映画評「イン・ユア・アイズ 近くて遠い恋人たち」

☆☆★(5点/10点満点中)
2014年アメリカ映画 監督ブリン・ヒル
ネタバレあり

ニューメキシコの少年ディランが、ニューハンプシャーの少女レベッカがそりの暴走で木に衝突して失神した時、その幻想を見て失神する(という事実関係は後段判明する)。
 20年後すっかり泥棒青年になっていたディラン君(マイケル・スタール=デーヴィッド)は保護司に観察されながら自動車修理工として働いているが、ある時医者フィリップ(マーク・フォイアスタイン)の若妻に収まっていたレベッカ(ゾーイ・カザン)と感応し合い、お互いの見ていることや感じることをそのまま五感に捉え、相対しているように発言を聞き取ることのできることに気づく。
 かくして必要な時に会話を交わしていると、精神治療のトラウマがあるゾーイは「また異常が発症した」と決めつける周囲に苛立ちを覚え、実際に病院に監禁される。それを知って慌てて彼女の許へ駆けつける泥棒知識豊富なディランに教わりながら彼女は鍵を開けて病院を脱出、彼に近づいていく。

抜群とは言えないものの、一応着想の面白さはある。しかし、色々と問題も多い。
 一つは、彼らの会話が一般的に理解されている形のテレパシーではなく、実際に話さないと不可能であること。これにより二人が変人扱いされて、片や仕事を首にされ、片や病院に押し込められることになり、結果、二人が脱出を試みるわけだから、極めて重要な要素と言わなければならない。あのような特殊な能力があるのに一般的なテレパシーはできないというのがファンタジーとして強引すぎて、腑に落ちないものがある。

もう一つはドラマ部分の問題で、ヒロインの夫の扱いが引っかかる。僕は、不倫は人間である証のようなものと考えるので世間一般のような強い道徳的反感を覚えない一方、本作のような大衆的な作品においては彼女の行動を素直に受け入れたくなる夫君の悪役的設定が不可欠である。本作の夫君の対応はあのような状況では一般的な反応の範囲に入るので弱い。そのドラマツルギー上の言い訳がかつての入院でのトラウマなのだが、その辺の説明が足りず、素直に楽しめるとは言いにくいのである。

比較的広い世代で受ける内容と思われるが、やはり若い人の方が受けるタイプ。

ビートルズは♪ペニー・レーンは僕の目に焼き付いている(in my eyes)、と歌ったが。

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