映画評「92歳のパリジェンヌ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年フランス映画 監督パスカル・プザドゥー
ネタバレあり

何と一昨日のドイツ映画「君がくれたグッドライフ」に続いて尊厳死を扱う作品である。
 僕の観たフランス映画の中では「母の身終い」に次ぐ尊厳死を扱った作品で、スイスとベルギーという隣に尊厳死を認める国があるフランスとドイツでは国家レベルで考える時に来ていることを示しているという印象があり、社会学的に興味深い。

しかし、本作のヒロイン(マルト・ヴィラロンガ)の選択は、ベルギーやスイスではなく、フランス国内での薬による自死である。
 彼女は92歳の誕生日に、一族に向かって「2か月後に死ぬ」と宣言する。彼女と仲の良い娘(サンドリーヌ・ボネール)と長い確執のある息子(アントワーヌ・デュレリ)は共に反対するが、娘は病院で自立できなくなったことに対し精神的に苦しむ母を見てその意志を認め、息子は連絡を取らず終い。実は手紙のやり取りを続けていた初恋の人のもとに娘に連れて行って貰った後、老母は(恐らく自殺幇助にならないように)家族を離し、家で死んでいく。

どの作品も尊厳死を遂げることを決めた人間と周囲の人々の思いを描くわけだが、本作が最も周囲の人々の思いにアプローチしていると思う。娘は悲嘆に暮れながらも母親の気持ちを理解してその思いに沿うことで母親だけでなく自らをも救い、息子は最後まで母親との距離を縮めることができず、恐らく長く苦しむことになる。
 それらは必ずしも直接的に尊厳死に対する気持ちではなく、尊厳死という厳しい現実を見せつけられた時に自分とどう向き合うかという変化球として描き込み、なかなか優れた親子映画になっている。

ブルゴーニュで会いましょう」に続いてフランス人の頑固さが見られるのが微笑ましいが、個人主義の国ではそれが必ずしも「我儘」とは見なされない。ある意味羨ましいですな。

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