映画評「LION/ライオン~25年目のただいま~」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2016年オーストラリア映画 監督ガース・デーヴィス
ネタバレあり
インドとオーストラリアにまたがる実話。
1985年インドの北部。5歳のサルー(サニー・パワール)は貧しい家政を助ける為に、十代の兄グドゥ(アピシェーク・バラク)と共に色々と仕事をこなしているが、二人で駅に行った時になかなか帰ってこない兄を探して回送列車に乗り込んだのが運の尽き、遥々とカルカッタまで運ばれてしまう。
この映画で一番印象に残るのが、少年が何とか故郷に戻ろうと混雑する切符売り場にいる場面である。いくら言葉が通じないとは言え、大人がいとけない幼児を無視するどころか邪険に扱う。義憤にかられる。しかし、インドでは多数のストリート・チルドレンが出現して一々親切にできないのだろうということを、構内で寝ている子供たちの姿が示唆する。
これを見て実は日本にもこれに近い時代があったことに思いを馳せていた。1948年に作られた「手をつなぐ子等」「蜂の巣の子供達」、1949年の「忘れられた子等」を見れば、その時代のことがよく解る。いずれも秀作なのでビデオを買ってでも観るべし。
結局彼は孤児院に送られ、間もなくオーストラリアの白人ブリアーリー夫妻(夫デーヴィッド・ウェナム、妻ニコール・キッドマン)の養子となる。
凡そ20年後大学に進学したサルー(デフ・パテル)は、あるインド人の家で懐かしい揚げ菓子を見て、幸福な日々に忘れていた故郷を思い出す(「失われた時を求めて」の如く)。友人たちに勧められ、記憶を辿ってグーグル・アースで探し出そうとするが、該当する近くに給水塔のある駅は無数にあって途方に暮れ、恋人ルーシー(ルーニー・マーラ)との関係もややこしくなる。
この映画の難点は二人の関係であろう。彼女がサルーが母親探しに賛成しているのか嫌がっているのか曖昧(場面によって違う印象があるということ)で、彼がインドに出て行った後のことも全く解らない。
5年かけて彼は故郷を発見し、遂に母親と妹との再会を果たす。しかし、彼が回送列車に乗ったその夜に弟を捜索中に列車に轢かれて死んだグドゥはそこにいない(現実的に考えると、グドゥは仕事中に死んだ可能性が高い。しかるべき時間が来ても主人公の前に現れなかったのだから)。
この再会場面はドキュメンタリーのような感覚があって秀逸、それに続く実写の場面とスムーズに繋がっている。実物はニコールほど綺麗ではないが、彼女が似せていることがよく解って、ある意味微笑ましい。
個人的に、彼にはオーストラリアに戻ってほしかったが、それはそれで、お話は文句なしに感動的である。しかるに、オーストラリアへ渡ってからは些か散文的で、映画としての魅力や迫力が断然あるとは言いにくい。
10年位前までTV番組「アンビリバボー」を見ていた。映画ファンとしてこの番組の欠点は、実話の映画化が多くなった時代ゆえ映画で使われる素材とダブることが多く、後日映画を観た時に事前にお話を知っていることがままあり(「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」など)興ざめてしまうこと。尤もこの番組を見るのを止めたのは、それとは関係なく、番組に出る連中が余分なことを話すことが多くなり純度が下がったからである。映画ほどではないが、TV番組も純度は大事だ。
2016年オーストラリア映画 監督ガース・デーヴィス
ネタバレあり
インドとオーストラリアにまたがる実話。
1985年インドの北部。5歳のサルー(サニー・パワール)は貧しい家政を助ける為に、十代の兄グドゥ(アピシェーク・バラク)と共に色々と仕事をこなしているが、二人で駅に行った時になかなか帰ってこない兄を探して回送列車に乗り込んだのが運の尽き、遥々とカルカッタまで運ばれてしまう。
この映画で一番印象に残るのが、少年が何とか故郷に戻ろうと混雑する切符売り場にいる場面である。いくら言葉が通じないとは言え、大人がいとけない幼児を無視するどころか邪険に扱う。義憤にかられる。しかし、インドでは多数のストリート・チルドレンが出現して一々親切にできないのだろうということを、構内で寝ている子供たちの姿が示唆する。
これを見て実は日本にもこれに近い時代があったことに思いを馳せていた。1948年に作られた「手をつなぐ子等」「蜂の巣の子供達」、1949年の「忘れられた子等」を見れば、その時代のことがよく解る。いずれも秀作なのでビデオを買ってでも観るべし。
結局彼は孤児院に送られ、間もなくオーストラリアの白人ブリアーリー夫妻(夫デーヴィッド・ウェナム、妻ニコール・キッドマン)の養子となる。
凡そ20年後大学に進学したサルー(デフ・パテル)は、あるインド人の家で懐かしい揚げ菓子を見て、幸福な日々に忘れていた故郷を思い出す(「失われた時を求めて」の如く)。友人たちに勧められ、記憶を辿ってグーグル・アースで探し出そうとするが、該当する近くに給水塔のある駅は無数にあって途方に暮れ、恋人ルーシー(ルーニー・マーラ)との関係もややこしくなる。
この映画の難点は二人の関係であろう。彼女がサルーが母親探しに賛成しているのか嫌がっているのか曖昧(場面によって違う印象があるということ)で、彼がインドに出て行った後のことも全く解らない。
5年かけて彼は故郷を発見し、遂に母親と妹との再会を果たす。しかし、彼が回送列車に乗ったその夜に弟を捜索中に列車に轢かれて死んだグドゥはそこにいない(現実的に考えると、グドゥは仕事中に死んだ可能性が高い。しかるべき時間が来ても主人公の前に現れなかったのだから)。
この再会場面はドキュメンタリーのような感覚があって秀逸、それに続く実写の場面とスムーズに繋がっている。実物はニコールほど綺麗ではないが、彼女が似せていることがよく解って、ある意味微笑ましい。
個人的に、彼にはオーストラリアに戻ってほしかったが、それはそれで、お話は文句なしに感動的である。しかるに、オーストラリアへ渡ってからは些か散文的で、映画としての魅力や迫力が断然あるとは言いにくい。
10年位前までTV番組「アンビリバボー」を見ていた。映画ファンとしてこの番組の欠点は、実話の映画化が多くなった時代ゆえ映画で使われる素材とダブることが多く、後日映画を観た時に事前にお話を知っていることがままあり(「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」など)興ざめてしまうこと。尤もこの番組を見るのを止めたのは、それとは関係なく、番組に出る連中が余分なことを話すことが多くなり純度が下がったからである。映画ほどではないが、TV番組も純度は大事だ。
この記事へのコメント
>ルーニー・マーラ
仰るとおり、本来ハードルが高い異人種間恋愛だから、障害を乗り越えるだけの何かが二人にあったはずだし、それを主人公の生い立ちから形成された人格と結びつけて描くこともできたのでは・・。
映画の内容とは外れますが、この作品は、例の一大ムーブメントの切っ掛けとなったMr.セクハラこと、ハーヴェイ・ワインスタインが製作総指揮なんですね・・ぼくはこの運動には懐疑的ですね・・。ラブ・モーションとセクハラを混同してはいけない・・。男は女性の敵でなく理解者でしょう・。(むしろ、女のほうが同姓に厳しい・・トランプを勝たせたのも反ヒラリー派の女性たちでした)
ぼくの好きな「初恋合戦」のジュディ・ガーランドなんかは、仕事のためにローティーン時代からの愛人であったプロデューサーに、当時は合法的だった覚せい剤の使用を強制され、「オズの魔法使い」の時にはいっぱしのジャンキーでした・・。
余談ですが、ガーランドの伝記映画「Judy」では、レニー・ゼルウィガーが完コピして彼女になりきっているので公開が楽しみです
>「60 Minutes」
おおっ、そうですか。
この番組は最近映画でもよく取り上げられ知っていますが、不覚にも僕は見ていなかったですよ^^;
>異人種間恋愛
劇的なお話の彩に終わってしまった感ありですね。これでは最上等の作品とは言いにくい。
>ラブ・モーションとセクハラを混同してはいけない・・。
仰る通り。
セクハラが問題になるのはパワ・ハラと一緒になる時と考えるべきです。しかし、モーションを掛けたのが実力者であっても、彼とて純粋に恋愛感情でモーションをかけたと考えられる場合もあるわけでは一概にセクハラと断言するわけには行きませんよね。
>ジュディ・ガーランド
彼女のレベルまで行くと、犯罪的です。
>ガーランドの伝記映画「Judy」
おおっ! それは楽しみだなあ。
それによりWOWOW辺りで彼女の特集を組んでもらえるともっと嬉しい。もしあるとしても、この作品の放映時になるでしょうから、随分先ですがねえ。
それですよね・・。セクハラといっても、多くの場合、男性が女性を困らそうとして行う例は少ないでしょうし、たいていは、愛しさゆえに無意識的に言葉や行動に出してしまうことが多いのでしょう。
世間を騒がせたアイドルとJKの顛末も、昔は、高校の教師と生徒が純恋愛し、彼女が卒業後に晴れて細君と・・なんてことも珍しくなかったわけですしね(笑)
>WOWOW辺りでガーランドの特集を
大賛成ですね・・。「ラ・ラ・ランド」人気で昔のミュージカル映画にも火がつけば・・。
ぼくも、ファンでこそなかったけれど、彼らのヒットソングはもちろんのこと、ベトナム戦争に感化されて作ったと思われる「あの人の手紙」など、LP収録曲もたくさん覚えています・・。
特に、伊勢正三のメロディがお気に入りでして、彼が6,7年前、元GAROの大野真澄など、他のフォークシンガーと一緒に群馬でコンサートをやったのを聴きに行きました・・。
大ヒット曲「なごり雪」「22歳の別れ」「海岸通り」等、馴染み深い楽曲のメドレーで群馬アリーナに集ったオールドファンの拍手の数は他の歌手のそれとは一線を画し、ソデで出番を待つ太田広美が出るタイミングが掴めぬくらい鳴り止まなかったです・・。
75年の静岡つま恋でのコンサートには間に合わなかった僕ですが、大人になってから、中島みゆきがサプライズ出演した2006年には万障繰り合わせて行きました。
あ、ぼくは吉田拓郎が「結婚しようよ」でブレイクする前、彼自身恋の歌が多く学生に軟弱と揶揄され、会場で「帰れ」コールが巻き起こっていたころからずっと聴いていました・・。
このアレンジも僕の好きな典型なんですね・・
https://www.youtube.com/watch?v=454GDvnUISc
>世間を騒がせたアイドル
クイズ番組以外のバラエティを見ない僕が唯一見る「鉄腕DASH」が、事件のせいで改変せざるを得ず、大変残念に思っています。
被害者を責めるのは不本意ですが、アイドルとは言え中年男性の家に行ってはいけないです。
浅野さんが引き合いに出した教師と生徒の関係ですが、もう十年以上前のこと、未成年からみの法律で相思相愛なのに教師(女性)側が一方的に有罪になった事件がアメリカであり、「これはおかしいだろう」と思ったことがありますよ。
>かぐや姫
専らステレオで聞くものぐさファンに過ぎませんが。
解散アルバム事実上の二枚組ベスト盤「フォーエバー」は売れましたねえ。何故か家には二枚ありますよ。後年CDで出たベスト「Best Dreaming」より曲数は大分少ないですが、セレクションとしてはこちらのほうが秀逸と思っています。唯一残念と思ったのは、ライブのみの演奏で知られる「置手紙」(詞・曲:伊勢正三)が収められていなかったこと。同じライブのみの「ペテン師」と入れ替えてほしいと思ったものです。
>「あの人の手紙」
反戦歌ですね。フォークの反戦歌は変化球も多いですが、これは面白いと思いました。
>吉田拓郎が「結婚しようよ」でブレイクする前
残念ながら僕は「結婚しようよ」を聞いてから。あの曲は、スライド・ギターですかね、あれが面白くて好きでした。
>アレンジ
「神田川」・・・ロック・アレンジが良いですね。ハード・ロックに特化していない人々のハードな演奏には痺れます。大変新鮮でした。
>コンサート
僕も浅野さんの積極性を見習わないといけませんなあ。
伊勢正三のなかでももっとも好きな曲なのですけどねぇ・・。
群馬でのコンサートでも、持ち時間に歌った4曲の最後に伊勢正三が歌い、絶大な人気でした・・。
♪「ルンルン・ル・ル・ル」といスキャットが洒落ていますね・・。
>「置手紙」
そうなんですよ。伊勢正三の良い面がスーパーに現れた名曲なんですがねえ。伊勢ファンには人気のある曲でしょう。
ビートルズの赤盤に「恋する二人」が入っていなかったのと同じくらいの残念感でした^^
昨日は書き込めなかったのですが、奈良・京都への修学旅行でバスガイドが「加茂の流れに」を歌い始めたので、思わず唱和しました。死ぬまでに京都にはもう一度行きたい! この曲を聴きながら歩きたいものです。