映画評「AMY エイミー」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年イギリス=アメリカ映画 監督アシフ・カパディア
ネタバレあり

2005年頃から新しい音楽を殆ど聴かなくなったので、エイミー・ワインハウスの名前は知らなかったが、彼女が死んだニュースは何かで読んだ記憶がある。ジャズ歌手だったのねえ。ジャズ歌手としてはビリー・ホリデイに近い感じ。ソングライターの面では、彼女が尊敬しているらしいキャロル・キングを彷彿とする詞を書く。

彼女の半生を綴ったドキュメンタリーなので、歌はたっぷり聞けるが、自滅型性格と言えばそれまでかもしれないものの、それだけで終わらない苦みを覚える。その意味で作品としての訴求力が強い。椅子に座らせた証言者が語るのを延々と見せるようなつまらない作り方ではなく、ホームビデオや公的映像や映画用に撮られた映像を絶妙に貼り合わせ、効果的に観客に彼女の人となりを訴えるのである。

彼女には反骨精神があり、それが少女時代の刺青やピアスを入れるという行動になったのであろうが、その反骨精神は繊細さや弱さの裏返しであったことが二人の幼馴染との様子や証言から伺われる。その弱さがアメリカで結ばれた最初の夫ブレイク・フィールダー=シヴィルに影響され、自制することを知らないようにすら見える弱い彼に引きずられるように麻薬にのめりこんでしまったらしい。酒と麻薬が彼女の肺と心臓を痛め、最終的に死んでしまう。

人気スターになって以降のパパラッチの攻撃。これもまた、彼女の精神と肉体を傷めつけた一因で、ふくよかだった彼女ががりがりになってしまう晩年は誠に痛々しく、見るのが辛くなってくる。彼女に限らず、スターが一般の人以上に麻薬に逃げるのは、プライバシーがなかったり、どんな言動も問題になってしまったり、我々無名人には解らないストレスによるものなのだろう。欧米は日本より簡単に麻薬が手に入る環境なので、事件になりにくい代わりに命にかかわる可能性がぐっと高い。精神的に弱い彼女のようなケースではスターの問題だけに留まらないが、それでも「スターはつらいよ」と言いたくなる。奇行を面白がっているだけで心配さえしないマスコミは、どうかしている。

反面、尊敬するトニー・ベネットとの録音風景と、グラミー賞での様子は、素敵だった。

27歳という年齢での夭逝。麻薬やアルコールで死んだ歌手の物故した年齢は27歳近辺が不思議と多い。

彼女が死んだのは僕の誕生日の7月23日。わが誕生日は、モントゴメリー・クリフトが死んだ日でもあり、良くない出来事の多い印象がある。

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  • AMY エイミー

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