映画評「女神の見えざる手」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2016年アメリカ=フランス=イギリス=カナダ合作映画 監督ジョン・マッデン
ネタバレあり
大衆映画としては今年一番の面白さ。
さて、映画特に洋画を見るお楽しみとしては職業紹介ということがあるが、本作はロビイストの活動に特化している。ロビイストが出て来る映画は何本か見たことがあるが、真っ向からの主題となった作品は初めてではないだろうか。
ロビイスト企業で中核として働いているジェシカ・チャステインが、銃規制法案反対派の議員に肩入れするよう求められたことから頼ってくる部下を連れて独立、マーク・ストロング率いる銃規制賛成ロビイスト企業に加わる。このグループの、特にジェシカの道徳(場合によっては法律)無視の作戦が奏功して賛成議員が増えていく。
ところが、ジェシカの疑わしい議員接待をネタに、銃規制反対ロビイストのサム・ウォーターストンが、次の当選可能性は低いが強い影響力のある保守派の上院議員ジョン・リスゴーを議長に担ぎ出し、その疑惑をめぐる聴聞会を開かせる。
お話は、この聴聞会からシフトする形の回想形式で何度か過去との間で往復するが、脚本の出来が頗る良く、現在が過去の展開への、過去が現在の展開への興味を互いに強烈に喚起し合う。話の単なるきっかけというのではなく、こういう回想形式なら大歓迎である。
最後はどんでん返し。どんでん返しの映画はどんでん返しがあると言っただけでネタばれになる悩ましさがあり、具体的には申さないが、そのどんでん返しの二重性、正確にはそのどんでん返しが持つ多面性に全く感心させられた。即ち、
ヒロインの性格をサイコパスという評価をする人が多いし、僕も目的の為に手段を択ばないマキャベリストと最後まで思っていたが、それが全く違っていた、というのが本作の持つ本当のどんでん返しであるとだけは言っておく。これを書かないと本作の本質を問うことが出来ない。
惜しむらくは展開とヒロインの性格造形が面白すぎて、銃規制という社会派的側面が弱くなってしまった感がある。その一方で、だからこそ、プロバガンダ的にならずに良い後味の作品になったとも言える。結果的に銃規制への思いを強くする人もいるかもしれない。
こんな卓抜した脚本を書いたのは、全くの新人で第一作のジョナサン・ペレラ。監督はジョン・マッデンで、「恋におちたシェイクスピア」(1998年)の好調がフロックでないことを見事に証明する快作に仕上げている。
邦題は、アダム・スミスを気取っている。あれは一種のバランス論だから、本作の内容とは違うと思うが。銃があったから助かった命より、あったから失われた命のほうが圧倒的に多いのは解り切っているのに。日本では私服警官のポケットに拳銃が発見され通報されて大騒ぎになったばかり。
2016年アメリカ=フランス=イギリス=カナダ合作映画 監督ジョン・マッデン
ネタバレあり
大衆映画としては今年一番の面白さ。
さて、映画特に洋画を見るお楽しみとしては職業紹介ということがあるが、本作はロビイストの活動に特化している。ロビイストが出て来る映画は何本か見たことがあるが、真っ向からの主題となった作品は初めてではないだろうか。
ロビイスト企業で中核として働いているジェシカ・チャステインが、銃規制法案反対派の議員に肩入れするよう求められたことから頼ってくる部下を連れて独立、マーク・ストロング率いる銃規制賛成ロビイスト企業に加わる。このグループの、特にジェシカの道徳(場合によっては法律)無視の作戦が奏功して賛成議員が増えていく。
ところが、ジェシカの疑わしい議員接待をネタに、銃規制反対ロビイストのサム・ウォーターストンが、次の当選可能性は低いが強い影響力のある保守派の上院議員ジョン・リスゴーを議長に担ぎ出し、その疑惑をめぐる聴聞会を開かせる。
お話は、この聴聞会からシフトする形の回想形式で何度か過去との間で往復するが、脚本の出来が頗る良く、現在が過去の展開への、過去が現在の展開への興味を互いに強烈に喚起し合う。話の単なるきっかけというのではなく、こういう回想形式なら大歓迎である。
最後はどんでん返し。どんでん返しの映画はどんでん返しがあると言っただけでネタばれになる悩ましさがあり、具体的には申さないが、そのどんでん返しの二重性、正確にはそのどんでん返しが持つ多面性に全く感心させられた。即ち、
ヒロインの性格をサイコパスという評価をする人が多いし、僕も目的の為に手段を択ばないマキャベリストと最後まで思っていたが、それが全く違っていた、というのが本作の持つ本当のどんでん返しであるとだけは言っておく。これを書かないと本作の本質を問うことが出来ない。
惜しむらくは展開とヒロインの性格造形が面白すぎて、銃規制という社会派的側面が弱くなってしまった感がある。その一方で、だからこそ、プロバガンダ的にならずに良い後味の作品になったとも言える。結果的に銃規制への思いを強くする人もいるかもしれない。
こんな卓抜した脚本を書いたのは、全くの新人で第一作のジョナサン・ペレラ。監督はジョン・マッデンで、「恋におちたシェイクスピア」(1998年)の好調がフロックでないことを見事に証明する快作に仕上げている。
邦題は、アダム・スミスを気取っている。あれは一種のバランス論だから、本作の内容とは違うと思うが。銃があったから助かった命より、あったから失われた命のほうが圧倒的に多いのは解り切っているのに。日本では私服警官のポケットに拳銃が発見され通報されて大騒ぎになったばかり。
この記事へのコメント
登場人物の人となりには必要最小限にしか迫らない所が「大統領の陰謀」を思い出しましたが、そんな中、超人的なふるまいのヒロインの造形にあざとさを感じて素直に拍手喝采できませんでした。
ラストシーン。出所した彼女の前には誰か迎えに来てたんでしょうか?少し気になりました。
会話劇でスカッとしました久しぶりに。
いい役者揃えているのに稚拙な内容作の
多い近頃の中ではちゃんとした作りにも拍手。
http://blog.livedoor.jp/vivajiji/archives/52202603.html
>ヒロインの造形にあざとさ
僕の言う「面白過ぎる性格造形」と似た意味でしょう。
しかし、当方は、作為性を認めつつあざとさという感じはなかった。人によって感じ方が違いますねえ^^
どんでん返しを含めヒロインの性格を軸にした作劇で、社会性で押さなかったところに、ある意味、ビックリでした。
>ラスト・シーン
来るとすれば、ヒロインが実は一番信用していたあの若い女性がふさわしいのではないでしょうか。
ありゃ、またURL欄が消えていましたか。vivajijiさんがいらっしゃる前にどうもtタイミング悪く古い映画の訂正等を行うめぐり合わせにあるようです。
>会話劇
あれだけ台詞、それも専門用語が多いのに、非常に解りやすいところも素晴らしかったです。面白かったなあ^^v
gooブログにTB機能が無くなったので、トラックバック代わりにURL入りコメント残します。
>あれだけ台詞、それも専門用語が多いのに
僕は吹き替えで2回目を観ました。目の演技やカット割りのタイミングが楽しめましたね。
そのわけは...
>URL入りコメント
わざわざ有難うございます。
>吹き替えで2回目
Good!
2回目を吹き替えというのは映画の理解を深めるには最適だと、僕は学生時代から思っています。特に本作のように台詞が多いと…。
>2度目の鑑賞は…
面白い趣向でした。
後でそちらへお伺いいたします。
おはなしも、「仁義なき戦い」みたいなノリで、面白く見られました。
フランス資本が入っているせいか、フランスの香りがありましたね。
あのヒロインも、フランス映画の理想の女をアメリカに移植したらこうなりました、みたいな雰囲気。
>ジェシカ・チャスティン一世一代の名演、という印象。
いつもより濃い化粧だったので、最初は誰かと思いましたよ。
>おはなしも、「仁義なき戦い」みたいなノリ
なるほどですね。ロビイスト版だ。
>フランス資本が入っているせいか、フランスの香りがありましたね。
これ、うっかりしていまして、今日までアメリカ胆道映画と思い込んでおりました。おかげさまで気付いたので、トップの製作国名を修正しました。