映画評「ベイビー・ドライバー」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2016年アメリカ=イギリス合作映画 監督エドガー・ライト
ネタバレあり

エドガー・ライトという監督は「ホット・ファズ」が面白かったが、映画的感覚という意味ではこちらのほうが大分上を行く。

少年時代の交通事故で両親を失い、自らも耳鳴りに苦しめらる若者ベイビー(アンセル・エルゴート)は、犯罪王ボス(ケヴィン・スペイシー)の計画する犯罪の逃走ドライバー役を務めている。子供時代に彼から奪った麻薬の代償を払って自由になる契約だが、ウェイトレスのデボラ(リリー・ジェイムズ)との恋を進めようと思ったのも束の間、ボスが約束を反故にして再び彼を計画に参与させたことから、チーム関係が崩れることになる。

映画的感覚という点において、昨今のミュージカル映画にも似た長回しから強盗から帰ってきたメンバーたちを乗せて逃走するシークエンスの呼吸が断然素晴らしい。しかもそれが1978年に作られた「ザ・ドライバー」そっくりの構図になっていて、前述作を監督したウォルター・ヒルが声の出演を果たすというオマージュぶり。嬉しいねえ。

さらにいかしているのが、ベイビーが耳鳴りを鎮める為に常時i-Podを聴いているという設定で、これに絡めて幅広いジャンルの音楽がかかり、その選曲もカーラ・トーマス"B-A-B-Y"、サム&デイヴ"When Something Wrong with My Baby"等R&B系に嬉しいものが多い。しかも主人公の呼称に絡めていて楽しく、デボラ絡みでTレックス"Debora"もかかる。クイーンの中でもハードな「ブライトン・ロック」Brighton Rockがあり、最後は題名になったサイモンとガーファンクル「ベイビー・ドライバー」Baby Driverで締めて終る。
 かように主人公が音楽好きという意味ではフランス映画「ディーバ」(1981年)を思い起こさせ、ヒルの「ストリート・オブ・ファイヤー」(1984年)に似ているところもある。

中盤やや調子の落ちるが、終盤の一見甘いところも、聾者や一時的難聴など人間の“聴くこと”ということを使ってお話として実に巧く見せている。

Baby you can drive my car...スターにはならないけどね。

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