映画評「君の膵臓をたべたい」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2017年日本映画 監督・月川翔
ネタバレあり

流行は追わないので純文学でも近作は殆ど知らない。況や、YA小説をや。
 が、このYA小説はタイトルが面白いし、新聞で捨てたものではないという評も読んでいたので(題名は)知っていた。
 テーマは死病である。しかし、最近の作品は死そのもので泣かせようという程度の低い目論見は金輪際持たず、その過程で見せようとする。解りきったお話において過程で悲しみを醸成しようというのである。数十年前を考えれば進歩と言える。しかも、本作はそれすら観客に求めない(少なくとも終盤までは)。そこが良い。

高校生の志賀春樹(北村匠海)は病院で偶然、同級生の山内桜良(浜辺美波)が落とした“共病文庫”なるものを拾って、はちきれんばかりに元気に見える彼女が膵臓を病んでいることを知る。死が避けられない難病である。親友の恭子(大友花恋)にも打ち明けない彼女の秘密だが、その時の反応に好感を抱いた彼女は、友達もいない彼と積極的に関わり合うことにし、彼が携わっている図書委員に加わることを手始めに、死ぬまでにやりたいことを彼を相手に次々と実行していく、変な噂の起こるのを彼が嫌がるのもお構いなしに。
 しかし、そのことにより彼自身も他人との関係を少しだけ変化させていく。やがて一時退院した直後に彼女が死ぬ。

ここまでは素晴らしい内容である。何と言っても、膵臓の病気の特徴を踏まえ、彼女が溌剌とし屈託のないのが良い。演ずる浜辺美波の表情と声が絶品で、クラス一地味というにしては美男すぎる北村匠海もそれに呼応して印象深い。
 しかし、まず、彼女の死なせ方がまずい。意外と言えば意外だが、彼女が死ぬのが連続通り魔による凶行というのは気に入らぬ。伏線を敷いているとは言え、ヒロインが死ぬのが解っているのを前提に進める潔い狙いの作品に似合わない、小手先にすぎる捻りと言いたくなる。ここで意外性を持ってきてもドラマツルギー上何にもならない。

全体が回想形式というのも余り有難くないのだが、その結果生まれる、ヒロインの進言により教師になっていた春樹(小栗旬)と、同級生との結婚式を迎えた恭子(北川景子)とが絡むエピソードが蛇足気味で、感心できない。人が生きる意味に関する桜良の考えが非常に胸を打つ後だけに勿体なさすぎる。若い二人の男女優が非常に頑張る本体部分が良いので採点は維持するが、ここの扱い次第で傑作と言える出来栄えになっていたかもしれない。古い言い方をすれば、九仞の功を一簣に虧(欠)く、というやつである。

タイトルにも一言。日本語では「たい」という形容詞的助動詞を他動詞に付けると、動詞に対応する目的語が主語のような外見になる(正確には格助詞が“を”から“が”に変わる)のが本来。近年(と言っても大分前からだが)それを守らない人が増えてきた。「君の膵臓がたべたい」が正しい日本語でござる。

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック