映画評「夜は短し歩けよ乙女」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2017年日本映画 監督・湯浅政明
ネタバレあり
僕は相当の読書家だが、現代ものは読まない。芥川賞を取ろうが、ベストセラーだろうが、読まない。ベストセラーなど新しくても50年前のものしか読まない。コミックはまして読まない。だから、映画を見るに実に都合が良い。原作による先入観が生まれず、純粋に映画として楽しめる。読むとしたら映画の後だ。
近年ではビデオという手段があるとは言え、映画は本来一方的に流れ観客が処理できる量が限られているので、じっくり理解できる原作を読んだ後に観て単純に比較するのは映画が圧倒的に不利と思われる。連続的な視覚がある故に視覚の全くない小説とは話法が違い、同じ様に作れるはずもないのに、「原作通りに作れ」と無理を言う原作ファンが多いのにもがっかりさせられる。ヒッチコックの言うように、映画は映画単独で評価しなければならない。
閑話休題。
本作は、森見登美彦のベストセラーのアニメ映画化である。原作はクイズをしていて題名を知り、観てみようという気になった。監督は湯浅政明。この監督の作品を観るのは今回が全く初めてである。
コミックやYA小説の映画化と言えば、似たり寄ったり、団栗の背比べみたいな印象が強く老人には余り有難くないのだが、このアニメくらい独自性があれば嬉しくなる。
舞台は京都、京都大学もどきの大学とその周辺。
ある夜のこと、ヒロイン“黒髪の乙女”(声:花澤香菜)は酒を飲む機会を求めて街に繰り出し、酒場でその界隈に詳しい男女二人組と知り合ってうわばみぶりを発揮する。そんな彼女を慕っている“先輩”(声:星野源)は、彼女に偶然を装って接近して印象付けようとし、そのため彼女が幼女時代に読んだ童話の古本を探し求め、結果的に賑やかな騒動が起きる。
一方、大学では風紀委員会があり、ゲリラ演劇を取り締まっている。“先輩”はその対象となっている演劇の主人公役と入れ替わって、そのヒロイン役に起用された“黒髪の乙女”とキスをしようと計画する。この企図では別のカップルが誕生するが、これらの騒動の中で風邪が流行、“黒髪の乙女”が見舞いにやって来ると知って“先輩”は心理的にパニックになる。
というお話は、一見ごった煮ながら色々と連関し合って無駄は少ない。名酒、春画、古本、ゲリラ演劇を縦横無尽に交錯させ、扱われるアイテムや絵のタッチにより伝奇的なムードが醸成されているのが最大の収穫。その絵のタッチもなかなか複雑で、人物は線画的でシンプル、全体としてフレンチ・アニメを思い出させるところがある。幻想的な場面では時に思いがけず早世した今敏を思い出させたりもする。
日本より海外の評価が圧倒的に高いのはやはり原作を知らないことによる先入観のなさが最大の理由、次いで芸術志向の高いアニメへの理解度の差であろう。中年以上の人こそ観るべし。
思い出すなあ、志村喬。この意味が解らない人は映画ファンにあらず。
2017年日本映画 監督・湯浅政明
ネタバレあり
僕は相当の読書家だが、現代ものは読まない。芥川賞を取ろうが、ベストセラーだろうが、読まない。ベストセラーなど新しくても50年前のものしか読まない。コミックはまして読まない。だから、映画を見るに実に都合が良い。原作による先入観が生まれず、純粋に映画として楽しめる。読むとしたら映画の後だ。
近年ではビデオという手段があるとは言え、映画は本来一方的に流れ観客が処理できる量が限られているので、じっくり理解できる原作を読んだ後に観て単純に比較するのは映画が圧倒的に不利と思われる。連続的な視覚がある故に視覚の全くない小説とは話法が違い、同じ様に作れるはずもないのに、「原作通りに作れ」と無理を言う原作ファンが多いのにもがっかりさせられる。ヒッチコックの言うように、映画は映画単独で評価しなければならない。
閑話休題。
本作は、森見登美彦のベストセラーのアニメ映画化である。原作はクイズをしていて題名を知り、観てみようという気になった。監督は湯浅政明。この監督の作品を観るのは今回が全く初めてである。
コミックやYA小説の映画化と言えば、似たり寄ったり、団栗の背比べみたいな印象が強く老人には余り有難くないのだが、このアニメくらい独自性があれば嬉しくなる。
舞台は京都、京都大学もどきの大学とその周辺。
ある夜のこと、ヒロイン“黒髪の乙女”(声:花澤香菜)は酒を飲む機会を求めて街に繰り出し、酒場でその界隈に詳しい男女二人組と知り合ってうわばみぶりを発揮する。そんな彼女を慕っている“先輩”(声:星野源)は、彼女に偶然を装って接近して印象付けようとし、そのため彼女が幼女時代に読んだ童話の古本を探し求め、結果的に賑やかな騒動が起きる。
一方、大学では風紀委員会があり、ゲリラ演劇を取り締まっている。“先輩”はその対象となっている演劇の主人公役と入れ替わって、そのヒロイン役に起用された“黒髪の乙女”とキスをしようと計画する。この企図では別のカップルが誕生するが、これらの騒動の中で風邪が流行、“黒髪の乙女”が見舞いにやって来ると知って“先輩”は心理的にパニックになる。
というお話は、一見ごった煮ながら色々と連関し合って無駄は少ない。名酒、春画、古本、ゲリラ演劇を縦横無尽に交錯させ、扱われるアイテムや絵のタッチにより伝奇的なムードが醸成されているのが最大の収穫。その絵のタッチもなかなか複雑で、人物は線画的でシンプル、全体としてフレンチ・アニメを思い出させるところがある。幻想的な場面では時に思いがけず早世した今敏を思い出させたりもする。
日本より海外の評価が圧倒的に高いのはやはり原作を知らないことによる先入観のなさが最大の理由、次いで芸術志向の高いアニメへの理解度の差であろう。中年以上の人こそ観るべし。
思い出すなあ、志村喬。この意味が解らない人は映画ファンにあらず。
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