映画評「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2016年イギリス映画 監督スティーヴン・フリアーズ
ネタバレあり
アメリカに実在した音痴の歌姫フローレンス・フォスター・ジェンキンスの最晩年を扱った伝記映画であるが、個人的には二番煎じで損をしたと感じる。9ヶ月前に彼女をモデルにフランスに舞台を変えて展開したドラマ「偉大なるマルグリット」を観ているからである。これを観ていなければ★一つ余分に進呈できたかもしれない。
1944年、富豪老婦人フローレンス(メリル・ストリープ)は、ヴェルディ・クラブという音楽愛好クラブを設立し仲間に聞かせるリサイタルを続けているが、夜には愛人キャスリーン(レベッカ・ファーガスン)と過ごすという変則的な結婚生活を送っている元俳優の夫シンクレア・ベイフィールド(ヒュー・グラント)の執事のごとき親身な世話、或いは自身の野心を捨てて彼女の伴奏者に徹することになるピアニスト、コズメ・マクムーン(サイモン・ヘルバーグ)の支援を受け、遂に長年の念願であるカーネギー・ホールで公演を行う。
夫君のいつも通りの懸命な隠匿工作も実らず大手新聞の評価を知った彼女はショックを受けるが、それでも「歌った事実は消えない」と言い、満足してこの世を去る。
フィクション故に紆余曲折が派手になっていて面白味がある「マルグリット」により地味に映る。それはともかく、「マルグリット」では最後の最後に自分の歌声を聴いてその音痴ぶりにショックを受けるという展開でヒロインに客観的評価力があるのが窺えるのに対し、こちらの彼女はレコードを出しそれがラジオでもかかっているという、既に自分の歌声を知っている前提で一つの新聞の評価にショックを受ける。これが解りにくい。音痴なだけでなく、客観的な音楽センスがなかったように感じられる。
逆に、ヒロインが突然僅かの間上手くなるのが現実なのか誰かの想像なのかよく解らない「マルグリット」に対し、評価を知ったフローレンスが自分が実際に上手く歌って万雷の拍手を受けるのを想像するという形になっているなど、こちらのほうが良い面もある。
いずれも、終盤は映画的に効果的な見せ方をしていると考えられるが、観客の胸をより強く打つのは本作の方だろうか。つまり、信ずることに突き進むことで、最初の結婚で得た宿痾をものともせず、76歳まで生きられたと感じられるように作っているからである。「マルグリット」で強調された夫婦愛に代わって、【信念岩をも通す】を見せきり、ヒロインを「裸の王様」に終わらせなかったのが殊勲。元気のない人は本作を観るべし。
スティーヴン・フリアーズ監督作品としては少し洒落っ気が足りず、タイトルバックもいつもほど面白味がなく不満だが、一通り楽しめるような作り方になっているだろう。
「幸せをつかむ歌」ではロック歌手に扮したメリル。こちらは太った高齢おばちゃんで、まるで別人。今更ながら大したものです。
本年最後の記事です。今年も一年間ご愛顧ありがとうございました。来年も相変わらずよろしくお願いいたします。
2016年イギリス映画 監督スティーヴン・フリアーズ
ネタバレあり
アメリカに実在した音痴の歌姫フローレンス・フォスター・ジェンキンスの最晩年を扱った伝記映画であるが、個人的には二番煎じで損をしたと感じる。9ヶ月前に彼女をモデルにフランスに舞台を変えて展開したドラマ「偉大なるマルグリット」を観ているからである。これを観ていなければ★一つ余分に進呈できたかもしれない。
1944年、富豪老婦人フローレンス(メリル・ストリープ)は、ヴェルディ・クラブという音楽愛好クラブを設立し仲間に聞かせるリサイタルを続けているが、夜には愛人キャスリーン(レベッカ・ファーガスン)と過ごすという変則的な結婚生活を送っている元俳優の夫シンクレア・ベイフィールド(ヒュー・グラント)の執事のごとき親身な世話、或いは自身の野心を捨てて彼女の伴奏者に徹することになるピアニスト、コズメ・マクムーン(サイモン・ヘルバーグ)の支援を受け、遂に長年の念願であるカーネギー・ホールで公演を行う。
夫君のいつも通りの懸命な隠匿工作も実らず大手新聞の評価を知った彼女はショックを受けるが、それでも「歌った事実は消えない」と言い、満足してこの世を去る。
フィクション故に紆余曲折が派手になっていて面白味がある「マルグリット」により地味に映る。それはともかく、「マルグリット」では最後の最後に自分の歌声を聴いてその音痴ぶりにショックを受けるという展開でヒロインに客観的評価力があるのが窺えるのに対し、こちらの彼女はレコードを出しそれがラジオでもかかっているという、既に自分の歌声を知っている前提で一つの新聞の評価にショックを受ける。これが解りにくい。音痴なだけでなく、客観的な音楽センスがなかったように感じられる。
逆に、ヒロインが突然僅かの間上手くなるのが現実なのか誰かの想像なのかよく解らない「マルグリット」に対し、評価を知ったフローレンスが自分が実際に上手く歌って万雷の拍手を受けるのを想像するという形になっているなど、こちらのほうが良い面もある。
いずれも、終盤は映画的に効果的な見せ方をしていると考えられるが、観客の胸をより強く打つのは本作の方だろうか。つまり、信ずることに突き進むことで、最初の結婚で得た宿痾をものともせず、76歳まで生きられたと感じられるように作っているからである。「マルグリット」で強調された夫婦愛に代わって、【信念岩をも通す】を見せきり、ヒロインを「裸の王様」に終わらせなかったのが殊勲。元気のない人は本作を観るべし。
スティーヴン・フリアーズ監督作品としては少し洒落っ気が足りず、タイトルバックもいつもほど面白味がなく不満だが、一通り楽しめるような作り方になっているだろう。
「幸せをつかむ歌」ではロック歌手に扮したメリル。こちらは太った高齢おばちゃんで、まるで別人。今更ながら大したものです。
本年最後の記事です。今年も一年間ご愛顧ありがとうございました。来年も相変わらずよろしくお願いいたします。
この記事へのコメント
「偉大なるマルグリット」は、苦い味を残しましたからね。