映画評「母の残像」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年ノルウェー=フランス=デンマーク=アメリカ映画 監督ヨアキム・トリアー
ネタバレあり
監督をしたヨアキム・トリアーはラース・フォン・トリアーの親戚筋(一部甥との情報あるも、IMDbでは確認できず)だそうである。いかにも純文学たる内容は親戚譲りだが、アングル的には遙かにストレート、タッチ的にはテレンス・マリックのような詩的なところが目を引く。
戦場カメラマンの女性イザベル・ユペールが帰国後に事故死して3年後、その夫たる男優ガブリエル・バーンは、彼女と仕事をしていたジャーナリスト(デーヴィッド・ストラザーン)に全体を任す形で回顧展を開くことにする。
大学講師(教授と言っているが・・・?)となった長男ジェシー・アイゼンバーグが帰郷して写真を選定する。長男は出産したばかりの妻との間が今ひとつしっくり来ず、そのはけ口を実家の近所に住む学生時代の女友達で解消しようとする。
高校生の次男デヴィン・ドルイドは母の事故死の影響か、父親との関係がうまく行っていない。直接の原因は父親が常に行動をチェックしている鬱陶しさかもしれないが、父親との関係が母親を疲労させ結果的に死なせたと思っているのかもしれない。少年は、母親の死が自殺であったという事実を知らない。
バーンやアイセンバーグは次男にこの事実を知らせまいとするが、結局回顧展前にジャーナリストがこの事実を新聞に発表し、次男に知られてしまう。が、次男はこの後素直になったようで、父が兄を自宅に連れて行く車の中で自分たちを見守る母親の残像を見る。
人物配置を含めお話の構図が同じく(実質上の)ノルウェー映画「おやすみなさいを言いたくて」にそっくりだが、狙いは違う。
あの作品が母親の職業が家族、特に夫との間に亀裂を生むという悲劇性を主題としていたのに対し、本作は母親の死がもたらした家族三人の心象風景を、亡くなった当人のそれを交えて、丹念に描こうとする。戦場カメラマンという職業がもたらす悲劇的な背景はあれども、寧ろ不倫さえしていた母親の死後明らかになる(不都合かもしれない)秘密が却って家族の絆を最終的に蘇らせる。いずれにしても、その紆余曲折の面白味で見せる作品ではあるまい。
若干独り合点のところが気になる反面、観客に向けた説明としてのナレーションや内面モノローグではない、詩を読むように語られる各人の独白が、特にそれが交錯する部分で、頗る美しく気に入った。マリック的という点は「おやすみなさいを言いたくて」にも感じられた。これがノルウェー純文学映画の傾向なのだろうか?
周囲には、映画と言えば「スター・ウォーズ」を挙げるような人ばかり。こういう欧州のドラマ系など取り上げるブログも少ない。70年代半ばから始まったヴィスコンティ・ブームが映画環境を変えたのも今は昔。
2015年ノルウェー=フランス=デンマーク=アメリカ映画 監督ヨアキム・トリアー
ネタバレあり
監督をしたヨアキム・トリアーはラース・フォン・トリアーの親戚筋(一部甥との情報あるも、IMDbでは確認できず)だそうである。いかにも純文学たる内容は親戚譲りだが、アングル的には遙かにストレート、タッチ的にはテレンス・マリックのような詩的なところが目を引く。
戦場カメラマンの女性イザベル・ユペールが帰国後に事故死して3年後、その夫たる男優ガブリエル・バーンは、彼女と仕事をしていたジャーナリスト(デーヴィッド・ストラザーン)に全体を任す形で回顧展を開くことにする。
大学講師(教授と言っているが・・・?)となった長男ジェシー・アイゼンバーグが帰郷して写真を選定する。長男は出産したばかりの妻との間が今ひとつしっくり来ず、そのはけ口を実家の近所に住む学生時代の女友達で解消しようとする。
高校生の次男デヴィン・ドルイドは母の事故死の影響か、父親との関係がうまく行っていない。直接の原因は父親が常に行動をチェックしている鬱陶しさかもしれないが、父親との関係が母親を疲労させ結果的に死なせたと思っているのかもしれない。少年は、母親の死が自殺であったという事実を知らない。
バーンやアイセンバーグは次男にこの事実を知らせまいとするが、結局回顧展前にジャーナリストがこの事実を新聞に発表し、次男に知られてしまう。が、次男はこの後素直になったようで、父が兄を自宅に連れて行く車の中で自分たちを見守る母親の残像を見る。
人物配置を含めお話の構図が同じく(実質上の)ノルウェー映画「おやすみなさいを言いたくて」にそっくりだが、狙いは違う。
あの作品が母親の職業が家族、特に夫との間に亀裂を生むという悲劇性を主題としていたのに対し、本作は母親の死がもたらした家族三人の心象風景を、亡くなった当人のそれを交えて、丹念に描こうとする。戦場カメラマンという職業がもたらす悲劇的な背景はあれども、寧ろ不倫さえしていた母親の死後明らかになる(不都合かもしれない)秘密が却って家族の絆を最終的に蘇らせる。いずれにしても、その紆余曲折の面白味で見せる作品ではあるまい。
若干独り合点のところが気になる反面、観客に向けた説明としてのナレーションや内面モノローグではない、詩を読むように語られる各人の独白が、特にそれが交錯する部分で、頗る美しく気に入った。マリック的という点は「おやすみなさいを言いたくて」にも感じられた。これがノルウェー純文学映画の傾向なのだろうか?
周囲には、映画と言えば「スター・ウォーズ」を挙げるような人ばかり。こういう欧州のドラマ系など取り上げるブログも少ない。70年代半ばから始まったヴィスコンティ・ブームが映画環境を変えたのも今は昔。
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