映画評「エル ELLE」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2016年フランス=ドイツ=ベルギー合作映画 監督ポール・ヴァーホーヴェン
ネタバレあり

何でも屋ポール・ヴァーホーヴェンとしては「氷の微笑」に近い内容だが、タイプやテイストとしてはいかにもフランス映画っぽい。

ゲーム会社を経営している中年美人イザベル・ユペールは、ある時家に侵入してきた何者かにレイプされるが、警察に通報しない。父親がおよそ30年前に突然28人を殺した殺人犯である為に今でも時々嫌がらせを受けていて、その一つかもしれない。社内で彼女の顔を張り付けたエロ系画面が出回る。犯人の仕業か。この辺りはサスペンスを構成している
 その一方で、ヒロインは親友の夫と情事を楽しんだり、隣の銀行員にちょっかいを出したりする。彼女の母は老いらくの恋をして若い男と結婚をした後脳梗塞で死亡、釈放申請が却下された父親は彼女が面会に行くと連絡したその日に自殺する。そんなある日再びレイプ犯が襲撃してくるが、目出し帽を取ってみると隣の銀行員。それを知っても彼女はその後レイプごっこの情事を楽しむ。しかし、結局それが祟り、そこへ帰って来た息子に銀行員は撲殺されることになる。

「氷の微笑」よりぐっとドラマ寄りの作りで、イザベル扮するヒロインに限らず本作に登場する人物はおしなべて好色度が高いが、作者はそこに男女の区別を付ける。女性VS男性の構図をはっきり示し、一種のフェミニズム映画としている。
 即ち、男性は色情に溺れるだけで情けなく、女性は性欲を力にさえする強い存在という対照が浮かび上がっているように僕は感じる。暴行した末に殺される形の銀行員の妻に「夫(の変態性)に付き合ってくれて有難う」とまで言わせているのだから。男性には当然「女は怖い」という印象を残す。

イザベル・ユペール主演の作品によくあるように、彼女の演技を見る為の映画と言うべし。

ヒロインの苗字はルブラン。少年時代アルセーヌ・ルパンのファンだった僕はその作者モーリス・ルブランを当然思い起こす。ルブランという名は小説でもよく出て来る。フランスではありふれた名なのかな?

この記事へのコメント

2020年02月08日 12:36
ほんとこれはイザベル・ユペールを観るための映画ですね。スリラー、と紹介されていたのでそれを期待して観たら肩透かしを食らう。フランス映画だからといわれればそれまでですが、いつも思うのは、フランスはとにかく女の人がしっかりしていなければならない、という抑圧が日本よりずっと強そうです。だから、ジャンヌ・モローとかイザベル・ユペールみたいな女優が出てくるんでしょうかれども。
オカピー
2020年02月08日 21:28
nesskoさん、こんにちは。

>スリラー、と紹介されていたのでそれを期待して観たら肩透かしを

スリラー要素のあるドラマでしたね。

>フランスはとにかく女の人がしっかりしていなければならない
>ジャンヌ・モローとかイザベル・ユペールみたいな女優が出てくる

フランスでは1970年くらいまで既婚女性は口座を持てなかったらしいですから、現在はともかく、かつて日本より女性は抑圧されていたので、精神的にしっかりしていないとやっていけない国だったのでしょう。
 ジャンヌ・モローは志のある女性の憧憬だったのではないでしょうか?

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