映画評「湯を沸かすほどの熱い愛」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2016年日本映画 監督・中野量太
ネタバレあり
離婚して別の女性と結婚して死んだ父の葬式に姉妹が行く74分の習作的小品「チチを撮りに」を発展させたような中野量太監督の新作である。
銭湯を経営する夫オダギリジョーが消えてしまったので休業してパン屋で働き、一人娘の杉咲花を懸命に育てる母親・宮沢りえが、末期がんと宣告される。しかし、めそめそ泣いている暇はない。探偵・駿河太郎を雇って夫の行方を探し出すと、浮気相手に逆に出て行かれた彼を相手の娘(彼の娘とされている)伊藤蒼ちゃん共々迎えて銭湯稼業を再開し、学校で虐められている娘を無理やり学校に送り出して虐めを克服させる。
続いて、咲ちゃんと蒼ちゃんを連れて静岡へ旅に出る。ただの旅ではない。毎年蟹を届けてくれる聾唖の女性・篠原ゆき子、実は咲ちゃんの実母に会わせるのが魂胆である。序盤に少女が手話を理解できたのは養母が将来の為を思って・・・という種明かし。
さらに追い打ちをかけるように、りえママが蒼ちゃん同様母に捨てられた少女であったという事実が判明する。
蒼ちゃんが出てきた後のフラッシュバックは少女ではなく、りえママのものであったといううっちゃりで、色々仕掛けがしてあるなあと思わせ、お話の完成度は「チチを撮りに」より高い。
反面、少し作り過ぎの感があり、短くてひねる時間がなかった「チチを撮りに」のほうが映画として純度が高くて好ましい。まあ、好き嫌いのレベル。
ひねりと言えば、本作は、死病ものに母ものの要素をドッキングさせたというところが興味深い。りえママが漸く探し当てた老母(りりぃ)に会いに行く幕切れは戦前母ものの名作「ステラ・ダラス」の応用である。かの映画(群。何度もリメイクされている)では老母がかつて捨てた娘を窓越しにこっそり見るのだがこちらは逆。しかし、中野監督はひねくれているので、感動的な場面と思わせておいて、彼女に石を投げさせる。「チチを撮りに」の幕切れで気丈な母親が先夫の遺灰を河に投げてしまうのと似た味である。
最後は、火葬場の代わりに銭湯で彼女を焼き、風呂を沸かす。これも一種のおとぼけで、湿っぽい終わり方にしなかったのは殊勲。そして黒澤明監督「天国と地獄」(1963年)以来の煙突からの赤い煙だ。彼女は赤が好きで、レンタカーの車も赤だった。育ての母の愛情と言おうか、スケールの大きな人間性に感動する一編と言うべし。
宮沢りえは実に良い女優になったと思う。「トイレのピエタ」で注目した杉咲花はやはりすごい。
そう言えば、宮沢りえは杉咲花と「トイレのピエタ」で共演済みだった。僕から見たら大分年下だから、りえちゃんと言っても良いのだろうが、結婚したとの報道がありました。グッド・タイミングと言うべきか?
2016年日本映画 監督・中野量太
ネタバレあり
離婚して別の女性と結婚して死んだ父の葬式に姉妹が行く74分の習作的小品「チチを撮りに」を発展させたような中野量太監督の新作である。
銭湯を経営する夫オダギリジョーが消えてしまったので休業してパン屋で働き、一人娘の杉咲花を懸命に育てる母親・宮沢りえが、末期がんと宣告される。しかし、めそめそ泣いている暇はない。探偵・駿河太郎を雇って夫の行方を探し出すと、浮気相手に逆に出て行かれた彼を相手の娘(彼の娘とされている)伊藤蒼ちゃん共々迎えて銭湯稼業を再開し、学校で虐められている娘を無理やり学校に送り出して虐めを克服させる。
続いて、咲ちゃんと蒼ちゃんを連れて静岡へ旅に出る。ただの旅ではない。毎年蟹を届けてくれる聾唖の女性・篠原ゆき子、実は咲ちゃんの実母に会わせるのが魂胆である。序盤に少女が手話を理解できたのは養母が将来の為を思って・・・という種明かし。
さらに追い打ちをかけるように、りえママが蒼ちゃん同様母に捨てられた少女であったという事実が判明する。
蒼ちゃんが出てきた後のフラッシュバックは少女ではなく、りえママのものであったといううっちゃりで、色々仕掛けがしてあるなあと思わせ、お話の完成度は「チチを撮りに」より高い。
反面、少し作り過ぎの感があり、短くてひねる時間がなかった「チチを撮りに」のほうが映画として純度が高くて好ましい。まあ、好き嫌いのレベル。
ひねりと言えば、本作は、死病ものに母ものの要素をドッキングさせたというところが興味深い。りえママが漸く探し当てた老母(りりぃ)に会いに行く幕切れは戦前母ものの名作「ステラ・ダラス」の応用である。かの映画(群。何度もリメイクされている)では老母がかつて捨てた娘を窓越しにこっそり見るのだがこちらは逆。しかし、中野監督はひねくれているので、感動的な場面と思わせておいて、彼女に石を投げさせる。「チチを撮りに」の幕切れで気丈な母親が先夫の遺灰を河に投げてしまうのと似た味である。
最後は、火葬場の代わりに銭湯で彼女を焼き、風呂を沸かす。これも一種のおとぼけで、湿っぽい終わり方にしなかったのは殊勲。そして黒澤明監督「天国と地獄」(1963年)以来の煙突からの赤い煙だ。彼女は赤が好きで、レンタカーの車も赤だった。育ての母の愛情と言おうか、スケールの大きな人間性に感動する一編と言うべし。
宮沢りえは実に良い女優になったと思う。「トイレのピエタ」で注目した杉咲花はやはりすごい。
そう言えば、宮沢りえは杉咲花と「トイレのピエタ」で共演済みだった。僕から見たら大分年下だから、りえちゃんと言っても良いのだろうが、結婚したとの報道がありました。グッド・タイミングと言うべきか?
この記事へのコメント
『ジマンジ』とか『トゥームレイダー』とか・・・ちょっとね。
いよいよネタ切れも極めまりですかね。
日本の漫画や小説にはハリウッドで大予算で映画化すればヒットしそうな作品が多いのですがね。
売り込みが下手なんですかね。
低予算で作られてガックリする作品がありますからね。
僕はシリーズもリメイクの一種と考えるので、そういう意味ではハリウッドの大作は殆どリメイクと言っても良いくらいの惨状ですね。
「トゥームレイダー」ねえ。元々大して面白いとも思わなかったシリーズでしたが、主演女優を変えて新作とな。
>売り込み
日本人は、中国人や韓国人に比べると、上品と言うか、売り込まないですねえ。アメリカ映画で日本人役に日本の俳優が使われるケースが殆どないことを考えても僕はがかっかり。英語力の問題があるにしても“どうにかせい”という感じ。IMDbの投票数も日本映画はアメリカで大人気のインド映画は勿論、韓国映画、中国映画に比べて少ないです。まともに公開されていないからなんですよね。
彼女は、広瀬すずに似ている感じですが、日本人には彼女たちのような面立ちが人気あります・・。
>日本人の俳優 英語力の問題
「SAYURI」で、ヒロインの日本人である京都の芸者をチャン・ツィーが演じるなど枚挙に暇がない(笑)
工藤夕希なんかは、「台風クラブ」などでもシッカリした演技力もあり、「ヒマラヤ杉に降る雪」を見た限りでは、英語力も帰国子女クラスでしたが米国では主演はこの一本だけかな・・。
まあ、歴史的に見ても、米国人は、中国に甘く(当時)日本に厳しすぎた時代があり(それも戦争の理由のひとつでしょうが・・)
最近では、米国が中国のご機嫌伺いしてるので、日本人女優はますますハリウッドデビューから遠ざかってしまいそうです
然しながら、日本の生きる道はアニメと怪獣映画にありますからね(笑)
冗談でなく、近い将来、アニメのアカデミー賞が実写のそれと肩を並べる(あるいは凌駕する)時代が来るかもしれませんね。
>宮沢りえ
>広瀬すずに似ている感じ
なるほど。
見方によってはちょっときつい感じがするところがありますね。
>工藤夕希
「ヒマラヤ杉に降る雪」はなかなかの佳作でしたし、演技力も英語力も素晴らしかったですが、それ以来重要なハリウッド出演作はないですねえ。
>米国人は、中国に甘く
確か1930年代から日本人は移民できなくなりましたね。
>米国が中国のご機嫌伺い
ハリウッド映画は中国大衆をターゲットにしているそうですからねえ。昔は日本がターゲットでしたが、その割に日本におべんちゃらを使う作品は殆どなかったですね。
>アニメのアカデミー賞が実写のそれと肩を並べる
現在のジャンル映画は、実写と称しても、半分はCGによるアニメ。それなら全部アニメの方が余程良いかもしれないと、僕などは思ってしまいます。
「聲の形」で書こうと思って書かなかったことに、コミックを実写化したものより、コミックをアニメ化したもののほうがぐっと鑑賞に堪える、という内容がありました。