映画評「シン・ゴジラ」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2016年日本映画 総監督・庵野秀明、監督・樋口真嗣
ネタバレあり
昨年、新ハリウッド版が作られたばかりなのに、日本版が作られたのを知り、ハリウッド版よりは期待が持てるとは言え、またまた「もういいよ」の気分になったが、実物を観たら相当面白かった。僕が見た中では1954年の第一作を凌ぐ面白さと言って良い。
ほぼ現在の日本、東京に近い海上で異変が確認され、やがてアクアトンネルに崩落事故発生、自然災害と思いきや、原因は新発見の巨大生物と判明する。後に“ゴジラ”と名付けられる巨大生物は深海性故に上陸不能と思われたが、成長と進化を続けて上陸、どんどん無敵化し、東京を破壊しつくす。
政府と自衛隊はこの未曽有の事態の対応に右往左往し、アメリカの特使・石原さとみを交え、内閣官房副長官・長谷川博己が中心となって、アメリカによる原子爆弾による爆破作戦と日本的な冷凍作戦のどちらを取るかという難しい選択を迫られる。
サスペンス映画としてはまあまあという程度だが、3・11の原発事故とそれを踏まえただらしない政府と官僚の対応という現実と、北朝鮮による核攻撃或いは東京大地震という将来あり得る災難とを、一緒くたにして展開させたようなところに風刺・皮肉・揶揄が大いに感じられ、大変面白い。特に政府と官僚のおたおたぶりがコメディーでも滅多に見られない可笑しさで、どうせなら現政権の面々を思わせる陣容でやればさらに痛快だっただろう。政府や官僚に頑張れと言っている(だけの)作品ではあるまい。
全体としては、ゴジラの強靭さを考えるとアメリカ映画「アルマゲドン」(1998年)に対応する終末論的パニック映画に仕上がっているのではあるまいか。そして、出来栄えは「アルマゲドン」を凌ぐ。
アニメ「ヱヴァンゲリヲン」で有名な庵野秀明が総監督と作劇担当で、批判すると殺されそうになる気がしてこのシリーズは観るのを避けてきたので実質初めてその作品を観たわけだが、これだけのお話を考えられれば才気煥発と言いたくなる。樋口真嗣が監督で、彼が演技指導とVFXの面倒を見たのだろう。
安倍シンパを除くと、彼が発案した9条改訂案は自衛隊がさらなるジレンマにさらされるとして、反対が多い。改憲派の憲法学者は大多数が反対だろう。この件に関しては全く解らない。
2016年日本映画 総監督・庵野秀明、監督・樋口真嗣
ネタバレあり
昨年、新ハリウッド版が作られたばかりなのに、日本版が作られたのを知り、ハリウッド版よりは期待が持てるとは言え、またまた「もういいよ」の気分になったが、実物を観たら相当面白かった。僕が見た中では1954年の第一作を凌ぐ面白さと言って良い。
ほぼ現在の日本、東京に近い海上で異変が確認され、やがてアクアトンネルに崩落事故発生、自然災害と思いきや、原因は新発見の巨大生物と判明する。後に“ゴジラ”と名付けられる巨大生物は深海性故に上陸不能と思われたが、成長と進化を続けて上陸、どんどん無敵化し、東京を破壊しつくす。
政府と自衛隊はこの未曽有の事態の対応に右往左往し、アメリカの特使・石原さとみを交え、内閣官房副長官・長谷川博己が中心となって、アメリカによる原子爆弾による爆破作戦と日本的な冷凍作戦のどちらを取るかという難しい選択を迫られる。
サスペンス映画としてはまあまあという程度だが、3・11の原発事故とそれを踏まえただらしない政府と官僚の対応という現実と、北朝鮮による核攻撃或いは東京大地震という将来あり得る災難とを、一緒くたにして展開させたようなところに風刺・皮肉・揶揄が大いに感じられ、大変面白い。特に政府と官僚のおたおたぶりがコメディーでも滅多に見られない可笑しさで、どうせなら現政権の面々を思わせる陣容でやればさらに痛快だっただろう。政府や官僚に頑張れと言っている(だけの)作品ではあるまい。
全体としては、ゴジラの強靭さを考えるとアメリカ映画「アルマゲドン」(1998年)に対応する終末論的パニック映画に仕上がっているのではあるまいか。そして、出来栄えは「アルマゲドン」を凌ぐ。
アニメ「ヱヴァンゲリヲン」で有名な庵野秀明が総監督と作劇担当で、批判すると殺されそうになる気がしてこのシリーズは観るのを避けてきたので実質初めてその作品を観たわけだが、これだけのお話を考えられれば才気煥発と言いたくなる。樋口真嗣が監督で、彼が演技指導とVFXの面倒を見たのだろう。
安倍シンパを除くと、彼が発案した9条改訂案は自衛隊がさらなるジレンマにさらされるとして、反対が多い。改憲派の憲法学者は大多数が反対だろう。この件に関しては全く解らない。
この記事へのコメント
70年代に流行ったパニック映画を思い出される作品になっていましたね。怪獣苦手な人にも楽しめる映画になっていた気がしました。
私は怪獣映画が好きですので、ハリウッド製のゴジラのほうが怪獣映画ファンとしてはうれしい仕上がりだったかなあという感想も持っていますが、久しぶりの日本製で、ハリウッド版とはちがったおもしろさを出してくれてたのがうれしかったです。
>アニメ「ヱヴァンゲリヲン」
私はアニメには疎遠で、同性代の人がよく見ていたヤマトやガンダムも知らないので他の人と話していて困ることがあるくらいですが、エヴァンゲリヲンは偶然見て興味を持ちテレビ版ビデオで全部見て予習した状態で映画も観に行きました。私的には志賀直哉『暗夜行路』や60年代のアメリカのサイケデリックムーブメントを思い出させる作品だったですね。時代が変わっても一部の若い人たちは同じようなことをするのか、夏が来るとまた新しいセミが出てきて鳴くのか、という気もしましたが、自分も観に行ったので(笑)。あの時点でああいう表現がもうアニメというジャンルにしか出なくなっていたのかというのが今の感想です。
〇 同世代
ですね。失礼しました。
怪獣映画は余り見ていないですが、ハリウッド版は新旧共に余りピンとこなかったです。その点本作は、パニック映画として見られたのが良く、特に政府側のおたおたぶりが楽しめましたね。
>あの時点でああいう表現がもうアニメというジャンルにしか出なくなっていたのか
新海誠の「秒速5センチメートル」という邦画アニメを観た時、僕も同じような感想を持ちました。
実写映画が余りにリアリズムを求めすぎているため、クラシックな感情を表現する時に、アニメのほうが向いているのではないかという気がしたんですね。
まめな佐藤さんから最近TB返しがないなあと思っていたら、そういう事情でしたか。
了解いたしました。
トラックバックはブログの重要な機能ですが、大手に止めるところが多くなって、ブログの人気薄に拍車を掛けますね。
面白さは十分ですが、幼年期からのSF愛好者で永井豪のデビルマンなどの傑作漫画を読んできた身としては、なんとなくですが作風に危うさがあり、品位が欠如しているように感じました。
このシンゴジラは、僕のような東宝怪獣映画ファンにも気配りしつつ、天変地異に対処せんとする、ゴジラのいる世界の日本をうまく描き出していて見事でした。
>終末論的パニック映画
厖大な台詞にもかかわらず、アメリカにおいて大衆には絶賛されたのも、ラストの描写を含めた黙示録的な部分が受け入れられたせいだと思いますねぇ。
ぼくは、ロダンの地獄の門を参考にしたのかなと感じました・・。
>ヱヴァンゲリヲン
と正確には書くらしいですが、実は何作目かを半端な形では観たことがあるのですよ。
形而上的な感じがして、これは(当時の)僕には向いていないと思いましたね。
>永井豪
ナンセンス・ギャグ漫画のイメージが強く、「マジンガーZ」や「デビルマン」がTVに出た時には「こういうのもやるのか」と思いましたね。
TVアニメ版はともかく、コミック「デビルマン」の残虐さに驚きましたね(友達のを借りて少しだけ読みました)。
彼本人はごく大人しい紳士なので、漫画との対照が面白いと思う今日この頃(笑)
>東宝怪獣映画ファン
怪獣同士が戦うものではないクラシックな怪獣映画のフォーマット。
核への恐怖も踏襲していましたね。
>黙示録的な部分
「エヴァンゲリオン」がそもそも「使徒」絡みのタイトルですし、その延長なのであろうと思いました。
僕は見続けるうちに「アルマゲドン」との比較になってしまいましたが、あちらが真面目で大仰なのに比べると、こちらの風刺的な部分が可笑しくて映画としてはこちらが「買い」と思いました。これを大真面目に扱うと、従来通りの「話ばかりしていて何も決められない日本人」になってしまって面白くないのですが、匙加減が抜群ではなかったでしょうか。
荒ぶる神ゴジラは、本作では、自然災害のメタファーなんだと思いました。
>ロダンの地獄の門
じっくり見たことがなく、それには思い至りませんでしたTT