映画評「ロブスター」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2015年ギリシャ=アイスランド=オランダ=イギリス=フランス合作映画 監督ヨルゴス・ランティモス
ネタバレあり

洗脳的教育の馬鹿らしさを寓意的に描いて見せた「籠の中の少女」がなかなか面白かったヨルゴス・ランティモスの第二弾(僕にとって)。今回も徹底した寓意劇で、一人合点にすぎて解りにくい作品になっているのは僕も認めるが、一応面白く観た。

カップルになることが強制されている世界。独身である者はカップル育成所(?)のホテルに入って一定の期間のうちに相手を見つけなればならない。さもないと、希望する動物に変えられてしまう。
 主人公コリン・ファレルの場合は45日で、変身希望の生き物はロブスターである。ホテルの住人は森に出てコロニーを作っている独身者を殺すごとに一日延期するボーナスがつく。ファレルは、期限が近付いた頃何とかカップルを成立させるが、相手が犬になった兄を殴殺した為に彼女を殺してホテルを脱出、独身グループのコロニーに救出され、近視という共通点を持つ美人レイチェル・ワイズに好意を抱く。皮肉なことにこのコロニーでは恋愛や性的接触はご法度である。

そこで二人は脱出の算段をするが・・・というお話で、一つは物事(特に社会性)を強制する社会の風刺、一つはカップルを成すことの恋愛心理学的研究といったところから観ることができるだろうか。

後者において、カップルは共通点を探るものだ、という考察を監督はする。本作では身体的欠陥にそれを探るというブラックなものばかりで、森で恋愛関係に陥る主人公たちも近視から始まり、レイチェルが逃走防止の為に失明させられると一緒に逃げたファレルも自ら目を突く(突いたかどうかは、この監督らしく不明だが、テーマから判断すれば付いたと思われる)。実際の世界では趣味であったり、センスであったりするわけだが、とにかく本作の場合は常に男性側が女性に合わせていく。恋愛心理を揶揄してなかなか面白い。

問題は前者である。基本設定は本を読むことが禁止された世界を描いた「華氏451」(1966年)もどきで、本を読むグループならぬ独身コロニーは体制的なホテルに対して事実上のレジスタンスになっている。

監督はそこまでの社会風刺は考えていないのかもしれないが、実は日本人こそこの映画を観て考えるべきことがあるような気がしている。何故なら、第一次安倍政権以降の日本は体良く独身者を脅しているようにさえ見えるからだ。
 実は古風な僕は「選択的夫婦別姓」が発案された当初、「それは家族の絆等の理由でまずいのではないか」と自民党とほぼ同じ考えを持ったものである。しかし、自民党が改憲案で家族関係を強調したり、当時の民主党などがこの法律によって「日本の家族を破壊することを企んでいる」という右派の戯言を聞くに至って考えを変えた。後者は出鱈目も甚だしく、その言が正しければ強制的夫婦同姓制度を敷いている最後の国日本国以外の家族は崩壊していることになるが、世界各国の映画を観るかぎり全くそんなことはない。そんなことを言うのはいかにも諸外国に失礼である。

いずれにしても、かつての改憲案を見る限り、近年の自民党政権は経済や財政の改善の為に、通常の結婚をして子供を増やせと独身者に脅しをかける腹があるのではないか、げすの勘繰りをしたくなる僕である。この映画の社会は正にその考えが極端になったケースのように見える。

結婚したくてもできない独身者が多いことはデータを見れば解るし、一番怪しからんのは、既に出生率が急激に落ち、人口が減っていくことが十二分に予想できた30年位前まで日本が人口抑制策を取っていた事実。当時の政治家・官僚は何を考えていたのだ? あの穏当な発言が多い池上彰氏ですら「馬鹿ですね」と言っていた。実際には昭和30年代・40年代にも、人口を維持する政策を考える賢い政治家や官僚もいたのではないかと、思っているのだが。

2025年までに出生率1.8ですか。まあ無理じゃね。僕は、人口減少自体は構わない。ただ、若い人が苦労するのと、我々貧乏人の老後の保障が薄くなるのは困る。心配になって高い介護保険に入ってしまったではないか。

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