映画評「ジャングル・ブック」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2016年アメリカ=イギリス合作映画 監督ジョン・ファヴロー
ネタバレあり
ラドヤード・キップリングのお馴染みの連作短編小説集の何度目かの映画化。オオカミに育てられた人間の少年モーグリの出て来るものだけを集めた編集版を一昨年読んだばかりなので、記憶も新しくなかなか楽しめた。
少年モーグリ(ニール・セティ)は、以前村を襲った時に人に火傷を負わされたのを恨みに思っているトラのシア・カーン(声:イドリス・エルバ)に付け狙われ、オオカミ一家から離れて逃避行をしているうちに、妖気を持つ大蛇カー(声:スカーレット・ヨハンソン)に襲われる。クマのバルー(声:ビル・マーレイ)に助けられた後、今度は猿の王様キング・ルーイ(声:クリストファー・ウォーケン)に誘拐され、バルーとジャングルをまとめているクロヒョウのバギーラ(声:ベン・キングズリー)の協力の下で危機を抜け出すと、遂に火に囲まれた中シア・カーンと一対一の対決をすることになる。
原作に則ったお話だが、本作では「赤い花(=火)」という言葉が何度も発せられ、最後はその火が実際に出て来るのが特徴的。これは未だに戦争が止まぬ世界の現状に向けた風刺となっているように思われる。火は勿論重大な兵器のアレゴリーである。が、作品としては冒険シーンを矢継ぎ早に繰り出すことでぐっと単純に楽しませようとしているところを僕は評価したい。
その楽しさをもたらしたのが誠に優秀なCGで、殆ど本物の動物にしか見えない。実物のレタッチかと思ったが、実物ではないようだ。しかし、全部CGでもなく、アニマトロニクスを使っている部分もあるらしい。いずれにしてもVFXが素晴らしいと言うに尽きる。
ディズニーらしくミュージカル仕立てのところもある。その中でウォーケンとスカーレットの妖しい歌が魅力的で断然の収穫。エンディング・ロールでは、再登場するこの二曲に続いてドクター・ジョンの渋い歌まで出て来る。吹き替えでは彼らの歌は聴けないのか? それなら作品の価値は半減だ。
「ライオン・キング」が手塚治虫の「ジャングル大帝」のパクリではないかと日本で少し騒ぎになったが、「ジャングル・ブック」は「ジャングル大帝」の着想源になった作品の一つだろう。バブル崩壊後くらいから、日本人は、かつて日本がパクリ大国だったことを忘れ若しくは知らず、大騒ぎするようになった。
ディズニー崇拝が愚か者を生んでいるようで、グリムやアンデルセンはディズニーに謝るべきだ、というけったいな意見を目にした。彼らの作品を好きなように改竄したのはディズニーだろうに。
2016年アメリカ=イギリス合作映画 監督ジョン・ファヴロー
ネタバレあり
ラドヤード・キップリングのお馴染みの連作短編小説集の何度目かの映画化。オオカミに育てられた人間の少年モーグリの出て来るものだけを集めた編集版を一昨年読んだばかりなので、記憶も新しくなかなか楽しめた。
少年モーグリ(ニール・セティ)は、以前村を襲った時に人に火傷を負わされたのを恨みに思っているトラのシア・カーン(声:イドリス・エルバ)に付け狙われ、オオカミ一家から離れて逃避行をしているうちに、妖気を持つ大蛇カー(声:スカーレット・ヨハンソン)に襲われる。クマのバルー(声:ビル・マーレイ)に助けられた後、今度は猿の王様キング・ルーイ(声:クリストファー・ウォーケン)に誘拐され、バルーとジャングルをまとめているクロヒョウのバギーラ(声:ベン・キングズリー)の協力の下で危機を抜け出すと、遂に火に囲まれた中シア・カーンと一対一の対決をすることになる。
原作に則ったお話だが、本作では「赤い花(=火)」という言葉が何度も発せられ、最後はその火が実際に出て来るのが特徴的。これは未だに戦争が止まぬ世界の現状に向けた風刺となっているように思われる。火は勿論重大な兵器のアレゴリーである。が、作品としては冒険シーンを矢継ぎ早に繰り出すことでぐっと単純に楽しませようとしているところを僕は評価したい。
その楽しさをもたらしたのが誠に優秀なCGで、殆ど本物の動物にしか見えない。実物のレタッチかと思ったが、実物ではないようだ。しかし、全部CGでもなく、アニマトロニクスを使っている部分もあるらしい。いずれにしてもVFXが素晴らしいと言うに尽きる。
ディズニーらしくミュージカル仕立てのところもある。その中でウォーケンとスカーレットの妖しい歌が魅力的で断然の収穫。エンディング・ロールでは、再登場するこの二曲に続いてドクター・ジョンの渋い歌まで出て来る。吹き替えでは彼らの歌は聴けないのか? それなら作品の価値は半減だ。
「ライオン・キング」が手塚治虫の「ジャングル大帝」のパクリではないかと日本で少し騒ぎになったが、「ジャングル・ブック」は「ジャングル大帝」の着想源になった作品の一つだろう。バブル崩壊後くらいから、日本人は、かつて日本がパクリ大国だったことを忘れ若しくは知らず、大騒ぎするようになった。
ディズニー崇拝が愚か者を生んでいるようで、グリムやアンデルセンはディズニーに謝るべきだ、というけったいな意見を目にした。彼らの作品を好きなように改竄したのはディズニーだろうに。
この記事へのコメント
大人になって完訳本を読んで唖然としたことが何度もあります。
ジャングルブックも去年よんで子供の時読んだ物語とは大きく違うのには驚きましたよ。
ディズニーの場合は改ざんというより脚色してディズニーの映画にしてしまうということでしょうね。昔のスタジオシステムの有能な部分がディズニーには遺っているような気もします。
僕は「映画は原作をリスペクトする必要はない」という立場なので、変えることは一向に構わないわけですが、ディズニー信奉者はディズニーの作品がオリジナルという考え方を持っているようで、原作のことなど調べもしない。けしからんですね。
>子供の時読んだ物語とは大きく違う
これはありますねえ。
何度も言っているように、僕は「白鯨」にビックリしました。エイハブが白鯨を追う本筋より、作者の蘊蓄がこれでもかこれでもかと出て来るのですからねえ。
主役の少年を除くと、事実上のアニメですから、吹き替えでのマイナスはない若しくは少ないと思いますが、僕が本作の中で一番気に入った歌が日本語では少々残念です。WOWOWで吹き替え版も観られるので、どんな具合かチェックしてみましょうかねえ。
>ディズニーの映画にしてしまう
ねこひげさんにも述べたように、僕は「映画は原作をリスペクトする必要はない」と考えますので、変えるのは大いに歓迎します。
問題は、ディズニーを信奉する余り、ディズニー映画は全てオリジナルであって、(原作者である)グリムやアンデルセンがそれをパクっているという馬鹿げた意見すらあることです。ディズニーが会社を作る数十年も前に死んだ人がどうしてパクれるのでしょう? 今生きている人と思っているのかもしれませんが、常識外れも良いところですよね。
フランス製の「美女と野獣」についてディズニーへのリスペクトがないという意見も噴飯もの。「美女と野獣」はフランスが本場なのに・・・ああ、何も勉強していない。
全く関係のない話ですが、「ドレミの歌」が日本製と思っている人も多いんですよね。
ええ、そんなこと言う人がいるんですか?!
ふつうに考えるととうの昔に亡くなっている人だとわかると思うのですが……
なんというか、冗談で言っているんだと思いたい、ですね orz
>「ドレミの歌」が日本製と思っている人も多いんですよね。
これはいるかもしれませんね。
「ドレミの歌」より「むすんでひらいて」のほうが日本製だと思っている人さらに多そうです。ほかにもありますね。子供の頃から学校で歌ったりしてるので、私も大人になってから原曲知った歌はけっこうあります(笑)。学校の音楽の授業で使うなら、元歌はこれです、くらいは教えてくれてもいいのにね。
>冗談で言っているんだと思いたい
それが、どうも本気なんですよ。
学級図書にもグリム童話やアンデルセン童話はあると思うのですが、時代なんか関係ないのかな。
>「ドレミの歌」
「残したい日本の歌」というアンケートで結構上位に入っているのに吃驚しました。「サウンド・オブ・ミュージック」も知らないのか。思い込みは恐ろしいですね。
>「むすんでひらいて」
思想家のジャン=ジャック・ルソーの作曲ですよね。ルソーの自叙伝「告白」の前半は音楽の話ばかりでした。
音楽の教科書の作曲家・作詞家のところを見るのを習慣づけると良いと思いますね。