映画評「パッセンジャー」(2016年)

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2016年アメリカ映画 監督モルテン・ティルドゥム
ネタバレあり

アメコミ系や「スター・ウォーズ」新シリーズなどチャンバラSFは圧倒的に多い昨今である一方、本格SFはそう多くない。本作は一見大衆映画ながらほぼ本格SFで、「サイレント・ランニング」(1972年)へオマージュを捧げている作品と思う。大いに満足した。

別の恒星の惑星に移住できるようになった未来、ある宇宙船で技術士クリス・プラットが冬眠から目を覚ますが、他の移住者(パッセンジャー)もクルーも目覚めておらず、90年早く目覚めてしまったことを知る。アンドロイドのバーテン(マイケル・シーン)がいる以外はたった一人での生活に寂しさを禁じ得ない彼は、冬眠室で発見した若い美人作家ジェニファー・ローレンスの地球で記録したビデオを見てすっかり惚れ込み、悩んだ末に起こしてしまう。それが出来る対象は一人に限られる。
 かくして目を覚ましたジェニファーは、その事実を知らないまま、彼と恋に落ちる。ところが、プラットの発言を勘違いしたバーテンが真実を話した結果当然の如く二人は犬猿の仲となる。
 さらに、クルーのローレンス・フィッシュバーンが目を覚ます。彼の目覚めにより、不具合の対処ができると同時に、このクルーは初期的な不良に対応した後冬眠の失敗による多臓器不全により死んでしまう。
 その後宇宙船は爆発の危機に直面し、二人は手を取って他の客とクルーの為に修復活動に命を張る。

SFロマンスと解釈される向きがあるが、そういう風に見ても楽しめるものの、実は二人のロマンスは生と死の意味を考えさせるツールに過ぎない。
 二人は最終的に互いを愛するが故に互いの生を考える。一人では精神的に生きていけない故にプラットはジェニファーを覚まし、或いは彼女は彼の人生を考え、また大勢の中で生きていく人生における生の意味と比較した結果、彼女は最終的に彼との生活を選ぶ。
 そして、二人の互いの生存への希望が、終盤の大ピンチに際し、観客に対して強烈なサスペンスを生み出す。本作の殊勲はそこであると僕は思う。

といった次第で、彼の行為を怪しからんと断罪するのは、実社会においてならともかく、その行為が(本作の命題である)生の意味を追究する素材として強く機能していることを考えれば、あまり意味のないことが、お解りになるだろう。何故彼が「怪しからん」行為をしなければならなかったか考えることこそ大事なのだ。
 しかも、恐らくジェニファーと愛し合った結果、他の乗客とクルーが助かったと考えれば、彼が目覚め、その彼が彼女を目覚めさせたのも神の配剤であったと理解することができるではないか。ここにおける「神」は記号に過ぎず、宗教上の神と、抹香臭く考えるには及ばない。秀作と言うべし。

二人はアダムとイヴのはずだが、子供は良くても孫になると近親相姦になってしまうので、避けた模様。

この記事へのコメント

ねこのひげ
2017年12月08日 17:13
『サイレントランニング』Blu-ray版が出ておりますね。
購入するか悩んでおります。
オカピー
2017年12月08日 20:55
ねこのひげさん、こんにちは。

「サイレント・ランニング」は一応ハイビジョンで保存してありますが、商品の場合は特典がお楽しみになりますよね。
僕は年金がもらえるようになるまでは、地味に行くしかありませんTT

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