映画評「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」

☆☆★(5点/10点満点中)
2014年アメリカ映画 監督リチャード・ロンクレイン
ネタバレあり

現在のブルックリン。エレベーターのないアパートの5階に住む老婦人ダイアン・キートンは、連れ添って40年になる画家の夫モーガン・フリーマンの弱った足腰を心配、眺めの良いその部屋を売り払って、ほぼ同額の別のアパートに越そうと考える。売買を手伝ってくれるのは不動産エージェントをする姪シンシア・ニクスン。

この作品で何と言っても興味深いのは、まだ住人が暮らしている家若しくは部屋に購入希望者が押し寄せる“内覧会”というアメリカ的な不動産業の仕組みだ。先般観た「パリ3区の遺産相続人」の売買契約ほどではないが、ちと日本では考えにくい。居ながらにして外国の風俗を知ることが出来るのが映画を観る楽しみの一つと言うべし。

内覧会に訪れたグループのうち数組からオファーが届く。オークションと同じで最高額を出した人に売るのが通常。一方気がせくダイアンは売る相手も決まらないうちに、新しい部屋を探し始める。各部屋の内覧会では自分の家に来たグループと何回もすれ違う。この辺りも面白い。
 自分たちの部屋はなるべく高く売り、買う家はなるべく安くまとめたい。そんな思惑が、ヘルニアで入院中の愛犬を心配し、イスラム教のテロリストもどきの青年のニュースに注目する中、間断なく飛び交う台詞の洪水により語られる様は、さながらウッディー・アレンの風俗喜劇を見ているよう。主演がダイアン・キートンだから、アレンとのコンビで見たかったという思いもあり、実際老年版「アニー・ホール」という気分もなくはない。

但し、彼の作品ほどシニカルではなく、最終的に浮かび上がるのは長年に渡る夫婦の記憶が染み込む家への愛情、即ち人間に一番大事なのは精神、心なのだよという作者の思いというヒューマンなものである。その為に回想シーンが挿入されていると言って良く、言葉だけではやはり物足りなくなったであろう。昭和真ん中世代以上の老夫婦が一緒に観るに大変ふさわしいと思う。

「アニー・ホール」から40年か。僕も年を取りました。“光陰矢のごとし”というけれど、本当だよ。

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  • ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります ★★★.5

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