映画評「あやしい彼女」

☆☆★(5点/10点満点中)
2016年日本映画 監督・水田伸生
ネタバレあり

韓国コメディーはどうも大袈裟で結果的に泥臭く最近は敬遠していた為、韓国映画「怪しい彼女」(2014年)は観なかった。これはその日本でリメイクした作品である。実は「ローマの休日」の年齢ヴァリエーション。

73歳のひねくれ婆ちゃんカツ(倍賞美津子)は、一人で育てた娘・幸恵(小林聡美)に煙たがられて「好きに生きれば良い」と言われて怒り、家を飛び出て飛び込んだのが一軒の写真屋(オードリー・ヘプバーンをもじった大鳥写真館)。そこでポートレイトを撮ってもらうが、外に出た後、何故か若返ってしまったことに気づく。
 その事実を隠し、大鳥節子(多部未華子)と名乗って戦争孤児時代から60年以上も親しくしている銭湯のオヤジ次郎(志賀廣太郎)の家に住むことになり、人前で披露した歌声が、バンドをしている孫・翼(北村匠海)や音楽プロデューサー小林(要潤)に気に入られ、結果的にカツ変じて節子は翼のバンドのボーカルに起用される。これをバネにバンドはメジャー・デビューへの道を探ることになる。
 が、翼がオリジナル曲披露のロック・コンサートへ急ぐ途上に交通事故に遭って重傷を負う。彼女は出血すると老化することを知りながら、血液タイプ(RHマイナス)の同じ孫の為に輸血を買って出る。

色々な疑問があれど、それを上手く利用している部分もあり、一応感心させられた。
 例えば、子供の頃から知っている筈の次郎が若い彼女を見て全く気付かないのは変だ。それが似たアイデアと言える魂交換映画より作劇的に弱い点であるが、作者(オリジナルか脚色家なのか解らない)は次郎がうっかり者という設定にして暫く経って気づくという展開にしたのが結果的に人情醸成にうまく繋がっているのである。娘も同様で、これがなかなか巧い。病院での母娘の人情交換風景には胸を打たれる人が多いだろう。

その前の節子が娘が幼女時代に憶えたフォーク・クルセイダースの「悲しくてやりきれない」を歌う部分もじーんとさせられる。演ずる多部未華子の歌唱レベルも決して低からず(彼女のような歌い方を「下手」というのは本当の音楽好きとは言えない。声量などに言及したらポピュラー歌手は声楽家にとても敵わないではないか。バイブレーションは、本来は音程が安定しないのを誤魔化す技法だと思う)。

大事なところでの交通事故についても、単独エピソードしてはまずいところを、輸血と若返りの停止という組み合わせにしたことで上手く機能することになる。

オリジナルとの比較はできないにしても、全般的に人情コメディーとして悪くない出来栄えと思う。20分がとこ短くしてくれればぐっとコンパクトになり、採点も大幅に上げられた。この長さ(125分)が全く必要でないとは言わないが、ライト・コメディーや青春恋愛映画は110分以下が見やすくて良い。

「怪しい彼女」には何と中国版やベトナム版もあるらしい。人気じゃね。

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