映画評「嘘を愛する女」

☆☆★(5点/10点満点中)
2018年日本映画 監督・中江和仁
ネタバレあり

本作を“ミステリーじゃない、ロマンスだ”と仰る人がいる。しかし、ジャンルについてそう杓子定規に考える必要などない。謎のあるロマンスという理解で良いのだ。

東日本大震災の日に知り合った研修医・高橋一生と5年間同棲している有能なOL長澤まさみの許に警察が訪れる。高橋君がくも膜下出血で倒れ意識不明なのだが、彼の持っていた証明書類が全て偽物だというのである。勿論名前も本物ではない。
 ショックを受けた彼女は、5年間の愛が真(まこと)だったかどうか知ろうと、探偵・吉田鋼太郎を雇う。彼の郵便受けの前で奇妙な行動を取っていた喫茶店の店員・川栄李奈を追及するうち、彼が自分の経験を綴ったと思われる未完の長編小説を発見、これをヒントに二人は瀬戸内海の海岸沿いを旅することになる。旅で彼が灯台の近くに隠していた宝物を発見すると共に、やがて彼を追い込んだある事件に到達する。

というお話の構図は、犯罪のない「シャレード」(1963年)みたいなものである。違うのは、ヒロインが悪党に追われるのではなく、内縁の夫の正体つまるところ彼の愛を追い求めることだ。夫の正体が謎なのだから十分ミステリーの資格があり、その解明の過程で浮かび上がらせようと作者が考えたのが双方の愛情であるわけだが、終盤お涙頂戴に走り過ぎて気に入らない。
 僕など既に過剰なくらいと思っているくらいなのに、その上、余韻などお構いなく、高橋がどうなるのか正確に知りたがる人がいる。しかも“原作を読んでも解らない”などと出鱈目を仰る。解るわけがない。本作が原作であって、小説は本作のノベライズ(小説化)なのだから。そもそも本作の幕切れは両義的な解釈を許すものではなく、画面をよく観ていれば一応の予測はつく。

共同脚本と監督は僕の知らぬ中江和仁。オリジナル脚本の映画が少ない時代だけに意気込みは買いたいが、冗長というより見せ方が凡庸で、意気込みほど面白く感じられない。残念でした。

映画と小説とがある場合、常に小説が映画の原作であると考えるのは大間違い。本のどこかに書いてあるはずで、何ともそそっかしい御仁がいるものじゃ。因みに、僕は「俺たちに明日はない」のノベライズを持っている。

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