映画評「グレイテスト・ショーマン」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2017年アメリカ映画 監督マイケル・グレイシー
ネタバレあり

19世紀アメリカの興行師P・T・バーナムの半生を描いたミュージカル映画。

少年時代からの恋を実らせたバーナム(ヒュー・ジャックマン)は、細君チャリティ(ミシェル・ウィリアムズ)との間に生まれた娘たちの為にもと、アメリカ博物館を作るが、失敗に終わる(史実としては、なかなか流行ったらしい)。
 娘たちの“生きた人間が良い”との意見を取り入れた彼は、異形の人々を集め、そこに空中ブランコや動物たちを加えた固定のサーカス団を作る。大衆には受ける一方、上流階級や差別主義的な人々から攻撃されると、劇作家フィリップ・カーライル(ザック・エフロン)を引っ張り込んで演出に当たらせる。
 彼自身高級志向はあって、スウェーデンの歌姫ジェニー・リンド(レベッカ・ファーガスン)をアメリカに招き、これには上流階級も拍手を惜しまない。しかし、歯車が噛み合わないところがあって結局破産、しかも放火によりサーカス小屋は焼けてしまう。
 すると今度はカーライルや異形の人々に励まされ、カーライルの資金で建築費のかからない移動式サーカスを始める。

本来ミュージカルではお話は二の次と考える。しかし、「ウエスト・サイド物語」(1961年)以降本格化したと言って良い、現実的な問題も組み込んでいるミュージカルではお話についても少なからず考える必要が出て来る。
 本作においては、フリークス(異形の人々)への扱いが重いテーマとして浮かび上がる。はっきり言って本作に出て来る人間は全て彼らを差別しているのである。民族差別主義者よろしく排斥しようとしている野蛮人は言うまでもなく、批判ばかりしている上流階級もそうである。喜んでみている観客も観る理由は好奇心。彼らが金を払ってくれると思って集めた興行師バーナムも勿論当てはまる。映画を観て“フリークスを見世物にするなんて怪しからん”と仰る観客もダメである。差別していないと言える人々は、彼らを何とも思わない者だけである。民族差別問題などとはそこが違う。

いずれにしても僕は観ていてすっきりしない気分を持った上に、かかる波乱万丈の物語をしかもミュージカルで処理するに105分はいかにも短尺すぎ、満足できない。
 19世紀中葉らしいクラシックさを欠く美術も不満。楽曲や踊りもそれに応じてモダンすぎるので大いに気に入ったとは言えないものの、なかなか優れたものが多い。

ヒュー・ジャックマンやザック・エフロンは過去の実績通りの実力を発揮。ミシェル・ウィリアムズは彼女らしい存在感を発揮できない役で文字通り役不足(力不足ではないですぞ)だが、歌唱はなかなか。本当に歌っているのかな? 

勘違いしている人がいるが、劇中の評論家が“偽物だ”と酷評しているのはミュージカルではなく、フリークスを見世物にしていること自体である。昨日の「勝手にふるえてろ」で言ったように、ミュージカルの歌や踊りや現実ではなく脳内の出来事(但し、ミュージカル公演を描いているという映画では別であるが、この映画はそうではない)。よって、練習模様を碌に見せないうちに上手くなっているなんて・・・というコメントは変である。彼らは異形の自分をそのまま見せているだけなのであるから。ジェニー・リンドにしても舞台上であの歌を歌っているわけではない。実際の舞台で歌っているアリアを置き換えているのである。

たまに男女優が「役不足ですみません」と言うのを聞くが、これでは「自分は大物なのに役が足りない」と威張っていることになる。力不足という人口に膾炙した言い方があるのに。この間1960年代の時代劇を見ていたらある女優が“たにんごと”と台詞を読んでいた。半世紀前に既に“他人事(ひとごと)”を間違えて読む人がいたのだ。先日視た「ネプリーグ」で”セレブに金持ちの意味は全くありません”と釘をさしていた。よく言った。

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