映画評「ライムライト」

☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1952年アメリカ映画 監督チャールズ・チャップリン
ネタバレあり

アメリカ映画の最大貢献者の一人チャールズ・チャップリンは、戦後マッカーシズムの犠牲になって米国を追われ、スイスを終の棲家とした。本作はその前、祖国の英国に戻って作っているが、アメリカ映画扱いとなっている。44年前リバイバルの時に映画館で観て、パンフレットも買った(下の写真)。

画像


1914年の英国、人気の衰えた老コメディアンのカルベロ(チャップリン)は仕事のない日々の憂鬱を酒に紛らせて帰ったある日、アパートの一室でバレリーナのテリー(クレア・ブルーム)が自殺を図ったところに出くわし、救出する。理由は循環的なもので、歩けもしないのにバレリーナなど出来ようかと絶望しているのだが、実は歩けないのは心理に原因があると気づく。カルベロ氏、畏るべし。
 彼は、彼女を奮起させるために再び舞台に立つが、かつての栄光はどこへやら、観客が尽く去るという散々たる結果。しかし、彼がテリーを励ました立場が逆になり、余りに落ち込む彼を元気づけるため夢中でテリーは歩み寄る。かくして歩けることが解った彼女はバレリーナとして認められ、やがてプリマドンナと起用される。
 もはや自分の必要の無くなったことを悟ったカルベロは彼女の前から姿を消すが、欧州での公演から凱旋したテリーは彼を参加させようと慈善的な興行を催し、彼は旧友(バスター・キートン)と共に絶妙な楽器コントをした後彼女の踊りを見守りながら長年の酒依存により発症していた心臓病のために息絶える。

チャップリンとしては「街の灯」(1931年)系列のお話で、当時としても既に古典的な図式であるが、それが良い方に現れ、非常に胸を打つ。映画館で観た少年の時はともかく、ひねくれた初老になった今でも胸を打たれるのだから本物と言うべし。
 特に励ましの関係が逆転するところが巧みに構成されて最もじーんとさせられるが、終盤彼が恐慌に陥ったテリーを叩いた後成功を神に祈る場面も印象深い。結婚を迫るテリーに対するカルベロの大人の対応も感銘的である。

そうした人情噺とは別に、全体の構図を通して、観客の芸能に関する鑑賞力への皮肉も現れている。観客の空気を読むようなそうした鑑賞態度は映画の世評で僕らも日々実感するところだ。また、第二の祖国アメリカを追われ正当な評価を得られないチャップリンの心境が反映されていると考えるのも妥当であろう。この後チャップリンは二作作っているが、実力ほどには取り上げられることがなかった。

初めて観た時(1974年)は、チャップリンと並行して代表作がリバイバルされていたもののバスター・キートンを殆ど知らなかったと思う。現在ではトーキーと共に零落した彼の出る終盤の場面にも盛者必衰の思いにかられ、映画の中味とダブってやはり胸を打たれる。

テリーと親しくなる音楽家に息子シドニー・チャップリンが扮している。また、序盤に最後の妻ウーナ・オニールとの子供三人も。ジュラルディンは一見して解りますな。

ウーナはアメリカ文学史に名を残す劇作家ユージーン・オニールの娘。確か十代の時にチャップリンと結婚している。子供もたくさん設けた。

この記事へのコメント

2018年06月12日 19:24
こんばんは!
何度見ても良い映画ですね。
哀しさと優しさ、笑いが同居する起伏の多い作品です。最近の薄っぺらい作品にはない深みがありますね。
キートンとチャップリンの共演は素晴らしかったですが、アーバックルなども出しても良かった気もします。まあ、重い罪の犯罪者だったので無理だったのでしょうね。

ではまた!
オカピー
2018年06月13日 13:32
用心棒さん、こんにちは。

映画館で観た最初のチャップリンかもしれません。少年の頃、特に感銘しましたねえ。その後一度観ていますが、今回も観て評価は基本的に変わりません。仰るように、良い映画です。

人情の巧い扱い手が少なくなったんでしょうね。チャップリン、デュヴィヴィエ、ルネ・クレール、小津安二郎みたいな。

シネコンに掛からない映画にはまだ良い作品もありますが、当然見る人が少ない。困りますね。少年時代、「ジョニーは戦場へ行った」「スケアクロウ」「ブラザー・サン・シスター・ムーン」などという地味な作品が大ヒットしたものですが。

>アーバックル
いや、彼は戦前に亡くなっていますので、物理的に無理でした。
ハロルド・ロイドも出せばスラップスティックス三人衆で凄いことになったでしょうが、キートンに比べれば零落ぶりはそれほどでもなかったようですね。
2018年06月14日 22:04
こんばんは!

>戦前
おやまあwww
とっくに亡くなっていたんですね。
晩年は寂しく余生を過ごしたのでしょうが、栄光が大きければ影も深かったのでしょうね。

>零落
最後まで輝いて亡くなる方が少ないのでしょう。
映画もスポーツも。

ではまた!

ではまた!
オカピー
2018年06月15日 21:38
用心棒さん、こんにちは。

>とっくに亡くなって
多分太っていたからではないでしょうかねえ。

>最後まで輝いて
1970年代後半以降くらいから、一旦頂点にまで達すると長続きする傾向があり、昔とは違ってはいますね。
郷ひろみはまだよく出てきますし、SMAPも息が長い。売り方の問題が大きいような気がします。彼らは売り方が上手くいった例なのでしょう。
お笑いでもビートたけしやタモリやさんまなど長持ちしています。彼らは才能がありますから、当然ですけど。お笑いは他の分野以上に才能がないと持ちませんね。
実際にはごく一部ですが。
2018年06月16日 18:16
>アーバックル
この人は、女性絡みのスキャンダルが出て干されて、アル中になったみたいですね。「ハリウッド・バビロン」で取り上げられていました。
キートンやロイドは、チャップリンにくれべると無垢で無邪気な雰囲気があって、それがよかったのですが、チャップリンみたいにいろいろな役ができないタイプに見えますね。それもまたいいところでもあるんですが。
オカピー
2018年06月16日 22:16
nesskoさん、こんにちは。

>女性絡みのスキャンダル
強姦殺人容疑ですから、そりゃあ干されます。
昨今のTOKIOやその他の未成年女子相手の事件どころではないです。
淀川さんがよく「デブ君」という呼称で取り上げていましたね。
真相は解りませんが、淀川さんがラジオなどで時々ハリウッド関係者のスキャンダルを話していました。今と違って色々あったようですね。

>キートンやロイド
もろスラップスティックスですから無邪気ですよ。だから、一時、チャップリンより古びないとも言われましたね。
僕はチャップリンも古びないと思っていますが。

この記事へのトラックバック