映画評「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年イギリス=南ア合作映画 監督ギャヴィン・フッド
ネタバレあり
文学や映画は、時に人間を極端な実験台に乗せ、人間の本質に迫る。本作はその典型である。
現代。英米合同でドローンを使ったテロリスト捕獲作戦が進行中。英国では、国防大臣アラン・リックマンの協力の下、女性大佐ヘレン・ミレンを作戦遂行の指揮を執っている。現場はケニアのナイロビで、工作員が操作するコガネ虫型カメラを通してテロリスト・グループが自爆テロを敢行しようとしていることを掴む。
そこで、大佐は捕獲作戦を変更して一味排除を遂行しようとする。政治的には十分認められる根拠があるものだ。ところが、一味の拠点の前で少女が家で作ったパンを売り始める。少女が死亡するか重大な後遺症の残る重傷を負う確率は50%~65%。それでも、大佐はドローンによる攻撃を遂行しようとするが、会議室に集まった大臣以下の意見は分かれる。米国ネバダ州ではドローン・パイレットのアーロン・ポールは確率の再計算を大佐に求める。大佐の部下は攻撃する場所によって45~50%になると告げ、大佐はこれを根拠に攻撃をパイロットに命じる。
その間現場では工作員がパンを買い占めて少女を移動させようとするが、周囲を見守っている過激派に正体がばれてうまく行かない。
「ドローン・オブ・ウォー」という同趣向の作品があるが、本作は“トロリー問題”という倫理学上の命題を土台に据え、上述したように登場人物をその実験台に乗せる。大佐は”多数を救えるので、少女の犠牲もやむを得ない”と考える。彼女は寧ろ少数派で、多くは、倫理上の問題を考え、或いは保身のために、それに躊躇している。
一般論から言えば、多くを助ける方が良いと考えられるが、無垢の少女の姿を見てしまうとそう非情になれないのが人間である。「ドローン・オブ・ウォー」もそうであったように、現場の人間がつらいのはそのせいで、中国で外交に当たっているアメリカの国務大臣がごく事務的にOKを出すのとはきわめて対照的である。これが本作が心理ドラマ寄りの心理サスペンスとして非常に興味深くなった所以。
お話の構図がシンプルだから純度が高くなり、飽きさせない。最先端技術をもってすれば、少女を巻き込まない手段も十分考えられるが、そこは映画と割り切って観る。
「ドローン・オブ・ウォー」が主人公の心理を洞察させてドローン戦争の倫理上の問題を示したのに対し、本作は観客を登場人物と同じ位置に置き“あなたならどう考える”と迫る。テーマは人間そのものである。
洋楽ファンは「アイ・イン・ザ・スカイ」と聞けば、アラン・パーソンズ・プロジェクトを思い出す。あちらは、恋愛心理を歌った曲ですけどね。
2015年イギリス=南ア合作映画 監督ギャヴィン・フッド
ネタバレあり
文学や映画は、時に人間を極端な実験台に乗せ、人間の本質に迫る。本作はその典型である。
現代。英米合同でドローンを使ったテロリスト捕獲作戦が進行中。英国では、国防大臣アラン・リックマンの協力の下、女性大佐ヘレン・ミレンを作戦遂行の指揮を執っている。現場はケニアのナイロビで、工作員が操作するコガネ虫型カメラを通してテロリスト・グループが自爆テロを敢行しようとしていることを掴む。
そこで、大佐は捕獲作戦を変更して一味排除を遂行しようとする。政治的には十分認められる根拠があるものだ。ところが、一味の拠点の前で少女が家で作ったパンを売り始める。少女が死亡するか重大な後遺症の残る重傷を負う確率は50%~65%。それでも、大佐はドローンによる攻撃を遂行しようとするが、会議室に集まった大臣以下の意見は分かれる。米国ネバダ州ではドローン・パイレットのアーロン・ポールは確率の再計算を大佐に求める。大佐の部下は攻撃する場所によって45~50%になると告げ、大佐はこれを根拠に攻撃をパイロットに命じる。
その間現場では工作員がパンを買い占めて少女を移動させようとするが、周囲を見守っている過激派に正体がばれてうまく行かない。
「ドローン・オブ・ウォー」という同趣向の作品があるが、本作は“トロリー問題”という倫理学上の命題を土台に据え、上述したように登場人物をその実験台に乗せる。大佐は”多数を救えるので、少女の犠牲もやむを得ない”と考える。彼女は寧ろ少数派で、多くは、倫理上の問題を考え、或いは保身のために、それに躊躇している。
一般論から言えば、多くを助ける方が良いと考えられるが、無垢の少女の姿を見てしまうとそう非情になれないのが人間である。「ドローン・オブ・ウォー」もそうであったように、現場の人間がつらいのはそのせいで、中国で外交に当たっているアメリカの国務大臣がごく事務的にOKを出すのとはきわめて対照的である。これが本作が心理ドラマ寄りの心理サスペンスとして非常に興味深くなった所以。
お話の構図がシンプルだから純度が高くなり、飽きさせない。最先端技術をもってすれば、少女を巻き込まない手段も十分考えられるが、そこは映画と割り切って観る。
「ドローン・オブ・ウォー」が主人公の心理を洞察させてドローン戦争の倫理上の問題を示したのに対し、本作は観客を登場人物と同じ位置に置き“あなたならどう考える”と迫る。テーマは人間そのものである。
洋楽ファンは「アイ・イン・ザ・スカイ」と聞けば、アラン・パーソンズ・プロジェクトを思い出す。あちらは、恋愛心理を歌った曲ですけどね。
この記事へのコメント
拝読させていただきました。
本作私も観てみました。
命(少女)をめぐるのやり取りに
眼が離せませんでした。
♪アイ・イン・ザ・スカイというタイトル
私もA・パーソンズ・プロジェクトを
真っ先に思い浮かべてしまいました。
これは大好きな曲の1つなので…(笑)
(※任意URLのサイトにて
本作のレビューを載せております)
>命(少女)をめぐるのやり取り
そうでしたね!
もっと舞台を絞れば、舞台劇を見るようになったでしょうね。
>♪アイ・イン・ザ・スカイ
僕も大好きで、当時LPを買いましたよ。最初の「シリウス」という曲も映画などでよく使われる素敵なインストゥルメンタルですよね。
>任意URL
早速寄らせて戴きました。素敵で的確なレビューでした。
仰るように、サブタイトルが余分でしたね。