映画評「ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2016年アメリカ映画 監督ゲイリー・ロス
ネタバレあり

ニュートン・ナイトは米国南部の隠れた偉人で、アメリカでは知られた存在らしい。不勉強で僕は知らなかった。

南北戦争最中、南軍衛生兵ニュートン(マシュー・マコノヒー)は戦死した甥を届ける為に脱走して故郷ミシシッピへ帰る。普段から奴隷所有数により兵役が免除されるといった不公平さが面白くなかった彼は、脱走兵狩りから逃れて沼地地帯に逃げ込み、逃亡奴隷たちと親しくなる。彼らの面倒を見る者もいる。やがて彼と逃亡奴隷たち、逃亡兵、貧農とが手を取り合ってゲリラ軍を組織、統率よろしく南軍の一個師団を倒し、確保した地域を「ジョーンズ自由州」と名付ける。やがて戦争が終って黒人は解放されるが、結局南部の富豪たちが実権を握って契約の名の下に雇用した黒人たちを痛めつける。

というのが主軸となるお話で、これに絡めて85年後(計算では第2次大戦直後)、ニュートンと逃走中に懇ろになった黒人女性レイチェル(ググ・ンバータ=ロー)との間に生まれた子供の孫(1/8黒人の血が混じっている)と白人女性との結婚をめぐる裁判で若者が有罪判決を受ける様子が描かれる。
 黒人が真に自由を得るにはそれからさらに暫くの時間が要る、という溜息が出るようなエピソードと言うべし。ニュートンが戦い終えてからおよそ100年後に彼らは、差別は残るにしても、真に自由を得ることになる。

僕は差別する人間の気持ちが全く解らない。昔に比べれば大人しくなったとは言え、未だにKKKが存在するアメリカは、イスラム圏の野蛮さを揶揄できまい。精神構造的に学校でのいじめと似たようなもので、所謂【マイナスの承認欲求】が働いているのであろう。

かくして本作について、個人的に、義憤ということが第一に来てしまうわけだが、南部の比較的恵まれた白人の彼が脱走からゲリラ軍を組織するというお話への興味が尽きない。それも監督・共同脚本のゲイリー・ロスがなかなかがっちりと展開しているからで、見応え十分である。
 南北戦争のお話に、85年後のお話が突然入ってくるところで些かびっくりさせられる。通常の脚本家であれば、ここから始まり85年前に戻るという作劇にするところなので、正攻法に見えて、案外サムライぶりを発揮している。構成的にややぎこちなさを生んでいる恨みも否定できないのだが、黒人の真の解放への長い道のりというニュアンスを加える効果は十分認められる。

トランプ大統領が生まれる前の作品ながら、どこか予言したような内容。トランプは「自分ほど差別から遠い人はいない」と豪語するが、もしそうであれば、差別反対デモで白人女性が死んだ時あのような反応はしなかったであろう。数多い彼の嘘の一つですな。
 また、現在共和党は南部に勢力のある保守であるが、本作を観ても解るように、南北戦争の頃は今とは全く逆のリベラルであった。これもまた面白い現象だ。

閑話休題。
 マコノヒーはデビュー当時の清潔なイメージとは大分違う役柄が増えていて、今回も大力演。しかし、ひげなど生えていると、クリスチャン・ベールと区別しにくい。

かつてTVでやっていたIQテストの結果、僕の弱点は、映像(画像)記憶問題と判った。だから俳優の区別もできないのかな? 映画ファンとしては避けたい弱点なのだが。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • 映画評「ラビング 愛という名前のふたり」

    Excerpt: ☆☆☆(6点/10点満点中) 2016年アメリカ=イギリス合作映画 監督ジェフ・ニコルズ ネタバレあり Weblog: プロフェッサー・オカピーの部屋[別館] racked: 2018-06-02 09:11
  • 映画評「バース・オブ・ネイション」

    Excerpt: ☆☆☆★(7点/10点満点中) 2016年アメリカ=カナダ合作映画 監督ネイト・パーカー ネタバレあり Weblog: プロフェッサー・オカピーの部屋[別館] racked: 2019-02-04 08:48