映画評「バースデーカード」

☆☆★(5点/10点満点中)
2016年日本映画 監督・吉田康弘
ネタバレあり

33歳の母親・芳恵(宮崎あおい)が、10歳の娘・紀子と二つくらい年下らしい息子・正夫を残して病没する。二人は夫・宗一郎(ユースケ・サンタマリア)が懸命に育てるが、母親は死ぬ前に子供たちに毎年成人するまで手紙(バースデーカード)を送ることを約束している。

かくして、、娘11歳から始まり、20歳まで受け取ることになるが、19歳の時(橋本愛)には「いない母親に人生を決められるのは嫌だ」と言って封を開けない。
 僕にとって、本作一番のハイライトはここである。彼女の本音は言葉とは違う。「母親がここにいない」ことが悔しいのだ。そして、後日開けた手紙には自分が手紙を破ったことを夫に責められたと書いてある。その中で彼女は夫に言う、「自分は19歳の、20歳の紀子を見ることが出来ない」と。つまり、母と娘の思いは全く同じであったのだ。

ここまではしっとりとした心情を綴るエピソードが多くなかなか良い作品と涙腺を熱くしながらニコニコ見てきたが、この辺りからトーンが大きく崩れてヘンテコな作品になる。以下の如し。

母親が頭が良くクイズ番組「アタック25」を出る夢を持っていたが果たせないまま死ぬ。そこで最後の手紙を受け取った後彼女はその思いを実現すべく勉強に励む。その間に中学時代の同級生でラーメン店店主を目指す純(中村蒼)とステディーな関係を育み、遂に念願の出場を果たす。その現場で純君は父親に結婚の話をし、紀子は惜しいところで優勝を逃す。そして結婚式当日、紀子は母親のもう一通の手紙とヴェールを受け取る。

20歳の手紙を受け取ったところで終われば地味ではあるけれども捨てがたい作品になったと思うが、この終盤は方向性がばらけて殆ど純コメディーに近い感覚になる。情感のこもる親子の物語にそこはかとないユーモアは良いがギャグはダメである。ユースケ・サンタマリアに本領を発揮する場が与えられたとも言えるが。

製作会社系列の「アタック25」が大きく取り上げられること自体は特段構わないが、ここに時間を割きすぎる上に、その中で母親との思い出がフラッシュバック(図書館でのエピソード)するなど欲をかきすぎて実に落ち着かない作品となってしまった。ある人の「ひねりがない」という理解は少し違って、脚本と監督を兼ねた吉田康弘が細かいところをひねりすぎてお話が甚だ散漫になってしまったというのが実際である。

こんな調子だから「TV局絡みの作品は信用できない」などと言われるのだ。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック