑)。
日米安保をやめたら、アメリカと中国にやられる日本。二分割?
昔はアメリカとソ連に二分割と言われていました
>アメリカを天皇として拝んでいるようです
トランプ天皇万歳?
ではまた。
>荒野の七人シリーズ第4弾
サブタイトル「真昼の決闘」ですね。リーダー役でしたが、内容は全然覚えていないです。
この作品を紹介している“スクリーン”を持っていますよ。
>アメリカとソ連に二分割
それも嫌ですが、ソ連に占領されなくて本当に良かったですよ。
ソ連共産党は王室・皇室は認めませんから、問答無用で国体は破壊されたでしょうし、社会主義化されて相当貧乏になったでしょうね。今の日本も実質的に社会主義ですが、民主的社会主義ですからね、全然違いますよ。
GHQの政策を云々する右派(検閲を批判しますが、あんなもの、アメリカ映画のヘイズ・コードより甘いくらいです)が多いですが、ソ連(ましてスターリン時代)に比べたらアメリカは良い国で、日本のことをよく考えてくれたと思いますよ。それはそれで、70年も経ってアメリカに何も言えないのは困ります。
右派のダブル・スタンダードで目に余るのは、占領時の米軍は悪で、現在の米軍は正義の味方としていること。実際にはこの70年で彼らは何も変わっていないのに。
>トランプ
右派が一番嫌いなのは、中国や北朝鮮に弱腰だったと言われるオバマですが、オバマは北朝鮮を攻撃しようとしたところ側近に停められたのが実際と言われています。
トランプは、中間選挙で大負けしたら、民主党により大統領を辞めされられる可能性が高い。そこまでの負け方はしないと思われる一方、中国との貿易戦争のうまく収拾しないと、景気悪化で次の大統領の椅子がないのはほぼ間違いないですよね。
>この作品を紹介している“スクリーン”を持っていますよ。
それはお宝です。
>実際にはこの70年で彼らは何も変わっていないのに。
全く逆の評価です
>景気悪化で次の大統領の椅子がないのはほぼ間違いない
万国郵便条約から離脱する意向
>ヒロインが生を永らえて立場が逆転
凄まじかったです
>それはお宝です。
それだけに捨てられずに困っています^^
近年の号は何の愛着もありませんが。
>万国郵便条約から離脱する意向
巡り巡って自国の不利になることも多いことを知らぬ人。サウジアラビアの問題も武器輸出に絡んできつい言葉を投げつけられない。
日本に対しては為替条項を約束させたいらしい。為替変動制に移行した1973年以降、日本政府が為替に直接介入したことはないと思いますが。「余り日本を困らせるとアメリカの製品が売れなくなりますよ」と言いたい。
ノンポリを標榜する割に最近は政治の話が多く忸怩たるものあり。今世紀に入って世の中が悪くなっている証左でしょうか。
日本よりも遥かに治安が悪い国があります。
その国で幸せな一生を終える事が出来た人。
日本で暮らしたけど、その逆の人。
あるいは
戦時中や戦前よりも今の日本で不幸な人生を送った人。
所詮この世は天秤秤でしょうか?いつも考えます
>それだけに捨てられずに困っています^^
どうか捨てないで下さいそして機会がありましたら、その記事をUPして下さい。
>「余り日本を困らせるとアメリカの製品が売れなくなりますよ」
トランプ閣下。お判りになりましたか?
>忸怩
>証左
この言葉を初めてしった無教養の蟷螂の斧でした・・・
>所詮この世は天秤秤でしょうか?
韓国のキム・ギドク監督が作った「The NET 縄に囚われた男」がそれに近い問いかけをしていましたね。
偶然韓国に流れ着いた北朝鮮の漁師が、豊かである資本主義の国・韓国で売春をする不幸そうな女性を見て、自分は貧しい北朝鮮で幸福に生きていると、共産主義と資本主義の差は何だと疑問を持つのですね。北朝鮮が良いというわけではないが、韓国も万全でないではないか、幸も不幸も自分の考え次第だと言うんですね。
足るを知っていれば、戦前の日本で貧しい暮らしをしていたも不幸ではなかったでしょうし、いくら金を稼いでも満足できない人もいます。
経済とは別に、自分が平和主義で戦争反対でも、全体主義(ファシズム)で国家の言うことに従って出征し死んでいった人間もいるわけですから、全体主義は金輪際ごめんですね。
僕は反政権・反体制・共産主義の本を読んでも官憲が飛んでこない国であれば良いと思います。今のところ共謀罪法はそういう方向には進んでいません。
今、共産主義の本を読んでも何でもないでしょうが、本の貸し出し記録や本の購入記録などを収集することを公安は考えていないでもないようですよ(キャッシュレス化はその一環?とも言われています)。
>トランプ閣下
側近は解っているようで、日本が来年消費税を10%に上げることで景気悪化することがないように景気浮揚策を講ずるよう日本に求めているそうです。理由は勿論、アメリカの日本への輸出に影響があるからです。
>幸も不幸も自分の考え次第だと言うんですね
そう言う事です。平和な国にいても非業の死を遂げる人はいます
>全体主義は金輪際ごめんですね。
サラリーマン社会でも全体主義があります
>キャッシュレス化はその一環?
そうです。ポイントがつくカードなんて作らずに本を買うべきかな?
>アメリカの日本への輸出に影響があるから
ため息が出ます・・・
>平和の国にいても
そうですねえ。
日本の自殺者は少ないとは言えない。
>全体主義
政治学で言う全体主義は、個人の権利・自由より国の繁栄を優先するという考えですから、怖いですねえ。75年前の日本ではアメリカのような良心的徴兵忌避者なんて認められなかったわけですから、嫌ですねえ。
当時の日本はファシズムではなかったという右派がいますが、確かに狭義のファシズム(イタリア式全体主主義)ではないですが、所謂全体主義を指す広義のファシズムは歴然とあったわけです。「せいたくは敵だ」なんてスローガンがあったわけですからねえ。どの国も戦時においては多かれ少なかれ全体主義になるのは已むをえませんが。9・11の後イラク戦争を決意したアメリカでは「イマジン」が放送禁止歌になりましたよね。
会社は最悪の場合辞めれば良いですが、国民を辞めるのは余程のことがない限り出来ない。
国民と言えば、テニスの強豪選手になった大坂ナオミは来年アメリカ人になるのでしょうね。彼女はアメリカ人として東京オリンピックに来るかも。今は日本人として日本中が大騒ぎをしていますが・・・
>ため息
元々自分勝手な国ですが、トランプ大統領になってそれが益々顕著に。
そしてそのトランプ氏、脱退の乱れ撃ち。100年前ならどこかと戦争になっていますよ。そのうち国連から抜けたりして。
トランプさん。試しにやってみたら?
>彼女はアメリカ人として東京オリンピックに来るかも。
その逆がサッカー、ワールドカップの日本人選手。
日本の国体ならば普段と違う県代表
>国民を辞めるのは余程のことがない限り出来ない。
まあ、無理でしょう。
知り合いのブラジル人達は、どうなんでしょう?
>日本の自殺者は少ないとは言えない。
ピークは2000年代前半?三位一体の改革?
>トランプさん。試しにやってみたら?
やりかねませんが、さすがに周囲が引き留めるでしょう(笑)。
彼は二酸化炭素排出量に関するパリ協定を抜けましたが、その間隙をついて中国がリーダーシップを取り始めた。国連を抜けると、常任理事国である中国とロシアがやりたい放題をやる可能性大で、さすがにアメリカもその危険性は冒せないでしょうねえ。
>日本の国体
その他、都道府県対抗の駅伝でもありますよね。東京代表だったり、群馬代表だったり(笑)。こちらはいつでも変えられますが、国籍は無理。そろそろ日本も多国籍に舵を切るべきではないかなあ。
>ブラジル人達
国籍はブラジルのままでしょう。ブラジルからは国籍を抜けませんが、日本に帰化することはでき、その場合は二か国の国籍を持つことになるとか。こういう場合の二重国籍は日本も認めているようですね。
>日本の自殺者
1998年から2011年までが3万人を超えて多いですね。最近は2万人強で、大分減っている。やはり経済がよくなったのか? 2012年から良くなったのは、団塊の世代が一挙に仕事を辞め始め、人手不足になって失業率が減ったことに関連があるかもしれません。今失業率が低く、学生の就職率が高いのは、アベノミクスのおかげではなく、団塊世代のおかげです。