映画評「アイ・ソー・ザ・ライト」
☆☆★(5点/10点満点中)
2015年アメリカ映画 監督マーク・エイブラハム
ネタバレあり
カントリーのシンガー・ソングライター、ハンク・ウィリアムズの伝記映画である。最近の若い人は全く知らないだろうが、ウィリアムズは現在のポピュラー音楽に影響を及ぼしている最重要アーティストの一人である。というのも、ロックの曙を告げたと言われるビル・ヘイリーの「ロック・アラウンド・ザ・クロック」は彼の「ムーヴ・イット・オン・オーヴァー」なしには作られていないからである。一聴してそっくりな曲で、ヘイリーはウィリアムズを尊敬していたと聞く。
3枚組のベストCDを持っているので、本作で披露される曲は全部知っているが、何故か先の「ムーヴ・イット・オン・オーヴァー」は本編中で流れるのにクレジットされていない。どういうこと?
1944年に最初の妻オードリー(エリザベス・オルセン)と結婚したウィリアムズ(トム・ヒドルストン)は、彼女を事実上のマネージャーとして台頭していき、48年「ラヴシック・ブルース」のヒットで念願のラジオ・テレビ番組「グランド・オール・オープリー」への出演を果たし、名実共に大スターになるが、持病である二分脊椎症の痛みを和らげるためにモルヒネや酒に頼る共に、女癖の悪さからオードリーと離婚、二股をかけていた女性のうちビリー・ジーン(マディー・ハッソン)と再婚するが、モルヒネや酒で弱くなっていた心臓が動物用の鎮静剤により致命的なダメージを受け、1953年1月1日移動中の車中で29歳の若さで亡くなる。
持病があったせいとは言え、薬やアルコールや女性に溺れる典型的な自滅型アーティストで、特にオードリーとの愛憎場面は変わり映えがせず、監督マーク・エイブラハムが生真面目に進めているだけなので、面白味が足りず次第に飽きて来る。
しかし、それを補うのが天才ウィリアムズの音楽で、メジャーになって僅か6年の活動期間の中でこれだけの名曲を書いた密度の濃さは同じく6年程度のビートルズに次ぐものではないかとさえ思えて来る。
昔のカントリー歌手は多く、現在の日本人の歌唱力観で言えば“下手”である。ウィリアムズも例外ではなく、トム・ヒドルストンの歌唱ぶりはご本人よりきちんとしているくらい。しかし、シンガー・ソングライターは良い曲を作れてなんぼ。彼は紛れもない天才であった。カーペンターズがカヴァーした「ジャンバラヤ」は彼の晩年の代表作。
ゴスペルの定番となっている「アイ・ソー・ザ・ライト」は、信心深い一面のあった彼の信心ぶりをよく示す名曲で、彼の死後関係者が揃ってこの曲を歌う最後の場面はじーんとさせられる。
僕の少年時代、まだ日本のラジオでも彼の曲がかかっていました。
2015年アメリカ映画 監督マーク・エイブラハム
ネタバレあり
カントリーのシンガー・ソングライター、ハンク・ウィリアムズの伝記映画である。最近の若い人は全く知らないだろうが、ウィリアムズは現在のポピュラー音楽に影響を及ぼしている最重要アーティストの一人である。というのも、ロックの曙を告げたと言われるビル・ヘイリーの「ロック・アラウンド・ザ・クロック」は彼の「ムーヴ・イット・オン・オーヴァー」なしには作られていないからである。一聴してそっくりな曲で、ヘイリーはウィリアムズを尊敬していたと聞く。
3枚組のベストCDを持っているので、本作で披露される曲は全部知っているが、何故か先の「ムーヴ・イット・オン・オーヴァー」は本編中で流れるのにクレジットされていない。どういうこと?
1944年に最初の妻オードリー(エリザベス・オルセン)と結婚したウィリアムズ(トム・ヒドルストン)は、彼女を事実上のマネージャーとして台頭していき、48年「ラヴシック・ブルース」のヒットで念願のラジオ・テレビ番組「グランド・オール・オープリー」への出演を果たし、名実共に大スターになるが、持病である二分脊椎症の痛みを和らげるためにモルヒネや酒に頼る共に、女癖の悪さからオードリーと離婚、二股をかけていた女性のうちビリー・ジーン(マディー・ハッソン)と再婚するが、モルヒネや酒で弱くなっていた心臓が動物用の鎮静剤により致命的なダメージを受け、1953年1月1日移動中の車中で29歳の若さで亡くなる。
持病があったせいとは言え、薬やアルコールや女性に溺れる典型的な自滅型アーティストで、特にオードリーとの愛憎場面は変わり映えがせず、監督マーク・エイブラハムが生真面目に進めているだけなので、面白味が足りず次第に飽きて来る。
しかし、それを補うのが天才ウィリアムズの音楽で、メジャーになって僅か6年の活動期間の中でこれだけの名曲を書いた密度の濃さは同じく6年程度のビートルズに次ぐものではないかとさえ思えて来る。
昔のカントリー歌手は多く、現在の日本人の歌唱力観で言えば“下手”である。ウィリアムズも例外ではなく、トム・ヒドルストンの歌唱ぶりはご本人よりきちんとしているくらい。しかし、シンガー・ソングライターは良い曲を作れてなんぼ。彼は紛れもない天才であった。カーペンターズがカヴァーした「ジャンバラヤ」は彼の晩年の代表作。
ゴスペルの定番となっている「アイ・ソー・ザ・ライト」は、信心深い一面のあった彼の信心ぶりをよく示す名曲で、彼の死後関係者が揃ってこの曲を歌う最後の場面はじーんとさせられる。
僕の少年時代、まだ日本のラジオでも彼の曲がかかっていました。
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