映画評「ブルゴーニュで会いましょう」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2015年フランス映画 監督ジェローム・ル・メール
ネタバレあり

フランス版「種まく旅人」てなところだが、作品の狙いは違う。

ワイン評論家ジャリル・レスペールは、自分やシェフになった妹ローラ・スメットの行動のせいで無気力になった父親ジェラール・ランヴァンがワイナリー経営に失敗、倒産の憂き目に遭って日本人や因縁ある隣のワイン業者に買収されそうになっていると聞き、ブルゴーニュの実家で父と再会する。父親の態度に幻滅した彼は仕方なく自ら在庫を売却し、ワイン製造を一流に復帰させようと古代ローマの製法を取り入れて、色々な人の意見も参考に最終的に良いワインを作ることに成功する。

というのが縦糸となる物語で、その綾を為す横糸が主人公レスペールとその周囲の人間との関係である。ドラマでは横糸が大事であるから、監督ジェローム・ル・メールら作者側が描きたかったのは寧ろこちらで、終わってみればワイナリー再建即ち一家の人間関係の再建であると理解できる仕組みである。

ホームドラマは多く、問題がある人々が問題を解決して無事着地するのを見せるのを目的とする。本作などは典型であるが、自分こそは立派な人間を気取る人がそれを理解せずにこの手のお話を観るととんでもない間違ったことを言い出す。「自己中心的な人間ばかりで最悪」といった評価である。
 しかし、この作品では、自己中心的(というより頑固というのが正確な表現)でも、互いに家族のことを思っている。そう見えない瞬間も少なくないが、彼らの思っていたことは、幕切れまで観れば解る。
 僕はフランス人とも仕事上の付き合いがあったので解るが、大体フランス人は徹底した個人主義(利己主義とは違いますぞ)にして頑固、この父親や隣家の母親のような人間は少なくない。だからと言って自己中心的であるとは限らないし、仮にそうであっても本作は家族が再生するという結末をつけているのだから、途中までの登場人物の性格をもってドラマ映画を評価するのは全く不見識と言わざるを得ない。

しかし、主人公と隣家の娘アリス・タグリアーニの男女関係を取り入れたことは感心できない。映画における不倫は人間の人間たる所以を見る上の恰好の材料である一方、その必然性がない不倫は具合が悪い。
 本作の場合、二人が最初に会う段階では彼女は婚約者のいる独身であるが、醸造所で会う時は既婚者である。本作の場合は彼女が独身女性であって何の支障もないのに、幕切れで夫君の母国アメリカから戻って来た彼女と主人公が再会する“感動的”な幕切れにしたいがためにそういう強引な設定(結婚→ブドウ畑に後ろ髪を引かれつつ渡米→(離婚)→帰国)にしたのではないかと思えてくる。これでは感動的どころか、白けるだけである。
 それ以外はなかなか感じが良い(そう思わない人も多いようだが)作品だけに惜しい。

頑固は必ずしも悪い性質ではないと思いますがね。

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