映画評「ブルーム・オブ・イエスタディ」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2016年オーストリア=ドイツ=フランス合作映画 監督クリス・クラウス
ネタバレあり

十年ほど前に「4分間のピアニスト」という注目すべきドイツ映画があった。その作品を作ったのが本作の監督クリス・クラウスである。両者の間にはナチスの記憶という共通項がある。

ナチス親衛隊大佐を祖父に持つトト(ラース・アイディンガー)は、祖父の罪を贖うが如く、ホロコースト研究所での活動に打ち込んでいるが、2年間温めてきた企画“アウシュヴィッツ会議”のリーダーが同僚バルタザール(ヤン・ヨーゼフ・リーファース)に決まったことに憤りが収まらず、二人は大喧嘩をする・・・研究所を率いる教授が倒れたのにも気づかないまま。
 教授の死の後トトはフランスからやって来たユダヤ人研修生ザジ(アデル・エネル)の面倒を見ることになる。彼女は祖母の死に関わるドイツのものを尽く嫌って、トトと半ば犬猿の仲のようになるが、物語が進むにつれ、互いへの嫌悪は裏表の関係であり、個人的には寧ろ親近感を感じていることが判ってくる。
 “会議”へ参加する予定の人物をリガに訪れる二人の旅は相手の死亡で空振りに終わるが、二人は却って急接近、インポテンツの彼が可能になって交渉を持つ。彼女は翌日「女の子を妊娠した」と告げる。しかし、彼が少年時代にネオナチだったことを知って彼女はフランスへ去って行く。
 5年後ニューヨークで、トトは4歳くらいの子供を連れたザジと再会する。トトは3歳くらいの男児と思うが、二人の話を聞いていた養女から「カルミナという名前の女の子よ」と言われ、それがザジの愛読していた神話のヒロインの名前だったことから、自分の子供であると気付く。

ホロコーストと性愛を二大骨格にして進めるというアイデアは珍しいが、狙いは何かと色々考えたくなる。一つは、登場人物を人間的に共感しにくい人物とした設定により、加害者側だから嫌悪を覚え、被害者側だから好感を覚えるとは限らないというシニカルな角度からホロコーストを捉えたいということ。少し細を穿つ見方をすれば、ホロコーストは必ずしもシリアス・オンリーで語られなくても良いのではないか、という提案だったようにさえ感じられる。
 後半は恋愛映画風に傾き、どんでん返し的な幕切れになる。作者は上手く作ったと思ったかもしれないが、自分の子供ではないかと最初から思わないほうが不思議なくらいではあるし、女児を男児と間違えるのもそそっかしい感じで、意外性よりトトの間抜けぶりが目立つだけ。僕には余り感心できなかった。

ただ、かつての“敵同士”の孫の血を引く子供ができるというところに、憎み合ってきた民族の融合というテーマが打ち出されているように思う。今更という感じがないでもないが、そう考えた方が映画的には上手く収斂する。

題名の“イエスタディ”は変でござる。英和辞典の発音記号をよく見てみよう。

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  • ブルーム・オブ・イエスタディ

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