映画評「肉弾」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1968年日本映画 監督・岡本喜八
ネタバレあり
製作から10年後くらいに観た。意識して初めて触れる岡本喜八作品だった。それ以来40年ぶりの再鑑賞となる。
広島・長崎の原爆投下の後敗戦色濃厚になり、肉弾即ち陸上の特攻隊員にさせられた21歳6か月の“あいつ”(寺田農)は、その前に一日だけ許された休暇を使って花街に出かける。書店の老主人(笠智衆)に忠告に従って筆卸しをするにふさわしい観音様のような美人を探し、漸く女郎屋で数学の勉強をしている女学生(大谷直子)を発見する。俄然張り切るが、彼女は女学生の身で女郎屋を切り回す女将と知ってしょんぼり。しかし、結果的に彼女とは許嫁とも言うべき関係になって、再び営所の人となる。
翌日に本番を迎える日に町に空襲があり、女学生もその他の知り合った人々も死ぬ。部隊の方針展開で彼は魚雷を付けたドラム缶に浮かんで海に出るが、何の成果もないまま終戦を迎える。しかし、23年後の現在(1968年)でも彼は白骨体となって漂流し続けている。
極めて寓意的な戦争戯画で、可笑しい癖に胸に迫る内容に大学生の僕は事実上の最高点と言える点を付けた。それから40年経ってその他の作品も観て多少は経験を積んだ僕の頭にはそこまでの感動はなかったものの、区隊長(田中邦衛)が言葉に詰まったところを先に進まなくなったレコード盤扱いにして見せるところなど、岡本監督らしい茶目っ気が大いに楽しめる。
ただ可笑しいというだけでなく、その可笑し味に彼の反骨精神と怒りが沈潜しているのは言うまでもない。それは終盤彼が遭遇する少年(雷門ケン坊)が暗唱したりその兄(図師佳孝)が無理やり読ませられる修身のまやかし的な文言に対する軽蔑に顕著に表れる。
基軸をなすのは、一種のロードムービーとも言える女郎屋までの道のりで、ここで様々な人々と遭遇して主人公の戦争観を見せ、終った時にじーんとさせられることになる。同時に本編で扱われる挿話の大半が幻想のような現実離れした印象が醸成される次第で、それがカリカチュアとして抜群の面白味に繋がっている。直接的な残忍場面があるわけではないが、上官や修身への揶揄いにより却って戦争への怒りにかられるのである。
1968年現在と戦時中の男性平均寿命の差が21.6歳で、岡本喜八(終戦時21歳6か月)の分身である主人公の年齢が21歳6か月という一致について“数学的には”間違いだなと思った。同じ指摘がAllcinemaにある。しかし、“数学に疎い作者”と指摘する彼には異論を唱えたい。岡本監督がこの二者の数学的に一致していないことに恐らく気付いていて、単に数字の並びの符合を面白がっていることはほぼ間違いないと思われる。自分がぞろ目など数字の並びを非常に面白がる人間だけだからその気持ちがよく解るのである。
雷門“サスケ”ケン坊が懐かしい。あの特徴的な声と喋り方ですぐに分った。今はアニメの子供は尽く大人の女性がアテレコするが、彼のような子供の声優がいても良いと思う。
1968年日本映画 監督・岡本喜八
ネタバレあり
製作から10年後くらいに観た。意識して初めて触れる岡本喜八作品だった。それ以来40年ぶりの再鑑賞となる。
広島・長崎の原爆投下の後敗戦色濃厚になり、肉弾即ち陸上の特攻隊員にさせられた21歳6か月の“あいつ”(寺田農)は、その前に一日だけ許された休暇を使って花街に出かける。書店の老主人(笠智衆)に忠告に従って筆卸しをするにふさわしい観音様のような美人を探し、漸く女郎屋で数学の勉強をしている女学生(大谷直子)を発見する。俄然張り切るが、彼女は女学生の身で女郎屋を切り回す女将と知ってしょんぼり。しかし、結果的に彼女とは許嫁とも言うべき関係になって、再び営所の人となる。
翌日に本番を迎える日に町に空襲があり、女学生もその他の知り合った人々も死ぬ。部隊の方針展開で彼は魚雷を付けたドラム缶に浮かんで海に出るが、何の成果もないまま終戦を迎える。しかし、23年後の現在(1968年)でも彼は白骨体となって漂流し続けている。
極めて寓意的な戦争戯画で、可笑しい癖に胸に迫る内容に大学生の僕は事実上の最高点と言える点を付けた。それから40年経ってその他の作品も観て多少は経験を積んだ僕の頭にはそこまでの感動はなかったものの、区隊長(田中邦衛)が言葉に詰まったところを先に進まなくなったレコード盤扱いにして見せるところなど、岡本監督らしい茶目っ気が大いに楽しめる。
ただ可笑しいというだけでなく、その可笑し味に彼の反骨精神と怒りが沈潜しているのは言うまでもない。それは終盤彼が遭遇する少年(雷門ケン坊)が暗唱したりその兄(図師佳孝)が無理やり読ませられる修身のまやかし的な文言に対する軽蔑に顕著に表れる。
基軸をなすのは、一種のロードムービーとも言える女郎屋までの道のりで、ここで様々な人々と遭遇して主人公の戦争観を見せ、終った時にじーんとさせられることになる。同時に本編で扱われる挿話の大半が幻想のような現実離れした印象が醸成される次第で、それがカリカチュアとして抜群の面白味に繋がっている。直接的な残忍場面があるわけではないが、上官や修身への揶揄いにより却って戦争への怒りにかられるのである。
1968年現在と戦時中の男性平均寿命の差が21.6歳で、岡本喜八(終戦時21歳6か月)の分身である主人公の年齢が21歳6か月という一致について“数学的には”間違いだなと思った。同じ指摘がAllcinemaにある。しかし、“数学に疎い作者”と指摘する彼には異論を唱えたい。岡本監督がこの二者の数学的に一致していないことに恐らく気付いていて、単に数字の並びの符合を面白がっていることはほぼ間違いないと思われる。自分がぞろ目など数字の並びを非常に面白がる人間だけだからその気持ちがよく解るのである。
雷門“サスケ”ケン坊が懐かしい。あの特徴的な声と喋り方ですぐに分った。今はアニメの子供は尽く大人の女性がアテレコするが、彼のような子供の声優がいても良いと思う。
この記事へのコメント
まだ無名だった頃の寺田農の演技が素晴らしかったです。そして、ヒロインの大谷直子が可愛らしかったです。
>小学生の時夏休み前は連日雷にさらされて怖かったですねえ。
雷以外ならば、地震や洪水を怖がる人もいます。住んでいる地域によっていろいろです。
>小椋佳の曲
やはり有名なのはこの曲です!
https://www.youtube.com/watch?v=3uO6fNUaeRE
>戦争や軍隊の序列の馬鹿馬鹿しさ、そして人間の命の大事さを思う作品でした。
その通り。
タモリなど色々な方が仰るように、今新しい戦前が始まっているようです。
実際に戦争になるかどうかはともかく、民主主義を無視した安倍政権以降の独裁的手法は正に戦前のよう。
>まだ無名だった頃の寺田農の演技が素晴らしかったです。
>そして、ヒロインの大谷直子が可愛らしかったです。
これもその通り。
大谷直子は本作と、「ツィゴイネルワイゼン」が代表作でしょうね。
>雷以外ならば、地震や洪水を怖がる人もいます。住んでいる地域によっていろいろです。
僕の家は洪水の心配はありませんが、がけ崩れが怖いですね。
子供の頃の夏休み前に雷が怖かったのは、その中を子供の足では1時間もかかる道を帰らなければならなかったからです。今ならそうなる前に学校が帰すでしょうね。
>>小椋佳の曲
>やはり有名なのはこの曲です!
「さらば青春」は、兄貴のカラオケのレパートリーです。
施設に入ってから固有名詞の度忘れを嘆いていますが、さすがに小椋佳の名前を出てこなかったと言ったのには、こちらもビックリしました。
アルバム『彷徨』の収録曲でもありますね。名曲ゴロゴロのアルバムですが、地味ながら僕が結構好きなのがこれ。
https://www.youtube.com/watch?v=nFKe6e4Frxg
>「肉弾」は記事をUPしてありますので
こちらにあったんですね。失礼しました。
>民主主義を無視した安倍政権以降の独裁的手法は正に戦前のよう。
沖縄の人たちが、それを訴えています。
>「ツィゴイネルワイゼン」
これもまたすごい作品でした。
>子供の足では1時間もかかる道を帰らなければならなかった
オカピー教授も含めて当時の子供たちは逞しかったのでしょう。
今の子供たちだけでなく、若者たちは身体が大きくなったのに精神的に弱いです。同僚の若手もそうです。職場の上司や先輩に対して横柄な態度を取るけれど、外部からの攻撃に弱いです。
>さすがに小椋佳の名前を出てこなかった
ショックを受けますよね・・・・。
>地味ながら僕が結構好きなのがこれ。
聞きました。良い曲です。
>こちらにあったんですね。失礼しました。
ブログ内の検索エンジンを使えば、それなりに出て来ると思います。
余り融通は利かず、文字が少しでも違うと出てきませんが。
>同僚の若手もそうです。職場の上司や先輩に対して横柄な態度を取るけれど、外部からの攻撃に弱いです。
離職して長いので最近の若い人については解りませんが、そうなのかもしれません。
>聞きました。良い曲です。
「木戸をあけて」は小椋佳の自伝的作品のようです。秀才の彼にもそんな時代があったということで、じーんと来ます。
「あいつ」がし尿処理船に曳航されて助かるかと思ったらロープが切れてしまう。気づかない船長。もちろん「あいつ」も。残酷ではあるけど、こういう結末で良かったとも思いました。
>「木戸をあけて」
家出をする少年の曲なんですね。小椋佳自身が少年時代にそんな事を考えたのでしょうか?
>岡本監督がこの二者の数学的に一致していないことに恐らく気付いていて、単に数字の並びの符合を面白がっていることはほぼ間違いないと思われる。
僕も同じ意見です。そして物語の最初に「21.6歳」と言う言葉が出てきた時に思いました。「あいつ」は長生きできなかったんだろうな・・・と。
>名前を忘れていました。すみません。
これは、シーサー・ブログの欠点でして、名前なしには流れないようにしないといけない。なかなか修正してくれない。
>残酷ではあるけど、こういう結末で良かったとも思いました。
同感です。
>物語の最初に「21.6歳」と言う言葉が出てきた時に思いました。「あいつ」は長生きできなかったんだろうな・・・と。
勘の悪くない方なら、そう予想しますよね。
>>「木戸をあけて」
>家出をする少年の曲なんですね。小椋佳自身が少年時代にそんな事を考えたのでしょうか?
自伝的というからには、実際にしたかどうかはともかく、そういうことなんでしょうね。