映画評「ハクソー・リッジ」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2016年オーストラリア=アメリカ合作映画 監督メル・ギブスン
ネタバレあり
出来栄えに差はあるが、アンジェリーナ・ジョリーの「不屈の男 アンブロークン」と好一対を成す戦争実話である。どちらも、信心深く、それ故に信念を曲げなかった男を主人公にし、構成的にも戦場へ赴く前の時代が丹念に扱われている。本業を俳優とする人の手になる作品いう共通点もある。
第一次大戦で戦争の不毛にすっかりDV男になった父親(ヒューゴー・ウィーヴィング)が優しい母親(レイチェル・グリフィス)を痛めつけるのを見て銃を突きつけるが、結局聖書の十戒のこともあって引き金を引けなかった若者デズモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィールド)は真珠湾攻撃を知り従軍、父親との事件を機に銃に一切触れないことを誓っているので、衛生兵を目指す。しかし、基地で指導する上官たちはそれを全く理解せず、色々細工をして除隊に追い込もうと図る。彼が考えも変えず出て行きもしないため、遂には軍事裁判にかけ有罪寸前に追い込むが、父親が大昔の上官である准将にかけ合って書いてもらった手紙のおかげで衛生兵として出征を果たす。
というところで丁度半分。
後半はいよいよ戦場に舞台が移り、怒涛と言って良い戦闘場面が始まる。舞台は沖縄の前田高地(ハクソー・リッヂ)である。
個人の趣味としては、人体損壊度が激しすぎるのが気になるが、まあ戦争を良いものだと思っている若者にはこれくらい凄惨なものを見せるのが良いのかもしれない。同時に、この目を覆いたくなる描写を“月並み”と評する人がいるのを知ると、余りえげつないものを見過ぎて感覚が麻痺しているように思い、心配になる面もあるのだが。
戦闘場面の迫力としては、紛うことなくトップ・クラス。そんな中で主人公は、単身、切り立つ崖の上で横たわる米兵は勿論日本兵も助けて崖の下に下す八面六臂の活躍をする。戦場で神の意思を見出し、文字通り神がかった活躍をするのである。後半も比較的静かな場面に推移する「アンブロークン」より強烈な印象を残す所以。
一部批判的な意見として、崖を登るための網を日本軍が切らなかったことに疑問が呈されているが、実話だから何かしらの作戦上の理由があったはずで、登ってきた米兵を(一網打尽に・・・網だけに)仕留める自信が日本軍にあったということだろう。登ってこなければ倒せるものも倒せない。
前半のドラマ部分にテクニカル面で不満が残るが、全体としてはメル・ギブスンの殊勲と言える出来栄え。
沖縄が舞台であることを配給会社が示さなかったのは、一部観客が敬遠するのを嫌がったのではないか。本土ナショナリストは、沖縄の人を日本人と思っていないと思う。僕は、政治的にではなく、純民族的に、中国に住む人がみな中国人(漢民族)でないのと同様に、アイヌ人共々日本人と思っていないが、それとは意味が違う。
2016年オーストラリア=アメリカ合作映画 監督メル・ギブスン
ネタバレあり
出来栄えに差はあるが、アンジェリーナ・ジョリーの「不屈の男 アンブロークン」と好一対を成す戦争実話である。どちらも、信心深く、それ故に信念を曲げなかった男を主人公にし、構成的にも戦場へ赴く前の時代が丹念に扱われている。本業を俳優とする人の手になる作品いう共通点もある。
第一次大戦で戦争の不毛にすっかりDV男になった父親(ヒューゴー・ウィーヴィング)が優しい母親(レイチェル・グリフィス)を痛めつけるのを見て銃を突きつけるが、結局聖書の十戒のこともあって引き金を引けなかった若者デズモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィールド)は真珠湾攻撃を知り従軍、父親との事件を機に銃に一切触れないことを誓っているので、衛生兵を目指す。しかし、基地で指導する上官たちはそれを全く理解せず、色々細工をして除隊に追い込もうと図る。彼が考えも変えず出て行きもしないため、遂には軍事裁判にかけ有罪寸前に追い込むが、父親が大昔の上官である准将にかけ合って書いてもらった手紙のおかげで衛生兵として出征を果たす。
というところで丁度半分。
後半はいよいよ戦場に舞台が移り、怒涛と言って良い戦闘場面が始まる。舞台は沖縄の前田高地(ハクソー・リッヂ)である。
個人の趣味としては、人体損壊度が激しすぎるのが気になるが、まあ戦争を良いものだと思っている若者にはこれくらい凄惨なものを見せるのが良いのかもしれない。同時に、この目を覆いたくなる描写を“月並み”と評する人がいるのを知ると、余りえげつないものを見過ぎて感覚が麻痺しているように思い、心配になる面もあるのだが。
戦闘場面の迫力としては、紛うことなくトップ・クラス。そんな中で主人公は、単身、切り立つ崖の上で横たわる米兵は勿論日本兵も助けて崖の下に下す八面六臂の活躍をする。戦場で神の意思を見出し、文字通り神がかった活躍をするのである。後半も比較的静かな場面に推移する「アンブロークン」より強烈な印象を残す所以。
一部批判的な意見として、崖を登るための網を日本軍が切らなかったことに疑問が呈されているが、実話だから何かしらの作戦上の理由があったはずで、登ってきた米兵を(一網打尽に・・・網だけに)仕留める自信が日本軍にあったということだろう。登ってこなければ倒せるものも倒せない。
前半のドラマ部分にテクニカル面で不満が残るが、全体としてはメル・ギブスンの殊勲と言える出来栄え。
沖縄が舞台であることを配給会社が示さなかったのは、一部観客が敬遠するのを嫌がったのではないか。本土ナショナリストは、沖縄の人を日本人と思っていないと思う。僕は、政治的にではなく、純民族的に、中国に住む人がみな中国人(漢民族)でないのと同様に、アイヌ人共々日本人と思っていないが、それとは意味が違う。
この記事へのコメント
本作でもノックアウトされた感でしたね〜
後半、あの屹立した岩壁に垂れ下がる縄梯子を
行き来する描写はかなりインパクトがありました。
強固な信念の方のお話。
映画にまた教えてもらった気がします。
>日本人と思っていないと
私の住んでる北海道。アイヌの方々。
微妙にアンタッチャブルな件ではありますが
人は生きて暮らして行かねばなりませんから。
戦闘場面が圧巻で、それに続く主人公の活躍を描く部分の宗教映画に通ずる力強さは凄いパワーでしたねえ。日本映画が同じようなことをやると相当変になりますが、この辺は力のある西洋の監督は圧倒するものを見せます。脱帽です。
これを先に見ると、「不屈の男 アンブロークン」は分が悪い。
>アイヌ
琉球人とアイヌ人は民族的に近いでしょうが、絶対的な人口の差(純アイヌ人はいないという説もあり)もあって、どちらが良いか悪いか解らないものの、扱いには大きな差がありますね。
個人の考えとして、縄文人の血を直に引いているのは彼等ではないでしょうか。弥生人との混血である日本人が先祖たる彼らを差別しているような気もします。浅学で間違った理解かもしれませんが。
公開時に観に行きましたが、戦場シーンの悲惨さが強烈でした。大画面ではより大きく細部が見えるので、手だけとか顔の表面だけとかの遺体や彼らを食いつぶすネズミたちが蠢く様子がはっきりと分かり、より酷い様子を映しだしていました。
これを生ぬるいと言える人はおっしゃる通りで感覚がマヒしていますね。
タイトルについては昭和のころだったら、邦題が付くでしょうから、『沖縄 地獄の戦場』とか『激戦 前田高地』とかになっていたのでしょう。もしくは国民感情を考えて、まったく上映されないかでしょうか。
こういうのもたまには夜9時台の洋画劇場でノーカットで放送すべきですね。
ではまた!
TVでもげんなりしましたから、数年前に心療内科に通った経験があり、ちょっとした音にもビクッとしていた僕には映画館で観るのはきつそうですねえ。
>『沖縄 地獄の戦場』
「地獄の戦場」という邦題の映画は実際にありました。昔は戦争映画が大量に放送されましたから、観ましたよ。
岡本喜八の「激動の昭和史 沖縄決戦」とこの映画を併せて観ると良いと仰る人もいましたねえ。
>国民感情
僕は今の方がセンシティヴなような気がしますねえ。ネットにより右と左が内戦状態で、何ということもない日本が出て来る実話映画にすぎない「アンブロークン」の公開を(右翼が怖いので)大手は止めましたから。右も左も極端になると本当に厄介です。
>大手
気にしすぎですし、いちゃもんつけるヤツは声がでかいだけで、よく見ると数は少ないものですww
クレーマーを相手にしなくていいという法律やコンセンサスを早く作るべきだと思いますよ。
>沖縄決戦
ありましたねえ。というか僕はこれのビデオを持っています。母親がすでに亡くなっている子供の遺体の一部を抱えながらフラフラ歩いているシーンが強烈でした。
ではまた!
>よく見ると数は少ないものです
そう思います。
「アンブロークン」では、実際には何もできないネトウヨなる連中が主に騒いだわけですが、それを読売新聞とか産経新聞の記者がリードしたのが気に入らない。時代錯誤も甚だしい。しかも実物を見れば、実質的に日本の悪いことは何も言っていず、彼らの被害妄想にも呆れます。
>>沖縄決戦
>母親がすでに亡くなっている子供の遺体の一部を抱えながら
そうでしたねえ。
女児が一人彷徨する一連のショットも印象的でした。