映画評「アラビアの女王 愛と宿命の日々」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2015年モロッコ=アメリカ合作映画 監督ヴェルナー・ヘルツォーク
ネタバレあり

異文化に臨む西洋人の姿を描くという意味では、ヴェルナー・ヘルツォークらしい素材であるが、野趣と力感がそれほどではなく、彼の作品らしさを求めると期待外れの結果となる。実話の女性映画としての観点なら、そこそこ観られる。

19世紀末、英国の富豪令嬢マーガレット・ベル(ニコール・キッドマン)は、両親に押し付けられる野暮天男性にうんざりして、24歳にして伯父のいるペルシャ(現イラン)に旅立ち、そこで知り合った外交官カドガン(ジェームス・フランコ)と恋に落ちるが、父親が反対するので帰国すると、父曰く「借金を抱えて将来性がない」と。父と談判している最中に彼の自殺の報を受ける。
 暫くして、彼を運命の人と決めて男性との交際を避けていた彼女がアラビアを考古学的見地から調べるために砂漠を旅する。その際にたびたび手を差し伸べるのがダマスクスの領事ワイリー(ダミアン・リュイス)で、次第に彼女も憎からず思うようになるが、勃発した第一次大戦に従軍して帰らぬ人となる。
 その間に砂漠の様々なベドウィン族との間を渡り続け、砂漠の女王と尊敬されるようになった彼女は、祖国からの協力にも応じない。やがてアラビア北部では、大戦終了後、彼女が予言したように(実際には半ば彼女の画策通りに)国が成立していく。

何と言っても魅力は、砂漠を捉えた画面の美しさである。それと、時々挿入されるエスニックな音楽が素晴らしい。コンポを通して観たのだが、実に高音質。

その代わりロマンス中心に進められたストーリーは余り満足できない。彼女がアラビアの政治をかなり左右し、原住民を思って差配したとは言え、サイクス=ピコ協定等で英仏が勝手に引いた国境線が現在まで続く中近東の混乱を招いた主要因であることを考えると、その辺りが主たる物語から全く排除されているのは片手落ちである。単にエキゾチシズムを背景に漂わせたロマンスを作るだけならわざわざ実在する人物を持ってくるまでもなかったろう。

総合的にもアラビアならではの野趣は随時出てくるとは言え、描写が表面的で、ヘルツォークらしい匂いまで感じられるような野趣が感じられない。ロマンス中心だから人間描写に圧倒されるような強さも出てこない。「イングリッシュ・ペイシェント」(1996年)がお好きな方ならある程度楽しめると思うが、あの作品ほど余情を醸成できていない。ヘルツォークが畑違いだからだろう。ニコール・キッドマン主演映画らしいスケールの大きなロマンスとしては辛うじて及第点と言ったところ。

昔の洋画邦題の寄せ集めみたいだな。「アラビアのロレンス」「アフリカの女王」「愛と宿命の泉」「愛と喝采の日々」「愛と追憶の日々」・・・

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  • 「アラビアの女王 愛と宿命の日々」

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