映画評「15時17分、パリ行き」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2018年アメリカ映画 監督クリント・イーストウッド
ネタバレあり
ここ十年以上すっかりTVで見る癖が付いているので、クリント・イーストウッドの監督作品を「キネマ旬報」の年間ベスト10発表の前に観ることはまずなかったが、久しぶりに発表前に観られた。私見ではこの作品がベスト10に入るようでは困る。少なくとも21世紀に彼が作った作品の中では一番見応えがない。IMDbでは5.2と極めて低いそして妥当と思われる評価であるが、日本では邦画「劔岳 点の記」同様にスクリーンの外のことで大騒ぎされている(後述)。そして、イーストウッドの監督作品ということで高評価にする理由を無理に作り出しているように感じられる人が多い。日本人は権威主義にすぎる。
2015年8月21日に大陸欧州で起きた高速列車銃乱射(未遂)事件がテーマである。
イスラム過激派の男がトイレで銃の準備をしているのに乗客が気づき、もみ合ううちにフランス系アメリカ人マーク・ムーガリアンが重傷を負う一方で、アメリカ軍人スペンサー・ストーンとアレック・スカーラトスとその友人の学生アンソニー・サドラーが一致協力して犯人を拘束し、並行して重傷者の手当ても行う。英国人サラリーマンのクリス・ノーマンも拘束を手伝う。この四人はフランス大統領府で勲章を授かる。
これが事件のあらましだが、僅か15分の出来事なのでこれだけでは映画にならない為、三人の少年時代から事件までの伝記要素が加えられている。その中でドラマ的に唯一意味があるのは、ストーンが言う“何かに導かれて動いているような気がする”という発言で、つまり彼らのそれまでの行動が数百名が殺されたかもしれない事件を未然に防ぎ犯人を拘束する為にあったと結論づける(キリスト教的な?)運命論に帰される作りになっている。
“スクリーンの外のこと”というのは犯人を捕えた四人や重傷を負った被害者やその妻を本人が演じていることである(その事実には一応吃驚した)。画面のアスペクト比が違う表彰式での実写が再現部分と全く違和感なく続くところにその効果が認められるものの、本人が本人役で出て来る映画は部分的であれば無数にあり、その程度で映画を高く評価するには及ばない。激しいアクションやサスペンスにしろなどとは言わないが、そこに至るまで無名の人々の取り立てて風変わりではない人生航路など見せられても面白いわけがないということである。ドキュメンタリーならいざ知らず、これを劇映画にしようとした企画そのものに無理がある。
既に記したように、ストーンの発言とその軍隊での訓練の一部がドラマ的に意味を成すくらいで、それほど買っていない同じ系列の前作「ハドソン川の奇跡」ほどもドラマとしての結構が整っていない。凡作と言うべし。
“これで☆☆☆を付けるあんたもお人よしだよ”ともう一人の僕が言っている。
2018年アメリカ映画 監督クリント・イーストウッド
ネタバレあり
ここ十年以上すっかりTVで見る癖が付いているので、クリント・イーストウッドの監督作品を「キネマ旬報」の年間ベスト10発表の前に観ることはまずなかったが、久しぶりに発表前に観られた。私見ではこの作品がベスト10に入るようでは困る。少なくとも21世紀に彼が作った作品の中では一番見応えがない。IMDbでは5.2と極めて低いそして妥当と思われる評価であるが、日本では邦画「劔岳 点の記」同様にスクリーンの外のことで大騒ぎされている(後述)。そして、イーストウッドの監督作品ということで高評価にする理由を無理に作り出しているように感じられる人が多い。日本人は権威主義にすぎる。
2015年8月21日に大陸欧州で起きた高速列車銃乱射(未遂)事件がテーマである。
イスラム過激派の男がトイレで銃の準備をしているのに乗客が気づき、もみ合ううちにフランス系アメリカ人マーク・ムーガリアンが重傷を負う一方で、アメリカ軍人スペンサー・ストーンとアレック・スカーラトスとその友人の学生アンソニー・サドラーが一致協力して犯人を拘束し、並行して重傷者の手当ても行う。英国人サラリーマンのクリス・ノーマンも拘束を手伝う。この四人はフランス大統領府で勲章を授かる。
これが事件のあらましだが、僅か15分の出来事なのでこれだけでは映画にならない為、三人の少年時代から事件までの伝記要素が加えられている。その中でドラマ的に唯一意味があるのは、ストーンが言う“何かに導かれて動いているような気がする”という発言で、つまり彼らのそれまでの行動が数百名が殺されたかもしれない事件を未然に防ぎ犯人を拘束する為にあったと結論づける(キリスト教的な?)運命論に帰される作りになっている。
“スクリーンの外のこと”というのは犯人を捕えた四人や重傷を負った被害者やその妻を本人が演じていることである(その事実には一応吃驚した)。画面のアスペクト比が違う表彰式での実写が再現部分と全く違和感なく続くところにその効果が認められるものの、本人が本人役で出て来る映画は部分的であれば無数にあり、その程度で映画を高く評価するには及ばない。激しいアクションやサスペンスにしろなどとは言わないが、そこに至るまで無名の人々の取り立てて風変わりではない人生航路など見せられても面白いわけがないということである。ドキュメンタリーならいざ知らず、これを劇映画にしようとした企画そのものに無理がある。
既に記したように、ストーンの発言とその軍隊での訓練の一部がドラマ的に意味を成すくらいで、それほど買っていない同じ系列の前作「ハドソン川の奇跡」ほどもドラマとしての結構が整っていない。凡作と言うべし。
“これで☆☆☆を付けるあんたもお人よしだよ”ともう一人の僕が言っている。
この記事へのコメント
フツーの人なんだということ、そして3人の関係性を描くにしても、あまりに苦痛…
何でこうなった?
プロフェッサー、ほんと私、劇場で
こんなにイライラ感伴う苦痛を味わったこと
近来、記憶にございませんでした。
ジャージー・ボーイズあたりから
「なんか変だわ」感が、本作にて頂点に。
天国にいらっしゃる監督としての師匠ドン・
シーゲル氏にこんなの観せられるかしら?
お金を出して観に来ている方々、
イーストウッド監督作だから観に行くと
いう方々に、全く不出来な映画だと思う。
>フツーの人
そのテーマ設定自体余り珍しいとも思われず。
>苦痛
映画館では、そう感じるでしょうねえ。
観光のシークエンスでは、折角撮影の名手トム・スターンを使っているのに、ドキュメンタリー風にして、絵面が全く面白くなく、退屈するなというほうが無理。
>ジャージー・ボーイズ
音楽好きですから一通り楽しめましたが、イーストウッドらしい強さがなく、こんな平凡な実話映画をベスト1にしてしまうなんて、最近の映画評論家はちと変ではないでしょうか。
>全く不出来
他の言葉、見当たらず。
クライマックスとなるテロ犯取り押さえの場面まで、そこへの予告のようにちらちら断片を挟みながら、三人の動向を描いたのはうまかったと思います。あと、これ音響がいいんですね。
ドキュメンタリー的再現ドラマというか、ふつうの人がテロ犯取り押さえた、がんばった、えらい、と伝えようとしてるんだと見ました。
>当事者にそのまま演じさせるという強引さ
部分的に自身役で出る作品は結構ありますが、ここまでやった劇映画は初めてでしょうねえ。
演技もまずまずでしたね。
しかし、この手の再現ドラマの弱点として、結果が解っているので大衆映画的に見ようとすると、退屈する可能性が高い気がします。