映画評「ギミー・デンジャー」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2016年アメリカ映画 監督ジム・ジャームッシュ
ネタバレあり

1960年代にガレージ・ロックと言われたジャンルの雄ザ・ストゥージズを歴史を綴るドキュメンタリーである。

若い頃馬鹿らしいまでにシンプルな「ノー・ファン」No Funだけ知っていたが、数年前にこの曲の入ったデビュー・アルバム「イギー・ポップ&ザ・ストゥージズ」(1969年発表)を買い、知っている曲が増えた。今聴きながら書いている。スタイルとしては同じガレージ・ロックの先輩ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(VU)に近い。尤も、デビュー・アルバムはVUのジョン・ケイルのプロデュースでござる。しかし、本作を観ると、このLPに収められた曲を書いたのは彼と知り合う前であるから、元来VU的であったのであろう。

オリジナル・メンバーは、常に上半身裸で客席に飛び込むことで知られるボーカルのイギー・ポップ、ギタリスト(後ベーシスト)のロン・アシュトン、ドラマーのスコット・アシュトン(ロンの弟)、ベーシストのデイヴ・アレクサンダー。
 映画では、主にイギー・ポップとスコット・アシュトンが語る。というのも、アレクサンダーは二枚目のLPの後解雇され、5年後に死んでしまい、ロンは2009年に亡くなるからである。但しロンに関しては少し古めのフィルムで多く登場する。

さて、デーヴィッド・ボウイーのプロデュースで発表された3枚目「ロー・パワー」で新しいギタリストとしてジェームズ・ウィリアムスンが加わった為ロンはベースに回る。ずっと買おうとしているが未だに買えないLPだ。ウィリアムスンは暫くイギー・ポップと活動するが、イギーがソロになった後は電子工学を勉強し、ずっとシリコン・バレーで働くという変わった人生を送っている。スコットが撮影後の2014年に亡くなり、健在のオリジナル・メンバーはイギー・ポップ一人という寂しさ。

といった辺りが編年体で語られる中身であるが、1960年代後半における反体制的な運動としてのロックを音楽自体がよく表しているバンドと思う。彼らのファズを使った歪んだギター音はそれ自体が破壊的であるように思われる。イギーが使う“我々は共産主義者だった”という措辞も面白い。政治的なそれではなく、一つ屋根の下で暮らしたり、貰った金を4人でほぼ平等に分けていたから“共産主義者”なのだ。“著作権なんて知らなかったからね”とも。
 一応彼等の楽曲は全て全員で作ったことになっているが、実際にはロン・アシュトンが中心だったらしく、映画の終盤でイギー・ポップは「自分は曲を作れない」と言っているのが興味深い。

監督はイギー・ポップを大のご贔屓としているジム・ジャームッシュ。さすがに洒落っ気が抜群で、彼らの行動の説明の為に彼らと全く関係のない古い映画やTV番組の場面を随時挿入してニヤニヤさせる。映画としてはそこが一番面白い。

フランスで5月革命の起きた1968年にビートルズは「レボリューション」を発表しているが、反体制的な演奏と題名とは裏腹にそうした左翼的な運動を(直接的には)揶揄して「俺(ジョン・レノン)を仲間に入れるなよ」と言っている。

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